16:ライゼの体力補完計画
結論。
ライゼの体力は二・三日どうこうしたかといって王都まで辿り着けるレベルじゃない。
買い物の荷物も全部持つことは出来るのだが、すぐに疲れて休憩するという有様。
六ヶ月の引きこもりですっかりもやしっ子になっていた。
悠長にライゼの体力がつくのをまっている時間はない。
そこで俺はさっきちらっと考えていた最終手段を使う事にした。
「明日王都に向けて出発するぞ」
「え、らいぜだいじょーぶなの?」
「大丈夫、俺がなんとかするから」
「・・・・・フン」
さすがにあれだけの失態を演じたライゼは大人しくしていた。
「とりあえずおばちゃんや他の人間にはライゼが人の姿になれることは秘密な?」
「なんでー?」
「ヴァイスの力のことが知られるとヴァイスに危険が及ぶからだよ」
「よくわかんない・・・」
「ライゼもわかったな?」
横でふてくされていたライゼにも声をかける。
「もちろんだ。ヴァイスの不利益になるようなことはしない」
「・・・そうか」
真面目な顔でそう返された。
明らかに俺に対する態度と違う。
そこまでヴァイスに懐いているということだろう。
「出発は明日の朝でいいな」
「はーい」
「・・・あぁ」
竜の姿に戻ったライゼを残して店に戻る。
おばちゃんに明日発つ事を伝えると、本気で心配された。
確かに飛び上がっただけで体力が尽きて落ちる飛竜なので心配されるのは当然だろう。
とりあえずおばちゃんには裏技を使って行くので大丈夫だと諭してなんとか納得してもらった。
そして出発の朝。
「本当に出発するのかい?大丈夫かねぇ・・・」
「えぇ、大丈夫ですよ。使えそうな魔法がありますから」
魔法を詳しく知らないおばちゃんはコレで納得したのだ。
実際体力の底上げができたりするような魔法は今のところ発見されていない。
だが体力を回復させるという魔法なら存在する。
「常に体力を回復し続けてライゼを飛ばせ続けます」
「そんな便利な魔法があるのかい?」
確かにそこだけ聞けば便利な魔法だろう。
しかし世の中そんなに甘くはない。
「王都までそれを繰り返せば、反動で二・三日動けなくなりますけどね。体力もそれなりに付きますから一石二鳥です」
「スパルタだねぇ」
「愛の鞭です」
「らいぜがんばれー」
ヴァイスによしよしと撫でられながらも、ライゼは首を左右に振って本気で嫌がっていた。
当然ライゼが嫌がろうがそんなものは無視する。
おばちゃんに見送られライゼは俺達を背に乗せ大空へと飛び立つ。
が、やはりすぐに体力が尽きたようで緩やかに下降し始めた。
「おー、昨日よりはマシだな。治癒!」
上位の回復魔法を惜しげもなく連発する。
これより下位の回復魔法は怪我などは治療できても体力は回復できないのでしかたがない。
そして唱えてみてわかった事。
ライゼの体力の限界が低すぎて大して魔力を食われなかった。
俺の魔力を樽に入った水に例えるならライゼの体力回復に必要な魔力量は数滴の水という程度。
それだけライゼの体力がないということなのだが。
「この程度なら余裕だな。ほれ、治癒!」
「グル・・・」
恨めしそうにライゼがこちらを振り返る。
「ヴァイス、がんばってるライゼを応援してあげような」
「うん、らいぜがんばってー!」
「キュー・・・」
ライゼ、扱いやすいヤツめ。
ほぼ回復魔法をかけ続けられているという情けない状態だが、普通の飛竜と同程度の時間で到着できそうだ。
「休憩も必要なさそうだなー、治癒!」
「らいぜすごーい!」
ヴァイスの声援もあってライゼは謀反を起こす事もなく順調に飛び続ける。
これならば母親の報復も回避できそうだ。
それでもあの親に会うのかと思うと、王都が近づくに連れてため息が増えていく。
日か沈みかけた頃、とうとう王都が見えてきた。