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03:旅立ちの朝

何事もなく朝がきた。


見た目だけ可憐な姉の愛の抱擁とかいう朝の挨拶もなく。


訓練と称した兄の襲撃があるわけでもなく。


俺が家を出たのは間違いではなかったとしみじみ思う。




待ち合わせは村の広場。

俺が着いたときにはすでにレティが待っていた。


「おはよう!ルッツ」

「おはようございます、レティ」


昨日の大人しそうなイメージとは全く違うレティがそこにいた。


「一緒に旅をするんだから、堅苦しいのはナシにしましょ!だからルッツも普通に話してね?」

「いや、でも一応依頼主なんだし・・・」

「あたしそういうの苦手なのよね。昨日は父様の前だったから大人しくしていたけど・・・」


そういうレティは昨日のワンピースから一転して動きやすそうな旅服で長い黒髪をサイドで結って活発そうな雰囲気になっていた。


「まぁ・・・そのほうが俺としても有難い・・・かなぁ」

「うんうん。いざとなったらあたしが守ってあげるから」


あははと笑うレティの腰には大振りの剣。


「レティ・・・その剣はもしかして・・・」

「あーこれ?ツヴァイハンダーよ。学校でも使ってるの」

「それって両手剣・・・そんなの扱えるの?」

「これって見た目より軽いから大丈夫」


そう言ってレティはすらりと剣を抜き片手で振り回した。


片手で。


ツヴァイハンダーは決して軽い剣ではない。むしろ重い部類にはいる。

決して普通の女の子が片手で振り回せるようなシロモノではない。姉は除外して。


そして俺は直感した。



レティは姉と同類だ、と。



「とりあえず確認させて欲しいんだけど・・・レティって学生って言ってたけど・・・」

「学生よ?騎士学校の」


レティの剣は飾りではなく、ヘタな冒険者よりよっぽど強いと本能が告げていた。

いくら一人娘で心配だといっても護衛は必要なかったと思います、ルグランさん。


「依頼を受けてくれる人が見つからなかったからしょうがないから一人で行こうと思ってたのよ?一人で2日間も歩くの暇だなぁって思ってたの。よかった、ルッツが来てくれて」


ルグランさん。俺、護衛だと思われていないみたいです。



サンタンドレまではずっと街道沿いを歩くだけ。

馬車が通る為に整備された道だ。

サンタンドレには行った事がないが・・・よく考えれば街もミモレット以外に行った事はない。

冒険者としていろいろどうなんだろうとは思うが。


街道は馬車は通るが本数も知れているので人気も少ない。

魔物が生息している森も離れているので魔物に襲われることもほとんどなく、野党の類が稀に現れるぐらいらしい。


「ねぇねぇルッツ!なんか野盗がいるっぽいんだけど!」


やっぱり俺は運が悪いらしい。

そしてレティはやたら嬉しそうだ。


「ここはあたしの出番よね!ルッツは手をだしちゃダメよ~出したら護衛クビだからね!」

「俺の仕事を全否定する発言はやめてくれ・・・そして発言内容がおかしいことに気づけ」


ざっと見て敵は5人。隠れているつもりだろうが気配でバレバレなのだ。


「学校の実技でゴブリンの群れの真ん中に落とされることに比べたらなんてことないわね」


すらりと剣を抜いて先を見据えるレティ。

ゴブリンの群れって普通50匹以上いるんだが・・・その真ん中って。

騎士の学校って厳しいんだな・・・


「どっせーいッ!」


あまり女の子らしくない掛け声でレティが剣を振るう。

剣からはすさまじい衝撃波が発せられ隠れていた盗賊をなぎ倒した。


念の為だが、レティの剣は普通のツヴァイハンダーであって魔法剣だとかそういうシロモノでない。

決して振るえば衝撃波がでるような仕様ではない。

そして俺が魔道師でもあるからわかることだがレティに魔力はない。まったくのゼロ。皆無だ。


つまりあの衝撃波はレティが剣を振るって起きた衝撃波なのだ。

ホンキで護衛が必要なレベルじゃないぞ・・・どんだけ親バカなんだルグランさん。



後で知った事だが、ルグランさんの依頼を誰も受けなかった理由。

それはレティが有名すぎるからで、いざ激しい戦闘になった場合初級の冒険者などその衝撃に巻き込まれてただじゃすまないということだった。

騎士学校でも主席の将来有望視されている期待の新人でゴブリンの群れの実技もレティのみの特別仕様だった。

やはり姉と同類で間違いなかった。


野盗も相手が悪かったとしか言いようがない。

そんなワケで俺は何もすることなく野盗は討伐されたのだった。


「ルッツ、あそこ・・・子供がいる」


レティが指差した先には小さな子供。まだ5・6歳といったところか。


「まったく気配がないってどういう子供だ・・・」


その子供はまるで自然の一部といったようにまったく気配がなかった。


「それにすごい綺麗なシルバーブロンド。なんかルッツに似てない?」


子供と俺を交互に見比べながらレティが言う。

確かに俺はシルバーブロンドだが・・・似てるといわれてもピンとこない。


「とにかくこんなところにほっとけないから一緒に連れて行こう!」

「まぁほっとくわけにもいかないが・・・その子供・・・普通じゃないだろ」


あからさまに怪しいんだが。

悪意は感じられないがとにかく怪しい。


「ほらールッツ、置いていくよ?」


振り返ればすでに子供の手を引いたレティが歩き出していた。

不用心すぎるだろ・・・


「にーちゃ、いこー」


子供に手を差し出された。

レティとエセ親子のように子供と手をつないで先に進む。


子供の名前はヴァイスというらしい。

なんかどっかで聞いたことがある気がするし、この微妙な気配もどこかで会った事があるような気がしたが思い出せない。

それ以前にあの特殊な兄と姉から解放されて喜んでいたはずなのに、仕事で出会ったのが姉の同類という事実のほうが俺には重要だった。



「類は友を呼ぶんだよ」


そんな兄の声が聞こえたような気がした。

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