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わがまま王妃の奮闘記!  作者: 杉野みそら
第十一章

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アルバの側室

アルバ視点です。

「はぁ? 側室だと?」


 執務室の静寂を切り裂くように声が漏れた。


 陽を受けて光る窓硝子、王印の刻まれた重厚な机、壁に掛けられた地図。その空気を押し潰すように、俺と年老いた巫女、そしていやらしい笑みを浮かべた伯爵夫人エリィが対峙している。


 巫女が杖で床を軽く叩き、声を整えた。


 「オリガ様の誕生日パレードは、まことに見事でした。国中が祝福し、王妃にふさわしい一日であったでしょう。――ですが」 


 皺だらけの口元が歪む。


「十七になったとはいえ、まだオリガ様には幼さがお残りです。そこで提案が」


 合図に応じ、伯爵夫人が一歩進み出て深々と頭を垂れた。


 「ご機嫌麗しゅうございます、アルバ様。実はうちのハンナが、そろそろ良い年頃でして……側室としてお仕えできれば、これ以上の誉れはございませんわ」


 その言葉と共に現れたのは、黒髪に浅黒い肌の娘――ハンナ。二十歳くらいか?若くはあるが、母譲りの野心を瞳に宿し、口元には勝ち誇ったような笑み。確かに美しい女ではある。


 だが、その美は艶やかさを帯びながらも、どこか濁りを含んでいる。光そのもののように周囲を照らすオリガの輝きには、到底及ばない。


 白い扇子を開き、顔の半分を隠しながら、彼女は甘ったるい声を放った。


「オリガ様のような純粋なお方には務まらぬ役目も、わたくしなら果たせますわ」


ひと息おいて、ハンナは下卑た笑みを浮かべて続けた。


「さすがアルバ様の王妃様であるオリガ様。同じ女性から見ても輝くような美しさをお持ちです。ですが輝くような宝石も、飾るだけでは子を成すことはできませんものね。ふふっ、私ならアルバ様のお役に立てるはずですわ。ーーこの国の未来のために」


 この女……今明らかにオリガを馬鹿にしただろう……下品な扇子で隠せているつもりだろうが。


 胸の奥がサーっと冷えていくのが分かる。


「先王以来の祈祷規定では、世継ぎの祈願に側室を立てる例があります。オリガ様は確かに見目麗しいお方……ですが、いつまでも玉座の飾りではいられません」


 巫女がすかさず間に割って入る。


 こいつら、俺の想いなど最初から勘定には入れていない。血筋と権力の利を(はかり)にかけ、さらにはオリガを踏みにじろうというのか。


 普通なら不敬罪で即刻牢屋行きだ!!でもオリガは……もし万一オリガの耳にこのことが入れば、オリガが心を痛めてしまうだろうな。オリガは……


 ハンナ、お前は確かに健康的で美しい。だが美しいのはその外側だけだ……内面の醜さは隠しきれぬ。

 

 思わず俺は「ふっ……」と息を漏らした。


 オリガがお飾りの宝石とは。巫女、エリィ、ハンナ、お前らはわかっておらんな。


 たとえどのような美しい女性が俺の前に来ようと、オリガの輝きの前では、すべてが色褪せる。

 

 彼女の金の髪は陽光を閉じ込めたように煌めき、碧い瞳は澄み切った湖のように深く澄んでいる。

  

 だが、その美しさをいっそう眩しくしているのは彼女の心だ。


 オリガは誰の悪口も言わない。


 たとえ己を害そうとする者であっても、陰口を嫌い、ただ静かに受け止める。


 ライラの時もそうだった。ライラの(つくろ)った布でオリガは命を落としかけたのにも関わらず、ライラを許した。ライラの腕と真心を信じて、自分の誕生日のドレスまで作らせた。


 その慈愛に満ちた優しさと強さを前にすると、俺は胸が締めつけられるほどだ。


 (オリガは、俺にとって女神だ。どんな女であれ――誰であっても、彼女に敵うことなど決してない)


 ーーいかん。オリガのことを考えていたら、オリガに会いたくなってきた。


「何度も言う。俺はオリガ一筋だ。側室など持つ気はない。次に同じことを口にしてみろ――巫女、お前は二度とその顔を俺に見せるな。伯爵夫人とその娘も同じだ。バラム城に近づくことさえ許さぬ!」


「そ、そんな……!せっかく……!」


「せっかく……何だ?娘に世継ぎを産ませて権力を得る機会だったのに?か?」


 図星だったのか、エリィの顔から血の気が引く。ハンナは唇を噛んだが、その黒い瞳には、悔しさよりも飢えた獣のような執念が燃えていた。


「貴公らがどのような策を練ろうと、俺の心は変わらん!今すぐここから出て行け!」


 俺の迫力に驚いた三人は、急いで部屋から出てい

く。


「ふん、俺をみくびるなよ」


 俺はその三人を冷ややかに見据えながらも、心の中ではただ一人の名を呼んでいた。


  ――オリガ。


 お前は俺の光だ。誰の影も寄せつけぬ、唯一無二の存在。


 お前の笑顔ひとつで、どんなに俺が救われたか。


 森に逃げるしかなかった幼少期も、閉ざした心も、何もかもお前の微笑みだけで解けていく。


 俺が王であることも、この国を背負うことも、お前が隣にいるから耐えられるのだ。 


 俺は、たとえ世界中の全てを敵に回しても、決してお前を手放さない。


 愛してる、オリガ。

さすがアルバ。オリガへの愛は揺るぎません。アルバがオリガの優しさを語るところ。森にしか居場所がなかったアルバが、いつのまにかオリガの笑顔が帰るところとなっているのがわかってホッとしました。


ここまでお読みくださりありがとうございました。

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