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わがまま王妃の奮闘記!  作者: 杉野みそら
第十一章

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受け継がれる力

しばらく説明口調の話が続いたのでお茶請けにどうぞ。ハンナと、結局捕まえられた老婆の沙汰を待つ間のアディとオリガの会話です。

 オリガの私室は、金糸で縁取られた布や幾何学模様のタイルで彩られていた。

 天井からは透き通る青と金糸のランプシェードが吊るされ、壁には幾何学模様のタイルが貼られている。

 窓辺に垂れる薄布のカーテンは、外の風を孕んでふわりと舞い、部屋にはバラ水とシナモンを混ぜたような甘い香りが漂っていた。

 柔らかな絨毯の上に座ると、不思議と胸の緊張が解けていくようだった。


「しかしオリガ様はすごいな!ほんとに女神様かと思ったよ!あの俊敏な動き!いつもはボケーっとしてるのに」


 アディが茶器を運びながらにやりと笑う。その目尻が楽しげに細められている。


「やめてよ、アディ。多分あの瞬間の内から湧き上がるような力は、私の故郷ロミナの貴族のみが使える能力ね。感情が昂った時に発動するの。私のお祖母様の代で潰えたのかと思っていたのだけど……まさか私に受け継がれていたとは」


 声にかすかな戸惑いを混ぜながらも、オリガは指先で髪をくるくるといじる。


 あの頃も今もずっと小さな私。何もできないと思っていた。ただ漠然と、完璧でいなくてはならなくて。

 趣味は刺繍だったりアクセサリー作りだったり。

 私自身大した事ないのにどうして?


「隔世遺伝てやつでは?きっとお祖母様は優秀な方だったんですよ。その血を、オリガ様が受け継いだんだと思います」


 アディは真面目な声で言いながらも、目だけはきらきらとおどけた色を帯びていた。


「まあ、アディ。そんな絵空事を。きっとたまたまですよ」


 オリガは小さく笑って首を振る。だが、その笑みの奥には、自分自身に抱く恐れも隠れていた。


 ロミナのお祖母様ーー私のお父様のお母様にあたる人は、今もご存命で、自分にも他人にもとても厳しい方だったと聞く。私は容姿は母、性格は父親似だと聞いた事がある。

 二歳にならぬ内から、お嬢様教育が始まって、両親と話すのは晩餐の時だけになったけど……


 お祖母様はいつもご自分の部屋でお食事を摂っていたから詳しくはわからない。


 でも家族仲はよかった。氷の彫像のように美しい母の前で、父はいつもデレデレしていた気がする。


 もちろん母も満更でもない感じで……


 完璧を求められた以外は、良い家族だったのかもしれないな……


「偶然?そんなもんで普通飛んでいる矢を受け取る事ができます?私は無理だと思うなぁ」


 私も無理だと思う……だけど信じられないのよ。


「アディ、私にもし潜在的にあんな力があったとして、私たちの友情には影響はない?」


 だって私、怖いんだもの。自分にあんな力があったと思うと……


 問いかけに、アディは一瞬ぽかんと目を丸くした。すぐに、ふっと肩を揺らし、声を立てて笑う。


「あはは!変わりませんよ!どんな力があろうと、オリガ様はオリガ様です!刺繍が得意な事も、少しドジなところも、時々かっこいいところも、全部ひっくるめてオリガ様なんです。私はそんなオリガ様が大好きです!」


 その言葉に、オリガの頬はぱっと赤みを帯びた。潤んだが、まるで光を宿したかのように揺れる。


「アディ……!!」


 胸に詰まっていたものがほどけ、息がすっと軽くなる。


「ありがとう、アディ。私、自分に自信が持てなくて……」


「でも、あの時のオリガ様は違いましたよ。自信に満ち溢れていた。最初の頃はあんなにオドオドしていた姿なんて、もうどこにもありません。それにーーアルバ様がおっしゃっていたじゃないですか」


 アディは咳払いをし、わざと芝居がかった声で口にする。


『オリガ、俺の愛しい王妃よ』


「や~めてっ!アディ!そんな歯の浮くようなセリフ、まだ慣れないのに!」


 両頬を押さえてジタバタするオリガを見て、アディは肩をすくめる。


「あの〜、お二人はご結婚されてるんですよね?」


「そ、それでも慣れないの!」


「ふーん?そういうものなんですねぇ?私にはわからないな」


 言葉の余韻と共に、部屋には二人だけの柔らかい笑い声が広がった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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