アルバとオリガの買い物
オリガ視点です。
ただただオリガとアルバは買い物を満喫してます。
石畳の街路を、アルバと並んで歩いた。
陽射しは強く、頭上から容赦なく降り注いでいるのに、この街の景色はどこか涼やかで華やいでいた。軒先から吊るされた布の数々が、風を受けてひらひらと舞い、その一枚一枚が太陽の光を映してきらめいているからだ。
私はふと、ある布に目を奪われた。 深い紺色に染められたそれは、ただの染布ではなかった。ふんだんに織り込まれた銀の糸が、陽を受けて星のように瞬き、まるで夜の空をそのまま閉じ込めたかのようだった。
それにこの布、銀糸で星座も描かれているわ!
伯爵にいただいた布も美しかったけど、この布も美しいわ……銀糸で描かれた星座のひとつひとつの輝きが、まるで私に語りかけてくる……
「アルバ! 見て! 夜空みたい!」
思わず声が弾む。
昼なのに、こんなに明るいのに、そこには確かに夜の世界があった。私は布に顔を近づけて、瞳をきらきらと輝かせる。
「すごい……まだこんなに明るいのに、夜を感じられるなんて……」
その砂漠の夜空のような布に私は感動していた。目を閉じて夜空に瞬く星の輝きに思いを馳せる。バラムの砂漠の夜はお城からでしか見たことがないから。
子供のように跳ねるように立ち位置を変え、角度によって銀糸の輝きが変わるのを確かめる。光が動くたびに、夜空の星座がひとつひとつ生まれては消えるようで、胸が高鳴った。
私が布の前で夢中になって笑っていると、アルバが静かに微笑んだ。
「……気に入ったのなら、持ち帰るといい」
「えっ、でも、こんなに豪華なのに……!」
「遠慮は無用だ。お前が喜ぶなら、俺はそれだけで十分だ」
私は思わず布を抱きしめ、両頬を紅潮させてアルバを見上げた。 昼の市場のただ中に、夜の星空を閉じ込めた宝物を抱いて――私は子供のように、嬉しくて仕方なかった。
パン屋では、焼き立ての甘い菓子を分け合った。
ひと口食べて、砂糖がほろりと崩れると、アルバがくすりと笑う。
「……口の端に付いているぞ」
そう言って、彼が指先で拭ってくれる。その仕草に頬が熱くなる。
香料店では、私は小瓶を選び、アルバの手首に一滴だけ垂らした。
「似合う香りだわ。あなたの凛とした雰囲気にぴったり」
アルバは少し照れたように視線を逸らす。
「お前に選ばれるのなら、何だって似合う気がするな。店主、これを」
アルバは即決して、反対側の腕にも香料を垂らした。
「どうだ。いい香りか?」
「ええ!とってもいい香り!」
「それはよかった。オリガが喜ぶと、俺も嬉しいよ」
アルバの歯の浮くようなセリフには、まだ慣れない。熱くなった頬を見られたくなくて思わずアルバから目を逸らす。
「オリガ……」
アルバの低くて優しい声……久しぶりに聞いた気がする。
不安も、恐怖も、怒りもない、ただひたすらに穏やかな……
私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
昼下がり、街角の楽師が奏でるリュートの音に足を止め、二人で聴き入った。子供たちが踊るのを眺めながら、アルバが小さな声で囁く。
「……オリガ、お前とこうしているだけで、王も、務めも、すべて忘れそうになる」
その声は、冗談ではなく本心だった。
私は彼の腕にそっと寄り添った。
「私も……アルバと一緒なら、どんな時間も宝物になるの」
彼は驚いたように瞬きをし、それから静かに微笑んだ。
「お前は、本当に……」
そのときふと聞こえたアルバの声は、掠れていた。
彼は、私が楽しそうに笑う姿を見ながら、眉を伏せる。
「俺は……思い上がっていた。お前を守り切れると。だが実際はどうだ。あんなに苦しませて……失いかけて……」
彼の握る手は、悔しさと情けなさで震えていた。
私はその手を強く握り返す。
「でも、私は今こうして生きています!あなたの隣にいますよ」
アルバは言葉を失い、ただ私を見つめた。 その瞳に浮かぶ陰りが、少しずつ和らいでいくのを感じながら、私は小さく微笑んだ。
――贅沢な宝石よりも、王妃としての地位よりも。 私にとって一番の宝は、アルバと過ごすこの時間なのだ。 アルバは私の肩を抱き寄せ、囁いた。
「……俺も、オリガ。お前を宝物だと思っている」
その瞬間、胸いっぱいに広がる幸福で、涙がにじんだ。 もう疑いも、不安も要らない。ただ互いを信じ、愛していける。
ふと目が合う。 眩しい日差しよりも温かい光がそこにあって、私は自然に微笑んでいた。 次の瞬間、アルバの影がそっと重なり、優しい口づけが交わされた。
アルバの口付けは最初の頃と違い、優しい。深い愛情が込められていた。
市場の喧噪も、その時だけ遠ざかっていく。 聞こえるのは互いの鼓動だけ――世界にただ二人きりであるかのように。
長々と書きましたが、要するにただのデートです。
アルバ王に似合う香料、なんでしょうかね。すごくいい匂いがしそうですね!余談ですがアルバはいくつも香料を持っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




