好きになった理由
「こんな小さい体、柔らかい肌は俺の国では珍しいな。ずっと触っていたくなる」
アルバは私の手をムニムニと弄びながら、低く呟いた。
雨宿りしていた小屋から、私たちはソウタに乗って城へ戻った。
濡れた外套を侍女に預け、暖かな大広間の長椅子に腰を下ろす。
高い天井から吊るされた燭台の灯りが、濡れた髪をやわらかく照らしている。
「ねぇアルバ、昔私はあなたに助けてもらったことがあるの。覚えてないでしょうけど」
「助けた? 俺が? オリガを?」
(覚えていない)
「いや、そういった記憶はないが……」
「無理もないですよ。あの時のあなたは、ただ通りすがっただけですもの」
でもーーーーあの時、あなたは驚いたような顔をしていましたよ。
私が五歳の時、両親と共にこの国を訪れた。
王の手厚い歓迎も退屈で、侍女をつけずに城を抜け出し、森で迷ったの。
「思い出した! あの時の天使か! あれはお前だったのか」
「えっ、天使? 何のこと?」
「クマに襲われかけていたんだよな」
当時の俺は狩りが趣味で、森を歩くのが日課だった。
熊を弓で射抜き、顔を上げた瞬間ーーーー、一筋の光が木漏れ日となって降り、その中に少女が立っていた。
白い肌、金の髪、真っ白な衣服、きらめく青い瞳……。息を呑むほかなかった。
「あれは……俺はずっと天使だと思っていたんだ。まさかオリガだったとはな」
「アルバにはそんなふうに見えたのですか? 私が?」
「ああ。今もあの時も、お前は光り輝くようだ」
「なっ、何を……//」
からかわれているのか、本気なのか。胸がざわつく。
(アルバって時々こんな、歯の浮くようなセリフを言う)
「ははは、顔が真っ赤だな。オリガ、どうした?」
(アルバは……昔よりよく笑うようになった? 私は、ちゃんとやれている?)
ぎゅッーー!私は、握られた手を握り返す。
「アルバ。私、頑張るから……見てて。これからの私を」
「何を頑張るんだ?」
「何でもないの。ただ、自分に言い聞かせただけ」
「??……まあいい。ーーオリガ、こっちへ来い。お前に触れたいんだ」
「うん」
アルバの大きな広い胸に寄りかかると、心臓の鼓動が伝わってくる。
「お前は、どこもかしこも柔らかいな」
「そんなに柔らかいのが珍しいですか?」
「ああ。この国では見たことがない。白くて、柔らかくて……ずっと触っていたくなる」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
私は、アルバがなぜ私を選んだのか、本当のところはまだ知らない。
けれど……こうして抱きしめられていると、わかる気がする。
私は、アルバの側にいていいのだと。
これもう死を回避できたよね?
ここまでお読みいただきありがとうございました!