冷たい怒り
アルバ視点です。シリアスな感じです。
夜半、寝所へ向かう廊下の暗闇を駆け抜ける足音が、まるで心臓の鼓動のように頭の中で鳴り響く。
(オリガ……俺のオリガ!!間に合ってくれ!!)
胸の奥が締めつけられ、手は震え、呼吸は荒くなる。
扉の向こうに待っている光景を想像するだけで、理性が溶けていくようだった。
――誰も、俺の妻に手を出すことは許さない。
駆けつけたその瞬間、視界に映ったのは、オリガの足元に縋りつこうとする男の姿。マテオだ!何やら頭から血を流してうめいている。
「オリガ、俺のオリガ!!もっと俺を見てくれ……!」
その刹那ーー
「……黙れ」
声が零れた瞬間、俺の内で何かが音を立てて切れた。
頭の芯が氷のように冷えわたり、同時に視界は怒りで真紅に染まる。
理性も言葉も不要だった。
そこにあるのはただ、目の前の男を叩き潰すという衝動だけ。
ーー俺のオリガに、俺の妻に……!!
剣に頼るまでもない。拳が勝手に動き、骨を砕く音が闇に響いた。
「ぐっ……ぅっ……」
マテオの呻き声など聞こえはしない。ただ燃え上がる怒りの熱だけが、俺の胸を突き破っていた。
「俺のオリガを傷つけようとした罪……死んでも許されんぞ」
吐き捨てるように、凍りついた声で言い放った瞬間、闇に沈む寝室の空気が震えた。
マテオの瞳は俺の姿をとらえた。
血に染まった顔に絶望の色が浮かぶ。
逃げようにも体は硬直していた。
おそらく俺の言葉を聞いた瞬間からこいつは、自分の人生の終わりを悟ったのだろう。
「覚えておけ……お前の手が、俺の王妃に触れたその瞬間、どんな恐怖が生まれるか……」
「あ……あ……」
俺は目の前の男に声を荒げる事なく低く告げた。
(俺はなんて愚かな夢を見ていたのだろう!この男からオリガを奪ってやろうなどと……勝てるわけがないのに!!)
ここにきてやっと、初めてマテオの瞳に光が宿る。死ぬかもしれないという恐怖の光!
なんだ?正気を取り戻したのか?
……だが、気付くのが少し遅かったな。
兵に制止されるまで、俺はマテオに的確に拳を打ち込んでいた。
殴るたび、マテオの体は痛みに震え、瞳に絶望が宿る。
「う、うぐ……」
床にうめき声をあげて男が転がるまで殴り続けても、俺は声を荒げなかった。刃のように研がれた冷静さだけがそこにあった。
ーーだが胸の奥ではなお、怒りが燻っていた。
炎ではなく、静かに広がる氷のような怒りが。
個人的に冷たい怒りって怖いと思うんですよね。言葉も発さず淡々と叩きのめす感じが……
アルバに言わせたかった言葉「死んでも許されんぞ」が言えてよかったです。
シリアスな感じが続いてしまいすみません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




