アルバの乱心
しばらく三人称が続きます。
その夜明け。寝台の片側に伸ばしたはずの腕が、虚しく空を撫でた。
「……オリガ?」
寝所にオリガの姿はなかった。彼女の部屋にもいない。
アディに聞いても、「昨日はアルバ様とお過ごしかと。オリガ様自身がおっしゃってましたけど……」
胸の奥に冷たいものが広がり、アルバは思わず声を張り上げる。
(なんだ……この嫌な感じは!?)
「衛兵!!オリガはどこだ!?」
駆けつけた近衛は、慌てて膝を折る。
「はっ、城門の記録には、王妃様が通られた形跡は見当たらず……」
「嘘をいうな!!」
アルバの怒声が石壁に反響する。普段なら決して声を荒げぬ王の姿に、兵は震え上がった。
(まさか、俺を置いてどこかへ行ったのか……?いや、そんなはずはない。オリガが自分の意思で俺のもとを離れるものか!!)
俺は何度も誓ったのだぞ。オリガを守り抜くと……!オリガも何度も応えてくれたのだ!!
冷や汗が背を伝う。足早に廊下を進みながら、アルバは己の胸を掻きむしるように言った!
「探せ!城の隅々まで探せ!息の続く限り走れ!王妃を……俺のオリガを見つけ出せ!!」
守ると誓ったのだ!!
命を下しながらも、声は震えていた。理性で取り繕おうとしても、感情が追いつかない。最悪の事態が頭を擡げ、その度に背筋に冷たいものが走り、思わず首を振る。
王としての威厳など、この瞬間にはどうでもよかった。
(オリガ……どこだ……!!)
オリガが城の外を歩いている光景が脳裏に閃き、膝が砕けそうになる。暗闇に消えてしまうのではないか?誰かの手に奪われてしまうのではないか?
「クソッ……!!」
唇を噛み、血の味が広がる。
王ではなく、一人の男として。ただ愛する女性を必死に求め、アルバは夜の城を駆けた。
夜の城を駆け、アルバは何度も廊下を往復した。 オリガの部屋、礼拝堂、庭園、温室ーー。
どこにもオリガはいない。
近衛たちが次々と報告に駆け込む。
「王妃様のお姿、北塔にもございません!」
「厨房にもございません!」
「南の回廊、異常なしでございます!」
報告の声を受けながら、アルバの脳裏には決して浮かべてはならない光景がよぎり、背筋に冷たいものが走る。
「違う……違うんだ……」
アルバは息を荒げ、髪をかきむしる。
ーーオリガは、この城にいない。
その確信が胸を締め付ける。
(どこにいる、オリガ……)
その時老侍従ヤマトが俺の思考を読んだかのように何かを差し出してきた。
「アルバ様、お心を乱されますな。お探しのものはこちらでしょう」
俺は顔をあげた。ヤマトの灰色の瞳がキラリと光る。
「自分なりに調べてみたのです。城門に向かう階段を。オリガ様は時々、城下町をここで眺めておりましたから」
「こ、これは……!」
アルバの焦燥感とも憤りとも取れない言動にヒヤヒヤしますが、これはオリガに対してだけです。アルバ、必ずオリガを助けてあげて!
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