オリガの誕生日②
アルバ視点です。
執務を終えた俺は、夜の王の寝室へと戻ってきた。扉を閉めると、煌びやかな広間よりも、この静かな空間の方がずっと深く胸を安らげるのを感じる。
鏡台の前で髪を解いていたオリガが顔を上げ、彼を見て柔らかく微笑んだ。
「アルバ!お帰りなさい!」
その笑顔に迎えられるたび、俺は思う。
――かつて、俺にとって安らぎの場所はあの森しかなかった。 誰にも干渉されず、木漏れ日と花の香りだけが孤独を慰めてくれた。 だが今は違う。
この部屋に帰れば、お前がいる。オリガがいる。
不思議だ。いつのまにか、あの森よりも今は夫婦の部屋が俺にとって安息の場所になっているなんて。
「オリガ」
笑みを浮かべる声はまだ少女のもの。しかし背筋を伸ばしたその姿には、王妃としての威厳が宿っていた。
俺は深く息をつき、言葉を選んだ。
「今日、重臣たちと話し合い、決めてきたことがある。――お前の誕生日に、王都で祝祭を開く」
「えっ……?」
オリガの瞳が大きく見開かれる。戸惑いとわずかな恐れが混じった声が、空気を震わせた。
「民の前に、私が……? そんな、大それたこと……私に務まるのかしら」
俺は首を振り、彼女の傍へ歩み寄る。
「これは王国のためでもある。だがな、オリガ――」
その小さな肩に手を置き、視線を合わせる。
「お前は王妃だ。それ以上に、俺の妻だ。人々に慕われ、未来を共に歩む存在として祝われるのは当然だと思う。だが本当のところは……ただ俺が、お前を喜ばせたい。それだけだ」
「でもアルバ、私はまだ未熟で……」
「未熟でいい」
俺は即座に答えた。彼女の手を強く包み込み、声を少し落とす。
「……オリガ、お前が隣にいるだけで、俺は救われるんだ」
オリガが目を見開く。
「お前の笑顔も、不安に揺れる瞳も、全部が俺の宝物だ」
オリガの頬が淡く紅に染まり、目尻が滲む。
「……そんな風に言われたら……幸せで胸がいっぱいで、何も言えなくなるわ」
俺は彼女の指先にそっと唇を触れさせ、目を細める。
「それでいい。言葉なんか要らない。ただお前がここにいるだけで、俺は満ちている。お前は俺の喜びであり、この国の光……そして、俺の人生そのものだ」
その囁きに、オリガの瞳がぱちりと瞬き、みるみる頬が紅に染まっていく。 胸の奥が急にくすぐったくなったように、思わず視線を逸らし、小さな声で言った。
「ま、またアルバは……そんな、歯の浮くようなことを……!」
照れ隠しのように窓の外へ視線を逃がす。 オリガの頬と同じくらい、夕陽に染まる王都の街並みが遠く煌めいていた。
「……あの方たちの前に、私が立つのね」
「ああ」
俺は背後から彼女を抱き寄せ、耳元に唇を寄せて囁いた。
「だが安心しろ。お前がどんな姿を見せても……俺だけは変わらない。王妃としてではなく、妻としてのオリガを――俺は誰よりも誇りに思う」
その囁きに、オリガは耳まで真っ赤になりながら静かに頷いた。
ーー森に逃げ込むしかなかった俺が……今こうして、安らぎをお前と分かち合える。
だからこそ、この祝祭を俺たちの始まりの証にしたいのだ。
夕暮れの光はふたりを優しく包み込み、来たる祝祭の日を祝福するかのように窓辺から差し込んでいた。
嫌なことがあると森に逃げていたアルバが、王の部屋、夫婦の部屋が一番安らげる場所になるといいですね。執務室から夫婦の部屋へと向かう空気の違いを、照れたオリガの頬が夕日と同じ色に染まっている様子、まだ子供のオリガがアルバに一生懸命釣り合おうとしている様子を感じて頂ければと思います。
そしてアルバのセリフ……王でなければ言えない言葉ですね!(ニヤニヤ)
ここまでお読みいただきありがとうございました。




