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わがまま王妃の奮闘記!  作者: 杉野みそら
第十一章

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オリガの覚醒

序盤は三人称です。

 薄暗い城門へ続く橋への道。


 対面するハンナの瞳は怒りと悔しさで燃えている。


「どうして......どうしてあなたばかりが愛されるの。私だって、アルバ様のお役に立てるのに!子供だって産めるわ!あなたはまだその段階にもいないじゃない!」


 ハンナはここぞとばかりに口汚くオリガを罵った。

 叫ぶハンナに、オリガは静かに歩み寄った。


 瞳には怯えも怒りもない。

 

 ただ、澄み切った決意が宿っている。


「ハンナさん」


 その声音は柔らかいが、揺るぎがなかった。


「あなたには......あなたのお母様がいるでしょう?誰よりも、あなたを大事にしてくれる人が」


 ハンナがはっと息を呑む。


「私ね、気づいたの。人は皆、誰かに愛されていて、同時に誰かを愛することもできる」


 オリガはハンナの手をそっと取った。


「私はアルバを愛しています。だから私はアルバを信頼しています。役に立てるかどうかは、これから話しあっていけばいい。その積み重ねが、今の私たちを作りあげていると思うから」  


 その真摯な言葉に、ハンナの肩が震えた。

 

 しばしの沈黙の後、ハンナは崩れるようにオリガへ身を預けた。


「オリガ様......私は愛を知りません。どうすればいいのかも、わからないのです。でも.....この、止められない涙の温かさは......やはり愛なのでしょうか?」


「ハンナさん」


 オリガはそっと抱き寄せ、耳元に囁く。


「それは、これから知っていきましょう。このバラムで」


「オリガさ、ま……私は」


 その瞬間だった。背後の闇を裂く、ひゅっと鋭い音。


 オリガの全身に警鐘が走る。視界の端で閃く矢ーー


 オリガの白い腕が弧を描き、迫り来た矢を空中で掴み取ったかと思うと、反射のごとく振り抜かれた。

 矢は唸りを上げて闇の奥へ返され、短い悲鳴が石橋にこだました。


「……オリガッ!!」


 駆けつけたアルバの胸に、衝撃と熱が走る。


 燭火(ともしび)に照らされる妻の姿は、恐怖に縮こまるどころか、誰よりも毅然と立ち、敵に矢を返していた。


 その姿は一ーまさしく王妃として目覚めた者の光だった。


「なんという……私の故郷でもなかなかいませんぞ。その動きができる者は……」


 隣にいたヤマトが息を呑む。


 オリガはなおもハンナを庇うように抱き寄せ、決然と橋の上に立ち続けていた。

 その腕の中で、ハンナが震えながら泣き崩れている。


「アルバ様......!」


 泣き声の合間に、ハンナがしがみつくように叫ぶ。


「すべては......あの老女と私が仕組んだことなんです。オリガ様に毒を飲ませて、あんな恐ろしいことを企みました……。罰は受けます、どうか……」


 アルバの眼差しが鋭く光り、倒れた刺客の影に注がれる。


 黒布に隠された顔の傍らには、ころりと転がった小瓶。

 鼻を刺す異様な匂いが、確かに毒の存在を示していた。


「ハンナ、その話は後だ!今はこの刺客と老婆を……」


 この毒の残り香からして、老婆はそう遠くへは行っていない。


「やはり、裏で糸を引いていたのはあの女か。バラムにハンナがいとも容易く入れたのも、あの女が画策していたのだな」


 アルバが目配せをして、ヤマトが即座に命じる。


「衛兵。刺客の死体を押さえなさい。小瓶も証として広間へ」


 兵たちが動き出す中、アルバはゆっくりとオリガへ歩み寄る。

 そして、泣き喚くハンナを抱いたまま、毅然と立つオリガの姿に、言葉を失った。


「……オリガ……俺の……」


 声は震えていた。


「お前が……ここまでの強さを見せるとは......」


 オリガは静かに微笑み、腕の中のハンナを見下ろした。


「アルバ、私はただ……守りたかったのです。怯えきったこの子を」


 その言葉に、アルバの胸は熱く焦がされる。


 彼の目に映るのは、もはや守られてばかりのただの愛らしい妃ではなかった。


「もう、守られてばかりの小さなオリガじゃないわ、アルバ」


 一一王の隣に立つ者として、真に目覚めた、オリガの姿であった。


 * * *


 ーーその瞬間。ざわめきは遠のき、私の感覚だけが異常に研ぎ澄まされていた。


 私の周囲の音は止み、ただ一矢、ハンナに向けられて放たれた矢の音が聞こえるのみ。


 刹那、私はその矢を掴んでいた。熱いーー!

 でも頭の中は酷く冷静で、冷たく研ぎ澄まされていた。


 刺客の目、ここからは随分離れている場所にいるはずなのに、遠眼鏡で覗いたかのように近くに見える。

 私は躊躇いもなく、その刺客の目に向かって矢を返した。矢尻は鋭く正確に、まるで私の意思を乗せるかの如く、その速度を落とすことなく刺客の目を貫いた。


 その全てを見ていたアルバやヤマトが、口々に感嘆の声を漏らす。


「お前が……ここまでの強さを見せるとは......」


 アルバは私を強いと言ったけれど、それは少し違う。


 ーー私はただ、守りたかっただけなの。この愚かな罪に呑まれた哀れな子を。


 何より、もう守られてばかりのオリガじゃない。


「アルバ……」


 微笑みながら、私は心の奥で想いを巡らせた。


 これは私の愛。澄み切った想いが、永劫の沈黙を破り、今私を超えて溢れ出した……


ハンナを守るため、何かに目覚めたオリガ。かっこいいですね。王の隣に座すのに相応しい妃だと思います。


最後までご覧いただきありがとうございました!

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