12:乗合馬車
王都までば基本的に馬車を利用する。
大きな街であれば転移用の魔方陣があったり、それなりの街なら飛竜に客を乗せ目的地まで送り届ける竜屋という店もある。
サンタンドレにも竜屋はあるのだが、飛竜に乗る代金は高いので一般の人間はまず使わない。
ちなみにミモレットに竜屋はなかった。
竜屋のあるサンタンドレが近いのも竜屋がなかった理由の一つだろう。
そんなことから馬車を使うのが一般的となっている。
馬車の代金は一人銅貨50枚。決して安いものではない。
しかし今の俺は依頼で受け取った銀貨2枚がある。
ちなみに銀貨1枚で銅貨100枚分の価値があるので銀貨1枚で二人分の馬車代になる。
多少の手持ちはあるがこの出費はかなり大きいので依頼料を受け取っていて助かった。
「よし、乗合馬車に乗りに行くか」
「あいー」
町外れの馬車乗り場へと向かうと、そこは人で溢れかえっていた。
人ごみを掻き分けてなんとか受付へと到達する。
受付で言われた言葉。なんとなく言われる事は予想していたが。
「すいません、馬車は1週間先まで予約でいっぱいなんですよ」
「はぁ?何でまた・・・」
「あれ、お客さん知らないんですか?来週王都で聖誕祭があるんですよ。みんな一目勇者様に会おうと必死なんです」
聖誕祭・・・7年前に暗黒竜を倒したという勇者の誕生日。
あの二人の誕生日を聖誕祭などとご大層な呼び名で祭りを開いているのだ。
記憶の隅に追いやっていたのですっかり忘れていた。
なるほど、それでミモレットの馬車も王都への経由地点であるこの街への馬車が埋まっていたのか。
王都に行けば盛大に誕生日を祝われているあの悪魔の二人にまた会うことになる。
そもそもあの二人、王都に行くのであれば一緒に魔法で転送してくれればよかったんじゃないだろうか。
壮大な嫌がらせのような気がしてきた・・・
「どうしたもんか・・・」
思わず頭をかかえる。
一週間も待っている時間はない。
一刻も早く王都へ行かなくては母からのどんな報復が待っているかわかったものではないのだから。
「お客さん急ぎなら、竜屋にいってみたらどうだい?高いけどまだ空きがあったみたいだよ」
「竜屋か・・・ありがとう。行くだけ行ってみるよ」
人俺の顔色が相当悪かったのだろうか、人のよさそうなお兄さんは俺を心配してくれたらしい。
しかし竜屋を利用するとなると別の心配がでてくる。
そう、金の問題だ。
「にーちゃ、りゅーやって?」
「飛竜に乗せて目的地まで運んでくれるお店だよ。そうかヴァイスは知らなかったか」
「うんー」
そういえばヴァイスは竜なのだから人間社会のことを知らなくても不思議はない。
今は人の姿だが本来は竜・・・竜?
「ヴァイス、もしかして空を飛べたりするのか?」
「じょーずじゃないけどとべるー」
もしやと思って尋ねてみたが当たりだったようだ。
すぐに村のはずれのすこし開けた場所に移動する。
「王都まで飛んでくれるか?」
「うん。うにゅ~」
かわいらしい掛け声のようなものを発すると、ぽうとヴァイスの体が淡い光に包まれる。
「にゅ~」
そこには中型犬ぐらいの小さな白い竜の姿があった。
「・・・そういえばそんなサイズだったな、ゴメン」
「にゅ?」
俺が乗ったらあまりにもかわいそうなサイズだ。
竜だから俺を乗せても大丈夫なのかもしれないが、如何せん良心が痛む。
俺は早々にヴァイスに乗せてもらう事を諦め竜屋に向かった。
ブログを開設してみました。
たいした内容ではないですが興味を持たれた方は遊びにきてやってくださいませ。