連れ込まれるオリガ
三人称です。オリガ……!
ーー数刻前、ハンナと男二人のやりとりにて。
「ま、待て.....まだ断ったわけじゃねぇ......」
「話だけでも聞かせてもらおうじゃないか」
ハンナは妖しげに微笑み、懐から小瓶を取り出した。透明な液体を酒に垂らすと、杯の中で溶けて消える。
「交渉の前に......一口どうかしら。心も体も軽くなる、不思議なお薬よ」
甘い声に誘われるように、男たちは杯を掴む。
「へへっ、こりゃありがてえ」
「お嬢さん直々のお酌なんて、滅多にねぇからな」
にやつきながら杯を掲げ、ためらいもなく流し込む。
酒精の熱と混ざり合うように、毒は静かに全身へ広がっていった。
やがて二人の瞳は焦点を失い、快楽にも似た虚ろな笑みを浮かべた。
* * *
アルバとソウタが必死になってオリガを捜索している少し前の事。
オリガは薬に操られた男たちに蹂躙されかけていた。
大木に叩きつけられ、衝撃に背が悲鳴を上げた。
裂けた裾がずり落ち、冷たい風が肌を切り刻むように這った。
「表で終わらせるな、まだお楽しみは始まったばかりだぞ」
「あの小屋で泣き叫ばせて、飽きるまで嬲ろうぜ。」
粗野な手に両腕を押さえつけられ、オリガは狭い小屋の床に叩きつけられた。
喉の奥から悲鳴がこぼれたが、誰にも届かない。
男たちの目は虚ろに濁り、獲物を舐める獣のように爛々(らんらん)と光っている。
そこに理性の影はなく、ただ命じられた欲望に従う操り人形の狂気だけがあった。
(この人たち、何かに操られている?目が正気ではない!)
でも、それがわかったとしても恐怖が勝ってしまう。オリガはこの先に待つ光景を想像するだけで、喉の奥が凍りつき、呼吸が詰まっていく。
ひとりが体を押さえつけ、もうひとりの指が乱暴に衣を裂く。布地が裂ける乾いた音が、夜の沈黙を切り裂いた。冷たい空気が肌を撫で、血が凍るような屈辱が襲う。
「や……やめて……!」
声は涙で掠れ、抗う力は残っていない。
だがーー。
オリガの瞳が、涙に濡れながらも二人を真っ直ぐに見つめ返した。
恐怖と祈りが入り混じったその眼差しは、あまりに清らかで、あまりに強かった。
「うっ……なんだ……?どうして俺は、こんな……」
「おっ、俺は何を……何故、こんな神々しい人に、なんてことを……」
「……??」
男たちは一瞬、動きを止めた。
揺らぐ蝋燭の光に照らされるその姿は、まるで影の中に浮かぶ聖像のようで。
荒い息を吐きながら、ふたりは怯えた獣のように身を離した。
「女神...........、オ、リガ……さ、ま」
呟きとともに、互いに顔を見合わせた次の瞬間、男たちは逃げ出すように扉を蹴破り、夜の闇に消えた。
「はぁっ、はあっ、ア、アルバ……」
力尽きたオリガは、破れた衣を胸に抱え、震えながら寝台に崩れ落ちる。
意識はすぐに深い闇へと沈み込んでいく。
ただ、その右手だけがーー
かつてアルバに贈った翡翠色の耳飾りを、血が滲むほど強く握り締めていた。
アルバに贈った耳飾りを持っていたんですね。それは城を抜ける前のオリガの最後の意思だったのでしょうか?
アルバとソウタ、間に合え!
最後まで読んでいただきありがとうございました。




