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わがまま王妃の奮闘記!  作者: 杉野みそら
第十一章

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オリガの記憶喪失

オリガ視点です。

 あれから私はしばらく突然眠り込んだり、一日中起きてこなかったりした。医師によれば毒の後遺症らしく、いずれ回復していくのだという。


 毒の摂取量が多く、後遺症が長引いているのだと聞いたわ。


「オリガ、もう起きても大丈夫なのか?」


 鏡台の前で髪を整えながらアルバの声に応える。


「うん、アディに会いに行くの!すごく心配かけたと思うから!」


「そうだな。会ってくるといい、ただし少しでも具合が悪くなったら俺の部屋に戻るのだぞ。俺の部屋にも鏡台はあるし……」


「いいの!私の部屋の鏡台の方がどこに何があるのか把握してますし、今日は気分がいいのよ」


「……そうか。道中、何かあっては困るからカミラをつけよう」


「もー、アルバはすぐそうやって子供扱いして!!」


 * * *


「アディ!」


「あっ、あっ……オリガ様、本物?!」


「アディ待たせたわね。私帰ってきたわ!」


「ふぇぇ〜ん!!よかったァァァァ!!アルバ様が誰にも入らないようにって禁止令を出してたからもうどうする事もできなくて、いざとなったらアルバ様の部屋に突撃して様子を見たかったんです!暇すぎて一日中庭師の手伝いしてましたよ!」


「まあそんな事が……アルバも私を心配しての事だったのでしょうね」


 私たちは久しぶりに自分の部屋の鏡台の前で話しをした。この鏡台の前に座ると胸の奥がふっと和らぐ。白い象牙細工に蔦の彫刻が絡み、光を受けて優しくきらめいている。小瓶の香油や真珠の櫛が並び、私らしい彩りに満ちていた。


 この鏡台は、私が幾度となく座り、髪を梳いてもらい、アディに秘密を打ち明けた場所。笑ったり泣いたりした時間のすべてが、この鏡面の奥に映り込んでいる気がする。だからこそ、私にとっても、アディにとっても大切な思い出の場なのだ。


 宝石を髪に編み込みながら、アディはふと何かを思い出したように口を開いた。


「あ、そういえば庭師の手伝いしてる時にさ、変なローブを纏った女を見たぜ」


「えッ!巫女でしょうか」


「巫女はあんな黒い装束は着ないねぇ」


「だとしたら誰なのかしら……」


 胸の奥に、理由のわからぬ冷たい影が落ちる。


「一応アルバ様には伝えておくよ。なんせオリガ様が城を出て以来この城はより管理が厳重になって商人の荷車も監視されるようになっちまったんだ」


「まあそれはひどいわ……私が城を出たばっかりに……」


 城を出た?

 何の?

 どこを?

 どこに行くつもりで、私は城を出たの?


「アルバ様のお付きの老侍従のヤマトはハンナ嬢じゃないかって言ってるけど」


 ハンナ……?よくわからないけどすごく嫌な響き……


「けど腐っても貴族のハンナ嬢が侍女もつけずにバラムに何しに来たのかね?」


 やめて、やめてアディ。

 今私はその名前を聞きたくないのよ……


「大丈夫ですよ。何があってもアルバ様が守ってくれますから。守ってくれるといえばあの時……オリガ様?」


 私の血の気は失い、手が震えているのがわかった。


「やめて……」


 あの日、引き裂かれたのは私の寝衣(しんい)?……


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 見えざる粗野な手が、私を引き裂きにやってくる! 

 布を掴まれ、肌を押さえつけられる感触――その恐怖が、記憶の奥から唐突に押し寄せた。


「オリガ様!?」


「やめて!やめて!」


 側に控えていたカミラがすぐにアルバを呼びに行く。


「オリガ!」


 アルバが扉を押し開けた瞬間、鉄の蝶番が低く軋み、香炉の火が微かに揺れた。


 そこでアルバが見た光景は、怯えて布団に(くる)まるオリガとそれに追い縋るアディだった。


「アルバ様、アルバ様、私の落ち度です。余計なことを口走ってしまいました」


(いや、違うの!アディは何もしていないの!……)


「違う……違う、アディは何もしていない。アディは何も……」


 そう言ってさらに怯える私に触れようとするアルバ。 


「やめて!私に触らないで!」


「オリガ、どうしたのだ?俺だ、アルバだ!」


(やめて、違うの……アルバとあの男たちは違うのに)


 アルバはそのオリガの言葉を聞いて、すぐにオリガを小屋で襲った男たちのことだと気付く。


 アルバはカミラに目配せして、アディと一緒に出て行かせた。


「大丈夫よ、アディ。あなたは何も悪くないわ..... オリガ様だって、きっと分かってくださる。だから自分を責めないで」


 カミラは優しい声音で囁いた。


 アディは最後まで掠れる声で「オリガ様、私のせいで」と呟いていた。


(アディのせいじゃないのに!)


 やがて静まり返った部屋にアルバとオリガは二人だけになった。


「オリガ……」


「来ないで!どうせあなたも同じ、私を汚しに来たののでしょう?!」


「オリガ、俺はそんな事はしない。お前を傷つけるくらいなら、この腕など無くしてもいい」  


 アルバ、あなたが信じられないわけじゃない。けれど胸の奥の恐怖が消えないの。記憶と現実が絡み合って、何を信じていいのかわからない……


「……ああ、アルバ……私、記憶が混同して。でも……アディが悪いんじゃない、お願いアルバ、アディは悪くないの」


 絞り出すようにそう言うと、私は意識を手放してしまった。


オリガは錯乱してますね。絶対ハンナとあの男たちのせいだよ……

意識が混濁してもなお、アディを庇うオリガの姿に二人の絆が見て取れますね。


最後までご覧いただきありがとうございました。



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