25:運命の姫
「特別というのも気になるが・・・レティ、その瞳の色は・・・」
「あー、コレはね・・・」
すっとレティが自分の瞳の下に手を添える。
レティが口を開きかけたその時、母がレティの言葉を遮るように前へとでる。
「先に自己紹介をしてちょうだいね?」
「あ、はい」
母に促されレティが一歩前へ出る。
母の顔に浮かぶのはにんまりと表現されるのがぴったりの笑顔。
「ぼくねーちゃのことしってるよ?」
「ふふっ白き竜の子、後ろの王子様達は彼女の事を知らないのよ。それに・・・ふふふ」
「母さん、笑顔が気持ち悪・・・・・」
ヴァイスに微笑みかける母の笑顔がすさまじかったのでつい本音が漏れる。
もちろんその瞬間、どこからともなく母が取り出した錫杖で殴り倒された。
「さぁどうぞ」
地面に沈んだ俺を無視して母がレティを促す。
「あ・・・はい」
ちらちらとレティがこちらを気にしているが、俺がその場に座りなおして大丈夫だと手を振ってみせると小さく頷き一呼吸おいて顔を上げる。
「はじめまして、片瀬菜月です」
レティが口にしたのは聞きなれない響きの名前。
「カタセ・・・ナツキ・・・・・?」
「あっ、ナツキのほうが名前で・・・」
レティの言葉を復唱する。
聞き覚えのない名前。レティシア、それが彼女の名前だったはずだ。
レティは一呼吸置いて言葉を続ける。
「この世界での名前はレティシア=ルグランといいます。レティ、と呼んでください」
「この世界・・・?」
この世界での、とはまるでレティがこの世界の住人ではないというような言い方だった。
この世界の人間にはありえない黒い瞳。
しかしレティがこの世界の住人ではないのであれば納得がいく。
「初めましてレティ。私は第二王子のフェルディナンド。ルッツとは幼馴染だ」
「私はフェルディナンド王子付きの騎士のターヴィです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺の横でフェルとターヴィが簡単に挨拶を交わしていた。
ヴァイスは不思議そうな顔をしながらぴったりとレティにくっついていた。
「イレーネ様、彼女が特別だというのは・・・」
「彼女がこの世界の人間ではなく、異界からの旅人だということよ」
「しかしイレーネ様、異界の旅人とはいえ過去にも前例があるのでは?」
「えぇ、そうね。でも・・・」
ターヴィの問いに母が答え、それにさらにフェルが尋ねる。
フェルの言うとおり、異界の旅人は良くある事ではないが、過去前例がなかったわけではない。
数十年に一度ぐらいのペースで確認されている。未確認を含めればさらに数は増えるだろう。
記録によると異界の旅人達はそれぞれの世界の知識を生かしこの地で生活をしていたらしい。
ある者は学者として成功し、またあるものは料理人となり成功を収めたという。
しかし王に謁見などすることはあっても、レティのように神託の巫女に特別だと言われるようなことはなかった。
つまりレティの場合は・・・
「レティの場合は神託があったということですね?」
「そう、『運命の姫』が現れるとね」
予想通り、というべきだろう。
神託で運命と言われる存在、つまりそれはこの国に深く関わるとされる存在となる。
「彼女は国に保護される存在だということですか?」
「そうなるわね。但し彼女がそれを必要とするならばだけど」
「彼女の立場ならば城で保護されることになるのでは?」
どう国の運命に関わるのかは不明でもレティは国の重要人物という立場だということ。
それは紛れもない事実。
レティが普通の少女であったならば城で保護され姫同様に過ごす事になるのだろうが・・・
それならば近衛騎士のターヴィが知らなかったというのが不自然だ。
「この国の中に彼女を狙う不届き者がいるのよね」
「それこそっ!我々が彼女をしっかりと護衛すべきでは・・・!」
真面目なターヴィが声を荒げる。
どんなに良い国だろうが不穏分子は必ずといっていいほどどこかに存在するものだ。
すべての人間が満足することなどありえない。
満たされれば欲が出る欲深い人間がいる。
「城にも彼女を狙うものがいるということですか。しかし騎士も無能ではない。狙うものがいても外で生活するより安全では?」
「私もそう言ったのだけど・・・」
ターヴィ達騎士を庇うように母に質問をするフェル。
なんだかんだと言いつつフェルはターヴィを信頼している。
「レティシア、王子様もこう言ってるし城で過ごしてみたらどうかしら?」
「遠慮します」
レティに即答されてターヴィががくりと床に膝を付いた。