老侍従の安心
「はあ……全く、俺の気も知らないで……」
オリガはそんな嘆きなどまるで耳に入っていない様子で、子どものように弾む足取りで扉の向こうへ駆けていく。
その背中からは「やっと叶う!」という喜びがはじけるように伝わってきて、アディと二人できゃっきゃと笑いながら消えていった。
残されたアルバは、こめかみを押さえて深くため息をつく。
(なんなんだ、あの小さき愛らしい生き物は……何度触れても、触れられても慣れない)
深く椅子に沈み込むアルバ。その背に、長年仕える老侍従の低く落ち着いた声が届いた。
「陛下――よろしゅうございましたな」
低くしゃがれた声に、アルバは顔をあげる。
「……よろしい、だと?」
わずかに目を細めるアルバ。
老侍従は恭しく頭を垂れつつも、どこか含みのある笑みを浮かべる。
「ええ。戦場で猛き獅子と恐れられた陛下が、かように一人の娘御に振り回されるお姿を拝めるとは……。長く生きて参った甲斐がございました」
「……!」
アルバは言葉を詰まらせ、思わず机の上の書類に視線を逸らした。
老侍従はその様子を見て、さらに静かに付け加える。
「ご心労もまた、陛下が愛されておられる証。どうか、末永くそのお苦しみを味わわれますよう――」
「……茶化すなよ。ヤマト」
アルバの耳がわずかに赤く染まる。
ヤマトと呼ばれる老侍従はあくまで恭しく控えているが、その声色には老侍従らしい、確かにからかい混じりの親しみが滲んでいた。
執務室には、国王の苦い笑みと、侍従たちの忍び笑いがいつまでも漂っていた。
ただものではない雰囲気を醸し出す老侍従ヤマト。
ヤマトの前では完全無欠のアルバの表情も少し和らぎます。
ヤマトを登場させたかっただけの話なので短いです。汗
ここまでお読みくださりありがとうございました。




