オリガの帰還
アルバ視点です。
耳飾りを握りしめて俺の胸に体を預けるオリガを見つめながら、俺は低く囁く。
「俺を……待っていてくれたんだな」
涙など許されぬ王の瞳に、熱いものが滲む。
自分の胸にオリガを優しく抱きしめ、手綱を取ると、ただ彼女の安否を祈りながら夜道を駆け抜けた。
* * *
寝室に駆け込むまでの記憶はほとんどない。
気がつけば、オリガを寝台に横たえ、自らも荒い息を吐いていた。
その額の汗は、戦場でも滅多に流さぬほどのものだった。
すぐに医師を呼び寄せた。
不安で立ち尽くす間、息すら荒くなっていたのを自覚する。
「どうだ、オリガは......?」
医師は脈を測り、薬の残滓を確かめ、深く頭を下げた。
「ご安心ください。毒は既に抜けております。ただ、深い眠りに落ちているだけです。いずれ自然に目を覚まされましょう」
「……そうか」
膝から力が抜けるように、アルバは大きく息を吐いた。
その安堵の重さに、自分がどれほど彼女に縋っていたのかを思い知る。
医師の診断が終わると同時に、部屋から全ての者を下がらせた。
「王妃が目を覚ますまで、この部屋には、誰も入れるな。医師も、アディもだ。オリガが目を覚ました時、最初に俺がここにいたいんだ」
命じた声は、王のものではない。
短くそう命じた時の自分の声が、ひどく低く震えていたのを覚えている。
侍従たちは黙って俺に従った。
静まり返った寝室には、オリガのかすかな寝息だけが漂っている。
長い睫毛が頬に影を落とし、白い指が胸の上で小さく丸まっていた。
その手に触れると、確かに温もりが返ってくる。
それだけで、胸の奥に鋭く刺さっていた恐怖が、少しずつ和らいでいく。
「オリガ、無事でよかった、本当に……」
声に出すと、まるで彼女がそれを聞いているように思えてならなかった。
椅子に腰を下ろす気にはなれなかった。
彼女の枕元に膝をつき、ただ手を握り、額を寄せる。
重ねた掌の下で、確かな鼓動が打っているーーその鼓動の調べを確かめるたびに、自分がまだ生きていられる理由を思い出す。
王としての責務も、血に塗れた戦場の記憶も、この寝顔の前では霞んでいく。
オリガがいるからこそ、自分は剣を取り、冠を戴き、すべてに耐えてこられたのだ。
「……お前が目を開けた瞬間、俺がここにいると知ってくれ」
その願いだけが、今の自分を支えていた。
夜が更けても、灯火が揺れても、まぶたは閉じなかった。
眠りなど訪れるはずもない。
ただ、オリガが再びその瞳を開く瞬間を、一番近くで迎えるために。
彼女が目を覚まし、最初に映す景色が、自分であることを一ー
それだけを、心から願って。
オリガ、城に戻って来れたんだね…とはいえまだ一波乱ありそうですが。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




