15:引きこもりの代償
厄介ごとの種は尽きない。
おばちゃんの提案で傷が消えたライゼの背に乗りテスト飛行をすることとなった。
結果は・・・
「わわっ!」
「浮遊術!」
飛び上がりぐんぐん高度を上げていたライゼ。
しかし急に失速し急降下しだしたのだ。
辛うじて浮遊呪文を発動させゆっくり降下し事なきを得たのだが。
「あーやっぱりねぇ・・・」
「やっぱりって・・・?」
「ほらその子って半年も引き篭ってまともに運動してなかったんだよねぇ」
運動不足すぎて俺とヴァイスの二人を乗せて飛ぶことはきつかったらしい。
ちなみに普通の竜屋の飛竜は竜使いを含め大人5人程度乗る事ができる。
「へたれすぎるだろ・・・」
「まぁ二・三日運動させればあんた達二人ぐらいを王都に運べる程度にはなるよ」
「はぁ・・・」
「はは、それまではうちに泊めてあげるからゆっくりしていくといいよ」
そう行っておばちゃんは仕事の為店に戻っていった。
二・三日、その時間が惜しい。
・・・こうなれば最終手段を取るしかないか。
あれこれと思考を巡らせていたが、ヴァイスの楽しそうな声で遮られる。
「ねえねえルッツ、すごいんだよ!」
「どうしたんだ?ヴァイス」
「みてみて!じゃーん!」
両手を広げて俺の視線を促すその先にいたのは、青い髪の俺と同年代ぐらいの男。
その男もヴァイスと同じようににこにこと嬉しそうな表情をしていた。
「誰」
思わず呟いてから男の人とは違う気配に気付く。
「お前・・・ライゼ?」
恐る恐る尋ねると男は大きくうなずいて肯定の意を示す。
「なんでまた人の姿に・・・」
「ヴァイスの血を舐めて傷が治ったときに一緒に魔力も得た。まぁ人化の術しか使えないが」
「ね、すごいでしょ?」
「すごすぎるだろ・・・」
「鍛錬すれば他の魔法も使えると思うぞ」
ふふん、とライゼが胸を張る。
本来竜族のなかでも魔力の低い部類の飛竜が人化するほどの魔力を得るって、例えそれが人化しかできないとしてもどれだけすごいことだかわかってるんだろうか。
人化ができる竜は伝説級のはずなのに、その伝説級の竜が目の前に二匹もいるなんて。
とにかく厄介な血であることは間違いない。
その力を知られればそれを欲する人間は際限なく現れるだろう。
人間や黒竜どころか、人間以外の種族もヴァイスの血を求め狙ってきたって不思議はない。
襲われる要素満載すぎる血だ。
しかし、だ。
「ライゼの場合魔法の鍛錬より先に基礎体力を付けるべきだろう」
「何だよ、これでも人間のお前よりはあるはずだぞ」
「ほっほぅ?」
「にーちゃ、らいぜけんかはだめー!」
ヴァイスが泣きそうな顔で俺とライゼの間に割って入った。
別に喧嘩をするつもりは毛頭なかったので、ヴァイスに出来るだけにこやかな笑顔で返す。
「ライゼは運動不足だっただろ?だからライゼの運動も兼ねてに王都に着くまでに必要な食料を買出しに行こうと思うんだ」
「うんどう?」
「・・・どういうことだ?」
ここから市場までは徒歩十分程度。走れば三分もあれば着くだろう。
まずは軽く走ってみようと伝えた。
「なんだそんな短い距離なんて運動にならないだろ」
ライゼがバカにしたように言う。
コイツ・・・竜の姿の時は気にならなかったがかなりいい性格をしている。
そして何故か微妙な敵意すら感じる。
「とりあえず店が閉まる前にいくぞ」
「わかったー」
「フン・・・」
軽いランニング程度にもならないが、買い物の荷物を持たせたりして少しでも体を動かさせるべきだろう。
実際人の姿のほうが体力はわかりやすい。
飛竜は本来体力のある種なのでいくら引き篭りで体力が落ちているといってもさすがに俺よりはずっと早く到着するはずだ。
「すたーとぉ!」
ヴァイスの声を合図に走り出す。
さすがに飛竜だけあってかライゼが一番前に躍り出た。
全力疾走する必要はないのだが本人がやる気のようなのであえて口にはしない。
しばらくたっても全力疾走したはずのライゼの背中が見えなくなる事はなかった。
むしろ段々とその差は縮まっていく。
そして一分も経たないうちに俺とヴァイスはライゼを抜き去っていた。
目的地の市場に到着した頃にはぜぇぜぇと肩で息をしているライゼ。
俺は想像以上にライゼの体力に驚かされた。もちろん悪い意味で。
体力がないにも程がある。