オリガの願い
オリガ視点です。
私が目を覚ましてしばらくしてから、伯爵家からは次々と謝罪の使者と贈り物が届いた。宝石、絹布、香水に、珍しい菓子。
けれど私はそのすべてを静かに突き返した。
「そんな、いただけませんわ。こんなに豪華なものを……お気持ちだけで充分ですから」
使者は汗を拭いながら何度も頭を下げ、それでも引き下がろうとはしなかった。
「せめて、この誠意だけは……伯爵様のご意向ですから。せっかくオリガ様に哀れみをかけて頂いたのに!」
必死の訴えに、私は困ったように眉根を寄せる。
(どうしよう。受け取らないと後々政務に支障が出るかな?……そうなるとアルバの立場も危うくなるかしら)
私が考えを巡らせていると、数々の贈り物の中にひときわ目を引くものがあった。
それは一着のドレスだった。
深い青の絹に、金糸でアラベスク模様が刺繍されている。 砂漠の夜を思わせる色合い、胸元には光を受けて星々のように瞬く細工があった。
「これは、ライラ様が自ら縫われたものです。オリガ様にこそお召しいただきたいと」
その言葉に、背後でアルバが低く声を落とした。
「断れオリガ。今さら心を繕う飾りなど要らぬ」
しかし私はその裾に触れ、そっと目を伏せる。
「……いいえ。これは贖罪ではなく、誠意でしょう。受け取ります」
「なっ……、オリガ……」
(全くこのお嬢様は気をもませる!もっと危機感を持たんか!!)
「ね、いいでしょう?アルバ」
「……好きにしろ……」
アルバは少し呆れたようなため息を漏らしたけど私の意志を尊重してくれた。
それに、なんて美しさ!きっとライラは私の事を思ってこのドレスを仕上げたに違いないわ。深い青の絹は私の瞳を、金の糸のアラベスク模様はまるで私の金の髪……
私は刺繍が好きだからこそライラの気持ちがわかるわ。
そう告げると、扉の向こうから現れたライラが、震える手を胸に当てた。
「オリガ様……私は、かつてあなたを憎んでいました。ですが今は、その御心に触れ……」
ライラの瞳は、熱に浮かされたように潤んでいる。
「どうかお傍に置いてください!あなたに身を捧げてもいいと、本気で思うのです!」
私はアルバの方に視線を向けた。アルバは何も言わない。言葉はなくとも、アルバの沈黙は氷のように冷たく、ライラを断罪する怒りで満ちていた。
(そうよね、さすがにすぐにはそんな事できないわ……アルバのためにも。そして私のためにも)
私はライラを見つめ、彼女を安心させるように微笑みを返した。
「ライラ、今はあなたのドレスを受け取るだけで充分です。ですが私が困った時には、手を貸してくださいね」
今の私には残念だけどそれしかできない。
アルバの気持ちを考えたら、まだライラを側に控えさせるのは難しいもの……
「はい!はい……必ず!!その時には精一杯努めさせていただきます!!」
赦すことは忘れることではない。けれども、赦しから芽吹く絆があるのだと、ライラの震える声が教えてくれた。
私はライラのドレスを受け取ったのにも関わらず、まだおぼつかない様子を漂わせている使者たちに目を向けた。
(この人たちも、立場があるものね)
使者たちが困惑して頭を下げる姿を見ながら、私はふっと笑みを浮かべる。
「……では、贈り物の代わりに、一つだけ望みを叶えていただきたいの」
そう言って視線をアルバに向ける。
「アルバと街へ買い物に行かせて!何も気にせず、できれば従者もつけず全部好きに買わせてほしいわ。それが私にとって、一番の贈り物だから」
その言葉に、アルバの目がわずかに見開かれた。
「オリガ、そんなことでいいのかお前は?」
「ええ!私には最高の贈り物よ!アルバと一緒に過ごせるのだもの!」
「……オリガ、お前は本当に……」
「ん?」
(本当に可愛い事を言う!!//これほどまでに俺を翻弄する者が今まであっただろうか?やはり悪女だ!俺にとってオリガは悪女だ!)
「承知致しました!ではすぐにご用意を……」
そう言って伯爵の使者たちは、慌ただしく部屋を出ていった。
ライラは充分反省して、もう二度と愚かな事はしないとオリガは分かっています。少しシリアスな話が続いたので最後の方はアルバに少し困ってもらいました。
次回はデート回!!
ここまでお読みいただきありがとうございました。




