27:白い世界
「さて、それじゃあエリク。どこか他からの干渉がない場所へ転移させてくれる?」
「干渉がない場所ですか・・・」
「ここでもよいのだけれど、さすがにちょっと手狭なのよね」
俺の醜態の事などすでになかったことのように話す二人。
今の俺では二人には適わないがいつか絶対見返してやろうと心に誓う。
かなり負け犬っぽい決意だが今の俺の実力では適わないのが現実なのだからしかたがない。
「・・・うん、あの場所がいいかな。それじゃあ転移させるから、俺の周りに集まってくれる?」
どこかいい場所を思いついたらしい兄が皆を自分の周囲に集める。
いつもならこの程度の距離にいるこの人数ぐらいならそのまま転移させてしまうのだが・・・ここから距離のある場所にでも転移させようとしているのだろう。
普段はあまり詠唱もしない兄がブツブツと小声で詠唱し、呪文を唱える。
それは聞いたことのない言葉で構成された呪文だった。
床に激しく光を放つ魔方陣が現れ、兄が力ある言葉を発した瞬間さらに激しく光を放つ。
光の洪水とでもいうような光に包まれ目を開いていられなかった。
「さぁ着いた。もう目を開けても大丈夫だよ」
兄の言葉に促されゆっくりと目を開くと、俺達は見たこともない場所にいた。
あたり一面に広がる白・白・白の景色。
足元も空も、すべてが白。
見渡す限り何もないその場所は地平線すらわからないほど白一色の世界だった。
白い世界にぽつんと俺達だけが立っていた。
「兄さんここは・・・?」
「んー、企業秘密」
ふふ、と人差し指を口元にあて、兄が微笑む。
どうやらここがどこだか教える気はないらしいことが態度でわかる。
「ここって・・・」
「あら、エリクったらここに転移する魔法が扱えたのね」
「うわぁ・・・どこまでも真っ白な世界ですね、フェル様」
「うむ、なかなか興味深い場所だな」
若干2名ほど・・・母とレティはここがどこだか知っているようだった。
母はともかくとして何故かレティが知っているのかが気になるところだ。
見渡す限り白い何もない世界など見たこともなければ聞いたことすらない。
しかし母の様子からとんでもない場所に転移したらしい、ということだけはわかる。
「この場所なら暴れても問題ないけれど、長くは留まれないわね。さっさと用事を済ませましょう」
「用事というのは何故護衛が必要ないと思われるか、ですね?」
「ええ。同じ騎士同士、手合わせしてみるといいわ」
「しかしイレーネ様。彼女はまだ騎士になったばかりなのでは?ターヴィはこれでも一応近衛騎士ですから・・・」
やんわりと止めるよう声をかけるフェルだったが、もちろんそんなものを母が聞くわけもなく。
「いいからおやりなさい。手加減も無用です」
「はい・・・」
にこやかに命令され、もちろん断れるはずもないターヴィはあきらめのため息を漏らしつつ皆から少し離れた場所に立つ。
「レティシアさん、そういうわけですのでお手合わせ願います」
「はいっ、こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をしてレティがターヴィと向き合う。
ターヴィはの人間が離れた事を確認すると、すっと腰に携えていた剣を抜き、構える。隙の無いその姿はさすが近衛騎士といったところだろう。
レティも背中に背負った剣を抜き構える。そう、腰に携える事の出来ないサイズの剣を。
「なぁルッツ。レティを見てると誰かとイメージが被るんだが・・・」
「これからもっとそのイメージの被りが酷くなると思うぞ」
「・・・同類か」
フェルがぽつり、と呟く。
ターヴィが構えているのは一般的なロングソードで片手剣。
レティが構えているのはツヴァイハンダーで両手剣。もちろん重そうな様子は欠片も見られない。
ちなみに姉のティアナが扱うのは自分の身の丈よりも大きな剣。
両手剣は姉ほど極端ではないにしろ一般的に女性が扱うことは稀だ。
ちらりと視線をターヴィに向ければ、困惑の表情を浮かべたターヴィ。
一方のレティはやる気満々、といった様子だった。