13:主を亡くした飛竜
ヴァイスに乗せてもらうことを諦めた俺達は竜屋へとやってきた。
基本的に竜屋を利用するのは貴族などの裕福な階級の人間や高レベルの冒険者が多い。
俺のような駆け出し冒険者が利用できるようなものではないのだ。
竜屋の受付は恰幅のよいおばちゃんだった。
「王都まで行きたいんだが」
「王都までかい?ちょいと距離があるから一人金貨1枚になるけど大丈夫かい?」
「はぁ・・・合計で金貨2枚か。ギリギリ足りないなぁ」
手持ちは合計で金貨1枚と銀貨6枚分。銀貨10枚で金貨1枚分になる。
やはり竜屋は高かった。
金貨1枚あれば三ヶ月は楽に生活できる。
「お兄さんは貴族ってようでもないし王都に大事な用事でもあるのかい?」
「かなりね・・・どうにか安く乗る方法なんてないかな?」
「ないー?」
「そうだねぇ・・・」
ダメもとで聞いてみる。
ヴァイスも瞳を潤ませながらおばちゃんを見つめる。
がんばれヴァイス。お前ならおばちゃんを落とせるかもしれない。
「ウチには1匹乗り手のいない飛竜がいるんだが・・・」
「乗り手がいない?」
竜屋の飛竜にはそれぞれ専属の乗り手、いわゆる竜使いが存在する。
飛竜は主と認めたものにのみ従う。
竜使いの数は多くなく、竜屋によっては飛竜と竜使いが一組しかいないなんてザラにある。
便利だが貴重な存在。需要はあれど供給が足りない。
竜屋の利用料金が高いのも仕方がないといえる。
「なんでまた乗り手がいないんだ?」
「一年前・・・飛行中に蒼竜に襲われたんだよ」
ふうっと息をつくおばちゃんの顔はとても悲しそうだった。
蒼竜、それはブルードラゴンとも呼ばれる竜でとても好戦的な種だ。
冒険者の中でも黒竜ほどではないが脅威として恐れられている。
「運が悪かったとしか言いようがないね。飛竜は大きな怪我を負っていたけどなんとか助かったんだがねぇ・・・息子はダメだったんだ」
「息子さんの飛竜・・・」
「手放すに手放せなくてねぇ。でも主のいない息子の飛竜はどんどん他の飛竜達から孤立しまった。可哀相だけどどうすることもできなくて困ってたんだよ」
「にーちゃ、ぼくその子にあいたい」
俺の服の裾をひっぱるヴァイスの顔は真剣だった。
同じ竜としてその飛竜が気になるのだろう。
「無理だとは思うけど、あんたたちがあの子に認められたなら・・・」
そう言うとおばちゃんは俺達を店裏の竜舎へと案内してくれた。
竜舎の一番奥。
他の飛竜はちょうど出払っているらしくひっそりとしているその場所にいた飛竜。
まだ若いその飛竜は体を丸め床に伏せていた。
「コイツが息子の飛竜で名前はライゼ。辛うじてエサは食べてくれるんだけどね・・・古傷もあるのに治療させてくれないし、あたし以外に触れられるのを嫌がるんだ」
おばちゃんが背を撫でてもライゼはこちらを振り向こうとはしない。
ヴァイスがおばちゃんの横からすっと手を伸ばす。
ヴァイスの手が体に触れた瞬間、ライゼの体がぴくりと震えた。
「グルルッ・・・」
明らかに威嚇する声を上げるライゼ。
ヴァイスはそれに構うことなくライゼの正面に回る。
「坊や、あぶないよ!この子はあたし以外は・・・」
「だいじょうぶ」
いつもよりはっきりとした口調。
纏う雰囲気も変化が現れていた。
「グ・・・ルッ・・・」
さらに威嚇しようとしたのだろうか、大きく口を開きかけたライゼの動きが止まる。
そのまましばらく見詰め合う一人と一匹。
ヴァイスはまっすぐにライゼを見つめたまま眼をそらす事はない。
先に動いたのライゼだった。
「キュー・・・」
「まさか・・・!ライゼがあんな小さな子供に懐くなんて・・・!」
ヴァイスに頭を垂れるライゼを見て驚愕の表情をうかべるおばちゃん。
実際竜が主と認めるのは力がすべてではない。
飛竜にも個人差があってそれぞれ認めるべきところが違う。
内面性を重視するものや力のみを重視するものもいる。
しかし、だ。
ライゼはおそらく懐いたわけではないだろう。
単に自分より上位の存在が目の前に現れたから従おうとしただけだと思われる。
白竜は竜の中でも最上級といっていいほど上位の存在だから。
まだ子供とはいえヴァイスは白竜。
おそらく封印で変えていた気配をヴァイスが意図的に白竜だと示したのだろう。
そしてライゼはヴァイスの正体に気付き、強いものに巻かれたというところか。
少しだけライゼに親近感が沸いた。
きっとこいつもヘタレなんだろうな・・・