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18:使者の正体

馬車は王家のものだけあって、揺れもほとんどなくクッションもふかふかで快適だった。

ヴァイスは幸せそうな寝顔で夢の世界へと旅立っている。


「もう少しだけご辛抱くださいね」


使者の男がヴァイスをささえるライゼに声をかける。

ライゼは無言で頷いた。


聖誕祭を控えた王都には人で溢れかえっていて馬車もあまり速度をだせないでいたが、王城に近づくにつれてだんだん人の姿も少なくなっていき、馬車も本来の速度を取り戻しつつあった。



王城の敷地に入る少し手前にある堀に差し掛かった時、強い魔力を感じて窓の外を見れば、迫り来るのは大きな火球。


「あれは新手の歓迎ってやつか?実は新型の花火とかでさ」


使者の男に尋ねる。


「そんなものは聞いていません。明らかに攻撃じゃないですか?」


こんな状況だが男に焦りの様子は見られず、ゆっくりと優雅に立ち上がった。

俺も呪文を唱えつつ立ち上がる。


装甲障壁(パンツァー・シルト)!」


火球と馬車との間に魔力の盾を展開する。

目前に迫っていた火球は盾に阻まれて霧散した。


「さすがですね」


使者の男はそう言うとひょいと窓から馬車の外に飛び出した。

慌ててその後を追い外へと出る。


「おいっ・・・!」

「ライゼはそこにいろ!ヴァイスから離れるなよ!」


置いていかれたライゼが叫ぶが、未だにぐっすりと眠っているヴァイスをそのままにするわけにもいかず馬車に留まらせる。

それにあの男の正体が俺の予想通りだとすると、この場に残るほうが安全だろう。



男は馬車の屋根の上に立っていた。

俺も男を追って馬車の屋根へ立つ。


「やれやれ、面倒だね」

「その言葉そっくりそのままお前に返すよ」


くるりと振り返った男の口元はにやりと不敵に微笑んでいた。

辺りには複数の襲撃者達の気配がある。

面倒だがヴァイスとライゼを守らなくてはならないので相手をするしかないだろう。


「しょうがない。付き合ってやるよ」

「それは光栄」


その瞬間男の背後に多数の影が現れ飛び掛ってくる。

それに合わせて俺は唱えていた呪文を解放させた。


空弾舞クーゲル・ロンド!」


魔力によって生み出された複数の空気の塊。

威力は弱いがある程度それぞれにコントロールが効くので使い勝手はよい呪文だ。

塊を操って使者の後ろに現れた襲撃者を叩き落す。

しかし強いパンチ程度の威力なので牽制にしかなっていないだろう。


「はは、見事だな」


心底楽しそうに男が笑う。

しかし今叩き落した襲撃者達の狙いの先にいたのは、今目の前で笑っている使者の男。

予想が確信へと変わる。


ヤツのわざとらしい言動に思わず漏れるため息。


「あいつらの狙いはお前だろ、フェル。あとは自分でなんとかしろ」

「何だ。バレてたのか」

「それにその御者、ターヴィだろ」


ちらりと眼下の御者に視線を向けると、御者の男は心底驚いたようにぽかんとこちらを見ていた。

しかしすぐに落ち着きを取り戻しがっくりと肩を下げた。


「はぁ、俺もバレてましたか。しかたないですね」

「御者がそんなゴツイ剣を持ってるはずないだろ」


御者を勤めていたターヴィが馬車を停止させ、脇に置いてあった剣を手に取る。

護身用にしては大きすぎる剣で御者が持つには違和感がありすぎる。


「そりゃそうですね、騎士の剣ですし」

「ちっ、つまらないな」


フェルが舌打ちをして被っていた帽子を投げ捨てる。

帽子の下から現れたのはやはり見知った男の顔。


「それではいきますよ」


御者の格好で騎士の剣を構えるという妙な姿のターヴィがフェルに声をかける。

面倒そうにフェルが顔を上げた。


「これってお前の仕事だと思うんだけどなぁ」

「自分で撒いた種は自分で回収するべきです」

「はいはい」


一見頼りなさげな騎士のターヴィと一見優男風のフェル。

そんな二人が襲い掛かる敵達を次々と、それはもうあっさりと倒していく。

ターヴィは剣、フェルはその拳で。


ターヴィは騎士のなかでも重要な任務をもつ近衛騎士。

その任務とはフェルディナンド第二王子の護衛。

フェルは本名はフェルディナンド=シルヴェストロ=イェーガー。

この国の第二王子その人だ。



今回俺達を襲ってきたのはフェルを狙う者達であって、俺達はただ巻き込まれただけ。

危ないようなら手助けするのだが、今回の襲撃者たちの実力ではフェルたちには明らかに役不足だった。

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