怪しい会話
オリガが城にいないと知って、アルバや近衛、侍従が城を走り回っていた頃だった。
オリガが城にいないと知り、アルバと衛兵たち、侍従たちが慌ただしく駆け回っている時……
伯爵令嬢ハンナは、裏通りの地下にある薄暗い酒場で二人の男と向かいあっていた。煤と煙草の臭いが染み付いた空気は濁っており、外の華やかな城下町とはまるで別世界のようだ。
「ほう、伯爵令嬢さま直々にお出ましとは珍しいこったな」
「ははっ、まさか噂は本だったんだな。爵位を剥がされ、犬みてえに路頭に迷ってたところを、王妃さまに拾ってもらったとかよ」
「お貴族さまも落ちぶれりゃ俺たちと大差ねぇな。なぁ?それとも、こっちの水っぽい酒でも飲みに来たのか?」
「おい、やめとけ。ご令嬢にこんな臭え椅子は似合わねぇよ。せめて王妃さまに膝でも貸してもらったらどうだ?」
場末の男たちは下卑た笑いを上げ、薄汚れた指でハンナを指さし、グラスを打ち鳴らしていた。
ハンナはその嘲りを浴び、唇を血が滲むほど強く噛み締める。
背筋を伸ばしても、肩を張っても、彼らの目に映る自分はただの「落ちぶれた女」に過ぎない。
(悔しい、悔しい……!オリガ、あの小娘さえいなければ、私がこんな連中に笑われることなど……!)
胸の奥で煮えたぎる怨念は、侮辱されるたびにより濃く、より暗く、膨れあがっていった。
「ここに金貨が十枚あるわ」
重い音を立てて、袋が机に落ちた。中から金属同士が擦れる鈍い響きが広がり、わずかな灯火を反射してどす黒く光った。
「おお……こんな額、見た事もねぇ」
「俺たちに頼むくらいだ。よほど厄介な話なんだろう?」
「ふふ、それほどでもないわ。ただーーあのお方の地位が少々面倒でね」
「地位?」
「……オリガ王妃よ」
その名が告げられた瞬間、男たちは露骨に顔色を変えた。
濁った酒場の空気が一層重苦しく沈む。
「お、王妃だと?そりゃあ命がけじゃねぇか……」
「やらないのなら別の者を探すわ。飢えに喘ぐ連中は、あなたたち以外にも山ほどいるのだから」
ハンナは袋から金貨を一枚取り出し、指先で転がした。
錆びた灯火を受けて、それは宝石のような輝きではなく、冷たく不吉な光を放つ。
男たちの喉がごくりと鳴った。
「ま、待て……まだ断ったわけじゃねぇ……」
「話だけでも聞かせてもらおうじゃないか」
人間って堕ちる時は一瞬なんですね……ハンナ、もうあのはつらつとした美を誇っていた時には戻れない気がします。
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