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29:手合わせ 2

ターヴィとレティの手合わせはレティの圧勝という形で終わった。

その結果に満足したような表情で母がこちらを振り返る。


「それじゃ次はルッツの番ね。レティシアに全力で呪文を放ちなさい」

「は?」

「魔道師にも対抗できるということも証明しないと心配は残るでしょう?」


唐突に告げられ、今度は俺が呆然とする番となった。

しかし攻撃魔法なら俺よりも適任者がいるはずだ。

その適任者を振り返れば、こちらが尋ねるより先に答えが帰ってきた。


「俺がやると広範囲の範囲魔法になるから絶対巻き込むと思うけど?」

「あー、それもそうか・・・」


兄は加減というものが苦手だ。

基本的に扱う魔法は広範囲高火力で、結界なしでは辺りに甚大な被害を及ぼす。

確かに手合わせとして人に見せる目的で魔法を使うということには向いていないだろう。

見た目も派手なものが多く、爆発なんてあたりまえで視界を遮られるものが多い。

その状態ではっきりと何が起きているのかを見極めることは難しい。


広範囲高火力に特化という偏った兄よりはその場に応じて呪文を使い分けられる俺のほうがこの場は適任なのは明らかだった。

しかたなく今度は俺がレティと向かい合う。

魔術師に対抗できると示す事が目的なのだからそこまで強力なものでなくていいだろうと思いつつも一応確認をとる。


「ちなみにどの程度の威力の魔法を使えばいいのですか?」

「ピンポイントで高火力なもの。純粋な魔力攻撃・・・聖雷破(ハイリッヒ・ドンナー)あたりがいいわね」

「上級呪文じゃないですか。さすがにそれは・・・」

「いいからやりなさい」


いくらなんでもそれはやりすぎだろうと異議を唱えようとするが、それはぴしゃりと遮られる。

聖雷破(ハイリッヒ・ドンナー)・・・まともに食らえばただで済むはずがなく、普通の人間が受ければ死に直結するような呪文だ。

フェルのような魔力の鎧を纏っているわけでもなく、ヴァイスのように魔力抵抗が高いわけでもなさそうだ。

レティからはまったく魔力を感じられない。それは自分を守る結界を張ることもできないということ意味する。

レティが魔法による攻撃から身を守るには避けるしかないだろう。

まぁレティのあの身体能力なら可能なのだろう。・・・姉の様に。


「はぁ・・・、わかりました」

「ごめんね、ルッツ」

「そうだわ、エリク。あなたはあちら側に」

「・・・あぁ、そうですね」


母に促され兄がレティを挟んで俺と反対側へと回る。

その行動にどんな意味があるのかはわからないが、諦めに似た気持ちで呪文を唱え、放つ。


聖雷破(ハイリッヒ・ドンナー)!」


威力は高いがいわゆる直線攻撃ともとれる呪文。

俺の手から放たれた呪文はバチバチと青白い閃光を放ちながらレティへと襲い掛かる。


姉のように叩き切るか避けると思い込んでいた。

レティが避けた時に被害を受けるのは兄なので威力も抑えなかった。

しかしレティはその場から一歩も動かない。動こうとする様子すらない。

脳裏を掠める最悪の事態。


あっという間に呪文の青白い光がレティを包む。

少し焦げたような臭いがして、続いて兄の悲鳴が聞こえた。

兄はどうでもいいがレティはどうなったのか。

レティに直撃したと思われる瞬間に光が強くなったこと。

少し焦げた臭いがしたこと。

それが呪文がレティに当たった事を物語っていた。


「ねーちゃ!」


ヴァイスの叫び声が遠くで聞こえた。

息が詰まってうまく呼吸ができない。

呪文を放ってから光が収まるまでは実際は一分もかかっていない。

しかしその短い時間がとてつもなく長く苦しく感じられた。


「眩しかったぁ・・・。やだっ服焦げちゃってる!」


長く苦しい時間を打ち消したのは思いのほか明るく元気そうなレティの声だった。


レティの言うとおり、彼女の着ている服の腹部が黒く穴が開いている。

焦げた臭いは彼女の服が呪文によって焦げた為に発生したものだろう。

しかし穴から覗くのは彼女の綺麗な白い肌。


「あーっ!背中にも穴が・・・」


体を捻って自分の腰部分の服を引っ張りつつ確認しているレティ。

彼女服の腰部分には腹部同様に黒く焦げ、穴が開いていた。

それは呪文が彼女の腹部を貫通したということに他ならない。

しかし彼女の腰も、腹部同様綺麗な白い肌で焦げた様子など微塵もない。


レティは魔力がないのだから回復呪文が使えるわけでもないし、この場にいる他の誰かが使った様子もない。

つまり彼女は呪文の直撃を受けたが、無傷だということ。

しかし魔力を込めて作られた普通の服よりずっと剣にも魔法にも耐性がある騎士服が焦げ落ちる威力を受けて、かすり傷ひとつ無いというのは普通ありえない。


驚愕の表情を浮かべる俺を見て、母はそれはそれはうれしそうに微笑んでいた。

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