14:白竜の力
すっかりヴァイスに懐いた飛竜のライゼ。
「キュー」
「うん・・・にーちゃ、この子が王都までつれてってくれるってー」
「・・・驚いた。言葉がわかるのかい?」
「うん!」
おばちゃんはしばらく考え込み、恐る恐るという感じで口を開いた。
「この子がこれからどうしたいのかを聞けるかい?」
「うんー。・・・どうしたい?」
おばちゃんは胸の前で手を組んでヴァイス達の様子をじっと伺う。
しばらくしてヴァイスが振り返る。
「えっと・・・一緒に行きたいけどおばちゃんをひとりにしてはいけないって。ておどろさんをまもれなかったからせめておばちゃんだけでもまもるんだって」
「テオドロ・・・!その名前を知ってるって事は本当に竜の言葉がわかるんだね」
「おばちゃん・・・?」
おばちゃんの目からはぽたぽたと涙が流れ出ていた。
その涙をぐっと拭うとおばちゃんはにかっと笑顔になる。
「よし、ライゼはあんた達に預けるよ!ライゼに空を飛ばせてあげておくれ!」
「アイツのしたい事ってのはどうするんだ?」
ライゼはおばちゃんを守りたいと言ったはずだ。
飛竜を譲ってもらえるのはかなり助かるが、やりたい事があると言っているので強制する気にもなれない。
「何言ってんだい。これでもあたしは昔冒険者だったんだ。ライゼに守られるほどまだ腕は鈍っちゃいないよ!まだちゃんと武器だって磨いてあるんだ」
そういっておばちゃんは近くにおいてあった両刃の斧をひょいと持ち上げた。
・・・薪割り用にしてはごつ・・・もとい大きいと思ったが、おばちゃんの冒険者時代の愛用の武器だったのか。
周りに割られた薪が散らばっているから実際に薪割り用の斧として活用していたのだろうが。
さすがおばちゃん、無駄がない。
「守るなんて台詞はあたしを倒せる程度に強くなってからいうんだね!」
「キュ・・・」
おばちゃんがライゼに向き直り胸を張って高らかに宣言した。
ライゼが怯んでいる様子から、本気でおばちゃんは飛竜(というよりはライゼ)より強いようである。
「あぁでも、一応お代は頂かないとね。代金は金貨1枚でどうだい?」
商売人らしく代金を請求され金貨を1枚おばちゃんへと渡す。
おばちゃんはぐっと金貨を握り締め豪快に笑った。
「まぁ近くにくることがあったら顔をだしておくれよ。その子は息子のようなもんだからね」
「それぐらい喜んで」
「うんうんー」
ライゼを連れて外へ出ると、かなり久しぶりに外に出たのであろうライゼはぐっと翼を広げて伸びをした。
その翼の付け根、つまり肩あたりに大きな古い傷がある。
治療させてくれなかったという傷のことだろう。
「いたくない?」
「キュー」
やはり傷に気付いたヴァイスがライゼに尋ねる。
「やっぱりいたいんだね?ぼくがなおしてあげるー」
「・・・治す?ヴァイス、呪文が使えるのか?」
「ううん、でもこうするとなおるんだよー」
ふるふると首をふって、おもむろに自分の指をかりっと噛む。
じんわりと血の滲む指をライゼに差し出して言う。
「これなめればなおるんだよー」
「それってまさか・・・」
ぺろりとライゼがヴァイスの血を舐めると、ライゼの肩の傷がほんのりと光を帯びる。
・・・間違いない。万能薬ともいわれるエリキシル。
精製したものを服用すれば不老不死になれるとまで言われる伝説の霊薬。
あっという間にライゼの傷は消え去っていた。