ソウタの登場
三人称です。
「こ、これは……!」
ヤマトが俺の震える手に乗せたのは、正しくオリガの寝衣の裾の一部。おそらく石畳の階段を降りる時に、引っ掛けて裂けたのだろう。
「……おそらく、オリガ様は城を出ています。階段を降りたその先は、城門に続いておりますから」
ヤマトの勘はいつでも正しい。老侍従ヤマトは俺が何も言わずとも静かに頷いた。
「オリガ……」
喉の奥から声が漏れた。胸に布を握りしめると、香が微かに漂う。
愛しい妻の面影と共に、残酷な現実が突き刺さった。
ーーオリガは、城を出てしまった!!
「衛兵! 門を調べろ! 記録を洗い直せ! 影でも、足跡でもいい! 必ず見つけ出せ!」
声は掠れ、しかし必死に響き渡った。これほど必死な王の姿、声を城の者は聞いたことがないほどに。
アルバは月明かりの下、布を胸に押し当てた。その顔はもはや王の仮面をかなぐり捨てた、ただの一人の男の顔。
「……オリガ、必ず連れ戻す。たとえこの身が燃え尽きようともーー」
夜風が吹き抜ける中、アルバの瞳には焦燥と怒り、そして決意が燃えていた。
* * *
城門から戻ってきた衛兵が、息を切らせて報告した。
「陛下……今宵、月の下を走る馬車を見た者がおります。城下から北東へ……あの、ハンナ嬢の一族が退いた僻地の方角に」
その言葉を聞いた瞬間、アルバの胸に雷が落ちた。
(やはり……!あの女の一族か!)
全身を駆け巡る怒りと焦燥。愛する者を守るための狂おしい情熱に、兵は声を失った。彼らにはそれが、王の激情ではなく、ひとりの夫の絶叫に思えた。
もう兵を整えている暇などない。一刻も早くオリガを取り戻さねば。
アルバは決然と立ち上がった。
「ソウタを引け!!」
しばし後、中庭に引き出されたのは漆黒の愛馬ソウタ。幼い頃からずっと共に戦場を駆け抜けた、唯一無二の相棒。
ソウタは俺のただならぬ気配を察したのか、鼻を鳴らして蹄を打ち鳴らす。
「行くぞ!ソウタ!」
アルバはソウタの首筋を一度叩き、手綱を握った。護衛を制止しようとする兵を振り払い、ただ一人、夜の闇へ飛び出す。
ーー王としてではない。ただ一人の愛する女性の夫として。
蹄が闇を裂き、石畳に火花を散らす。風を切り裂きながら、アルバは低く呟いた。
「ーーオリガ、無事でいてくれ。必ず、お前を取り戻す!」
胸に握りしめたオリガの布切れのぬくもりが、血のように熱く脈打つ。
ソウタ!やはり愛馬が一番ですよ!アルバの焦燥とそれをいち早く感じただごとではないと通じるソウタ。ソウタと共に城門を駆けるアルバの焦りと緊迫感を感じていただけると嬉しいです。
ところで三人称ってわかりにくいですかね?汗
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最後までご覧いただきありがとうございました。




