17:王宮からの使者
ライゼが力尽きて墜落することもなく無事に王都へとたどり着いた。
王都の中では安全面から飛竜が降りられる場所は決められてる。
そして街中は連れて歩けないので個人の飛竜の場合そこで竜舎に預けなくてはならない。
しかし竜舎に飛竜を預けると人の宿代の倍以上かかってしまう。
「よしライゼ。そこの街はずれの場所に降りてくれ」
「キュー」
やっと降りられるからか、ライゼは俺の言葉に素直に従う。
無事に着地したライゼはかなりへばっていた。
「ほら、治癒!」
「グル・・・」
もうこの呪文を唱えるのも何度目になるのか。
上昇して力尽きてゆっくり下降するたび呪文を唱えて再上昇。
それを繰り返してやっとここまで到着したのだ。
少しずつだが下降する速度が緩やかになっていたので多少だが体力も付いてきているだろう。
明日以降の反動はすさまじいだろうが。
ライゼの背から降りた俺はすぐに手早く結界を張る。
「なにしてるのー?」
「よし、ライゼ人の姿になってくれ。結界を張ったから人に見られる心配もない」
「・・・キュ」
ライゼの体が青い光に包まれて形を変えていく。
そして再びライゼは人の姿になった。
ちなみにライゼの人の時の姿は一見爽やかそうな青年だ。
これでへたれでなかったらかなりモテるんじゃないだろうか。
「人化してどうするんだ?」
「竜舎は高いから節約だ。それにお前も一緒の宿のほうがいいだろう?」
「らいぜもいっしょ?やったぁ!」
「・・・そうだな」
喜ぶヴァイスを見るライゼの頬が緩む。
本当にライゼはヴァイスが絡むと素直だ。
これが主と認めた存在の力なのか。
少し違うような気もするが扱いやすいのでヨシとしよう。
俺達が王都の中へと入った頃にはすでに日は暮れかけていた。
母親が勤めているのは王宮なのでさすがにこの時間から行く事はできない。
実際母親の仕事が特殊な事と俺がその子供であることから中に入る事は可能なのだが、王宮だけあって手続きは面倒だし時間がかかる。
さらにライゼにかけた呪文の消費魔力が低かったとはいえ、かけた回数が尋常じゃなかったのでそれなりに疲れている。
そんな疲れている状態で、会えばさらに疲れることが目に見えている母親に会いたくないというのが正直なところだ。
俺たちは手近な宿を取って王宮へは明日の朝出向くことにした。
「ルッツ=ツェルニー様ですね」
宿の受付のお姉さんに話しかけたとたん断定系で名前を呼ばれた。
もちろんこちらからは名乗っていない。
考えられる理由は一つ。
「まさか・・・」
「王宮から使者の方がおみえになってますよ」
お姉さんが示す先にいたのは、帽子を目深に被っていて表情は良くわからないが俺と同じくらいの年代であろう男。
どうやら先手を打たれていたらしい。
「はぁ・・・」
「・・・ここへ来る事がわかっていたのか?」
ライゼが不思議そうに首をかしげる。
そこへ物腰優雅に使者の男が歩み出た。
「本日こちらに来られる事がわかっていたので迎えに行くようにと。私と一緒に王宮までご足労願います」
「おむかえ?」
「はい。宿の裏に馬車をご用意しております」
この宿の前はそれなりに広い道で馬車と泊めておく余裕は十分にある。
今日俺たちがここに来て宿を取る事がわかっていたので迎えにきたが、王家の紋章付きの馬車なので気付かれて逃げられないように宿の裏に馬車を隠しておきましたよ、と男の雰囲気が語っている。
すでに退路は絶たれていた。
「どうするんだ?」
「・・・いくしかないだろ」
「そうしてくださると助かります。ではこちらに」
男の後をついて宿を後にする。
・・・さよなら俺の一晩の安息。
宿の裏の馬車はやはり王家の紋章が付いていた。
男に促されて俺達は馬車に乗り込む。
「では出発致します」
男が御者に合図し馬車が走り出す。
辺りはすっかり日が落ちて街灯が灯っていた。
俺は視界を流れていく街灯を眺めながら今日何度目かのため息をついた。