23:再会の朝
ベットから起き上がり、ぐっと伸びをしてから上着に腕を通す。
カーテンを開けば部屋に朝日が差し込む。
今日も天気はよさそうだった。
ヴァイスとライゼはまだ夢の中。
口元をもごもごと動かして幸せそうな寝顔のヴァイスは普通の子供にしか見えない。
「二人とも起きろ。朝だぞ」
「んっおはよー、にーちゃ」
「おはよう、ヴァイス。ライゼは・・・」
「うー・・・体中が痛い」
目をこすりながらヴァイスが起き、ライゼはベットの中で唸る。
しっかりと昨日の魔法の反動がでているようだ。
「その様子だと今日は動くのは無理そうだな。ま、一日休んでいればかなり楽になるはずだ」
「う・・・」
「大人しくしてろ。食事は適当に枕元に運んでもらえるように頼んでおくから」
「・・・・・」
こんな時の一番の回復方法は休養を取ることだ。
かなり不機嫌そうにぶすっとしたライゼだが、動くのはかなりつらそうな様子で上体を起こすことすら出来ないでいる。
サイドイッチの類ならば行儀は悪いが寝たままでも食べられるだろう。
「ほらヴァイス、上着を着て。すぐにお迎えがくるから」
「おむかえ?」
「ほら、来たようだよ」
言い終わると同時にドアがノックされる。
「おはようございます、ルッツさん。お食事の用意が出来ていますのでご一緒願えますか?」
「わかった、すぐに出る」
ドアの向こうから聞こえたのはターヴィの声。
メイドではなくターヴィが迎えに来たということは・・・
予想通り案内された部屋は王宮の奥にある、主に国賓が通される広間だった。
長机の先に座っているのは王子スマイルを浮かべたフェル。
「やぁ、よく眠れたかな?」
「うんー」
「それはよかった。それじゃあ一緒に朝食を食べようか」
「わーいごはんー!」
「どうぞ、こちらの席におかけください」
いつの間にか控えていたメイドさんに促され席に着く。
ターヴィはフェルの後ろに控えていた。
「ところでルッツ。客人はもう一人いたと思ったのだけど?」
「あぁ、昨日ちょっと無理させたからな。魔法の反動で寝込んでるから後でサンドイッチでも持っていってやってくれないか?」
「それは構わないが・・・やはりエリクの弟だな」
「どういう意味だ」
「大丈夫だと思ったら容赦がないところとかだよ」
失礼な話だ。
ライゼの場合は体力回復の為の魔法であって決して命に関わるようなものではなかった。
それに比べて兄の場合の俺は瀕死の状態になったのだ。
「全然違うだろ」
ちょうどそこへ朝食のパンが運ばれてきた。
俺は釈然としない気分をまぎらわすようにばくりとパンを頬張った。
「程度が違うだけでやってる事はそっくりなのになぁ」
「ですねぇ」
フェルとターヴィが可哀相な子を見るような目でこちらを見る。
隣では俺の真似をしてパンを頬張ったヴァイスがパンを喉に詰まらせてしまい、慌ててミルクを飲ませ流し込ませる。
ヴァイスが落ち着いたところでターヴィに声をかけられた。
「子供は思ったより大人を見ていて、真似するんです。気をつけないとダメですよ」
「そうだな・・・」
「ヴァイス君、食べ物はゆっくりよく噛んで食べなくちゃダメですよ」
「うん、ごめんなさい」
「ぷっ・・・ルッツ、やけに素直じゃないか」
フェルが肩を震わせつつ笑いを押し殺す。
そんなフェルを振り返りターヴィがため息をもらす。
「フェルディナンド様、素がでてます。いくら幼馴染とはいえメイドたちの目もありますから、王子らしく威厳を保ってください」
「こほん、そうだな」
「イレーネ様もお待ちなんですからね。忙しい方ですから、約束の時間は守りませんと・・・」
「そうだったな。ルッツ、悪いがイレーネ様の都合でこの後すぐの面会だ」
「わかった」
それからは他愛もない思い出話などして食事を終えた。
食事の後案内された王宮の奥にある神殿。
入れる者は一部の限られた者だけの神聖な場。
その中心には奥の祭壇を見つめているのだろう、こちらに背を向ける形で一人の女性が佇んでいた。
「イレーネ様、ルッツ様をお連れしました」
ターヴィが膝を付いて礼の姿勢をとる。
「ターヴィ、ご苦労様でした」
「はっ」
女性は向きを変えることなく答える。
それでも再び頭を下げてターヴィは後ろへと下がり、変わりに俺とフェルが前に立つ形となった。