小屋での怒り
アルバ視点です。
ソウタが鼻をひくつかせ、蹄を止めたのは、鬱蒼とした林の奥。
枯れ枝に覆われ、ほとんど誰も気づかぬほど朽ち果てた小屋がそこにあった。
「.....ここか」
アルバは息を殺し、剣の柄に手をかける。
周囲に伏兵の気配は一ーない。
だが、何者かの荒い足跡と、運び込まれた痕跡が確かに残っている。
扉を押し開けた瞬間、鼻腔を刺す薬草の匂いと、埃っぽい冷気が押し寄せてきた。
暗がりの奥一一小さな寝台に、彼女はいた。
「……オリガ……!」
名を呼ぶと、胸の奥が激しく揺れた。
安らかな寝顔。穏やかな寝息。だがそれが自然の眠りでないことは、直感で分かる。
薬に侵され、無理やり眠らされているのだ。
近づき、覆いかぶさるように手を伸ばす。
その瞬間一一目に飛び込んできたものに、息が凍りついた。
衣は無惨に裂かれ、肩口から白い肌が覗いている。思わず外套をそのあらわになった肩口にかける。
(オリガ……、ここで、何が……!)
脳裏に最悪の光景が閃いた。誰かが彼女を辱めようとしたのだ。
その痕跡が、あまりに生々しく残されている。
怒りが全身を焼いた。
剣を握る掌が震える。
理性の声がかき消え、視界が真っ赤に染まっていく。
「……許さぬ。必ず、必ず引き裂いてやる!!」
低く唸るように吐き出した言葉は、もはや王のものではなかった。
獲物を狩る獣の声。
この世の誰であろうと、彼女に指一本触れた者を、赦す気など毛頭なかった。
オリガを抱き直した瞬間、彼女の指がかすかに震えた。
小さな声にならぬ声が、唇から零れた気がした。
「……もう、大丈夫だ」
怒りで爛れる胸の奥で、ただひとつ確かに誓った。
二度と彼女を、闇に触れさせはしない。
* * *
オリガをソウタに乗せている時、ソウタが何かに気づいた。
「ソウタ、何だ?」
ソウタは鼻先でオリガの手を優しく促した。
アルバはオリガを両腕に包み込みながら、その手をそっと開いた。
そこにあったのは一一懐かしい翡翠の耳飾り。
(……これは)
オリガが俺のために作ってくれたものだ!あの日以来ずっと付けていたのだが……
思わず自分の耳を触る。
(落ちたのか?それとも無意識のうちに拾って……?いや、俺を連れて行ったのか?)
「……こんな時に……まだ、俺を握っているのか」
耳飾りと同じ色の瞳が揺らぎ、声が震えた。
王としての矜持も、冷徹な判断も、その瞬間すべてが剥がれ落ちた。
ただ一人の男として、愛する女を前にして一ーアルバは静かに、その小さな手に自らの手を重ねた。
よかった〜( ; ; )いや正確にはよくないんだけど。
そして長い距離を走ってくれたソウタグッジョブと言いたい。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




