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20:聖誕祭の思い出 1

「それにしてもルッツさんは何故この時期に王都へ?今まで聖誕祭の時は絶対に来なかったじゃないですか」

「いや、初回だけは参加してたはずだぞ。確かエリクのファンに殺されかけたんだったよな」

「あれは・・・思い出したくもないな」


フェルの言うとおり、七年前まだ幼かった俺は初回の聖誕祭に参加した。




聖誕祭の正式名称は『勇者様生誕記念祭』というとても痛々しいものだったが、当時の俺は勇者と呼ばれる兄と姉をとても誇らしく思っていた。

その為王様に聖誕祭に招待された時は喜んで王都へ来たのだった。


祭りのメインは勇者である二人のパレード。

集まった民衆に手を振るというもので、俺も何故か馬車の後ろに乗せられて一緒にパレードに参加させられた。

勇者と王宮関係者のなかにぽつんといた子供はかなり違和感があったのだろう。

あの子供は何者だ、と人々の間で話題になったらしい。

別に隠しているわけでもなかったので弟だという事はあっという間に広まった。


「勇者様方の弟?それにしては似ていない・・・」

「なんかパッとしない弟さんね」

「あの髪、まるで白髪のようだね」


そんな中傷じみた言葉なども、言っている本人は小声で言っているつもりだろうがしっかりと耳に届いていた。

けれどそんなことは気にならなかった。

昔から兄と姉は優秀すぎるほど優秀で、いつも陰で比べられているのを知っていたから。


違った事は二人に熱狂的なファンというものがいたということ。

そしてその存在をその時初めて知った。


姉のファンは大半が男性で直情型が多かったので俺に被害はほとんどなかった。

兄のファンはほぼ女性のみで、いかにして自分をアピールするのかと躍起になっている者が多かった。


勇者と呼ばれる兄に一般市民が直接会う事は難しい。

そこで比較的簡単に会う事の出来る俺を利用しようとしたんだろう。

城下に買い物に出てすぐに、大勢の女性に囲まれた。


肉食獣に狙われる草食獣の気分とでもいうのだろうか。

口元は笑っていても目が笑っていないおねーさま方に囲まれて生きた心地がしなかった。

腕を掴まれ、服を引っ張られる。


「ルッツ君よね?王都案内をしてあげるわ!」

「あら案内なら私が!」

「いえ私が!」

以下略。


そのうち誰かが誰かの髪を引っ張っただとか、どんどんヒートアップしていくおねーさま方。

取っ組み合いの喧嘩に発展したその時。


づどんっ!


ヒートアップしすぎた誰かが放った呪文が炸裂した。

突如出現した結界の中で、だが。


「うーん、さすがにこの状況でコレは危ないですよ?」


声の主に気付いたおねーさま方から黄色い悲鳴があがる。

そこにいたのは杖を片手に軽く構えた兄。


「エリク兄さん・・・」

「ティアナがルッツが迷子になっているんじゃないか心配だから見に行けってね。迷子にはなっていなかったようだけど・・・来てよかったよ」

「あの、エリク様・・・私達・・・・・」


おねーさま方の間に今の失態を見られてしまったという動揺が走る。

そんなおねーさま方にくるりと振り返り、にっこりと微笑む兄。


「皆さんはなかなか王都に馴染めない弟を歓迎しようとしてくれていたのですよね?ありがとうございます。弟の案内は私とティアナでしますから、どうぞ心配なさらないでください」

「はい・・・」


柔らかいが有無を言わせぬ口調。

穏やかだが冷たい印象の笑顔。

俺以外に兄の笑顔にそんな印象を持つものはいなかったようだったが。


「兄さん・・・?」

「また人が集まってきたね。とりあえず戻ろうか」


見回せば先ほど俺が囲まれていた時より遠巻きに人だかりができていた。


「それでは皆さん、失礼します」


兄が再び微笑んで、手にした杖で地面とトンと突く。

転送用の魔方陣が展開されてあっというまに俺達は王宮の中庭へと移動した。



「はぁ、まさか結界魔法すら扱えなかったとは・・・」


盛大なため息をつきながら兄が再び杖でトンと地面を突く。

そこから一気に結界が展開される。


「兄さん?」

「ルッツは魔力の流れが見えるんだから魔法を扱う素質は十分にあるはず。鍛錬しようか」

「へ・・・?」


その時の兄の笑顔は本物だったのだろう。

いつも以上に無駄に輝いていた。

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