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33:母の手料理

その日の夕刻、神殿の一角で激しい爆音が響き渡った。


音源は神殿の奥にある厨房。

厨房でありながら爆発・爆風のみに特化した結界を張られた場所でもある。

激しい爆音が響き渡る神殿で、その神殿を守る神殿騎士たちには少しも焦りの色はなくただただ溜息を零していた。


「これから料理をします」

「あー・・・、はい了解致しました」


そんな会話を神殿の主であるイレーネとしたのが半刻ほど前。

その厨房はイレーネ専用ではあるため普段は使われることはない。

神殿にも厨房はきちんと設備されており、料理人も勤めているのだから。


「やっぱりたまに会う子供には手料理を作ってあげたいものよね」


そんな年に一度あるかないかという理由で、神殿内に自分専用の厨房を作ったらしい。

そこまで頻度が少ないのだから子供が来たときだけ厨房を借りればよいのではないかと思うだろうが、それには大きな問題があった。

あの人が料理をすると必ず爆発が起こるのだ。

たとえそれが火も油も使わないような、それこそ切るだけの料理であろうが。

爆発の威力はなかなかのもので、軽く部屋を吹っ飛ばすほどだ。

料理をするたびに厨房を吹っ飛ばされていては料理人たちは仕事にならないのでイレーネ専用厨房が完成した。

それでも壁ごと吹っ飛ばされるのは困るので、「エリク、ここに強力な結界を張って頂戴」などと兄に結界を張らせたらしい。

さすがに結界の維持は自分でやっているらしいが。


後日珍しく疲れた様子の兄が、


「何で母さんは料理をするとき常に魔力を込めてるんだ・・・」


と壁に向かってブツブツ呟いていた。

そんな兄をみた姉がさらりと言った言葉。


「愛情の代わりに魔力込めてみましたってことなんじゃない?」


うん、間違いなくソレだろう。

じゃなきゃ野菜切っただけで大爆発なんて起きない。

しかもかなり盛大に流し込んでいる。それはまるで食材と戦っているかのように。

まぁ俺は一歳になる頃に母から離れて兄と姉と今は亡き父と暮らしていたらしいのでその被害にはほぼ合っていない。

父も俺が三歳になる前に亡くなり、それからずっと兄と姉の三人で暮らしていた。

その頃の兄と姉は十歳ほどだから、その歳で二人で三歳前の子供の面倒をすべてみていたのだからそのときから非凡であったことが伺える。

・・・それには感謝してもしきれない。


そういえば俺が出来る様になるまではずっと料理の担当は兄だった。

まぁあの姉なら包丁でまな板どころか机まで一緒に叩き切るのが目に見えているので仕方のないことか。

・・・って思い返せば、その頃の家事全般全部兄がやっていたような気がする。

うちの家系の女は家事能力の低さは半端ないのかもしれない。



そして今、俺たちの前には色々な料理が並べられている。

料理自体は無事だが盛られている皿は欠けていたりひびが入っていたりと散々な状態だ。


「さぁ召し上がれ」


食事前の感謝の祈りを捧げ終わると、母に促され各自黙々と料理を自分の皿へと取り分ける。

ここにいる人間のほとんどが母の料理がどんなものだか知っている。

レティもさっさと料理を取り分けているので初めてではないようだ。


「おいしそう~!」


知らないであろう一人のヴァイスは嬉々として料理に手を伸ばしている。

そしてもう一人であるライゼはとりあえず取り分けた料理をじっと見つめていた。

・・・まぁ知らなければそんな反応もするだろう。爆発していたし。


そして皆が料理を取り終えたのを合図に料理を口へと運ぶ。

ライゼの伺うような視線に大丈夫だ、と頷く。


「おいしい!おもしろ~い!!」

「ふふ、それはよかったわ。沢山食べて大きくなるのよ?」

「うん!」


どうやらヴァイスには好評のようだ。

確かに味は悪くない。むしろおいしいともいえる。

ただ、やはり普通の料理ではない。ヴァイスが「おもしろい」と称したのもソレが原因だ。

ちらりと隣を見れば、ライゼが意を決して料理を口に入れたところだった。

見た目は誰が見ても普通のハンバーグ。


「んなっ・・・!?」


驚愕の目を見開くライゼ。


「うまい。うまいんだが・・・」


俺はライゼがそれ以上言うのを視線で制する。

それに気づいたライゼはこそっと俺に耳打ちした。


((どうしてハンバーグがプリン味なんだ!?))

((そういう仕様だからだ))


俺は即答し、それ以上の質問を却下する。

あの見た目ハンバーグは食感もハンバーグだがプリン味。

今俺が食べている魚はサラダ味だ。ちなみに匂いはやはり魚。


そう、母の作る料理は爆発するだけでなく見た目と味が一致しないというとんでもないシロモノだ。

それでいて味は悪くないというなんとも微妙な状態。

ちなみに味は毎回違って、以前食べた見た目ハンバーグはコーンスープ味だった。

フェルとターヴィは慣れたもので、堪能していますといわんばかりに、目を閉じて料理を口に運んでいた。食感以外のギャップをなくすための手段だろう。


こんなことになっている理由は、魔力で料理の味を斜め上の方向に変化させてしまっているかららしい。

誰かの母親が「愛情が隠し味なのよ」とか言っていたが、我が家の母の場合は愛情という名の魔力が隠れきれずに前面に押し出されている。


どこまでも普通の母親像からはかけ離れた存在である。

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