アルバの独白
アルバ視点です。
俺は侍従に短く命じて、オリガをそっと抱き上げた。
王としての威厳も振る舞いも、今の俺には不要だ。必要なのはただ――この腕の中にある命を、取り零さないことだけ。
部屋は厚い石壁が昼の熱を遮り、外よりもひんやりとした空気が漂っていた。
天蓋から垂れる布は真紅に染め抜かれ、薄絹の層がゆるやかに揺れる。窓辺に吊された透かし彫りの真鍮製のランプが、橙の光を散らし、部屋の隅々に細やかな影を落としている。
床には幾何学模様の織物が敷かれ、香炉からはサフランと沈香を混ぜた甘やかな煙が漂っていた。
寝台に横たえられたオリガは、額に汗をにじませ、頬を紅潮させ、苦しげに眉を寄せていた。
呼吸は浅く、そのたび胸が上下し、俺の心臓まで締め付けられる。
「オリガ……」
(俺が少し目を離したせいで……もっと気を配っていれば……)
名を呼び、冷水に浸した布を絞り、額にそっと当てる。
幾千の兵を救おうと戦場で手を汚してきた俺だが、これほど手が震えるのは初めてだった。
背後でアディが声をかける。
「私もここにいます!私はオリガ様の侍女ですもの!」
「アディ……頼む。今は二人だけにしてくれ。オリガのそばにいたいのだ」
それは俺の、もはや祈りにも似た願いだった。
「……でも」
「大丈夫だ。オリガは俺が必ず守る」
「……必ずですよ!グスッ!」
「任せろ。必ず守る」
アディは涙を堪えて唇を噛み、深く頭を下げて部屋を去った。アディはオリガの侍女としてではなく、良き友としてそばに居たかったのだろう。
扉が閉じ、静寂が戻る。
――残されたのは俺と、眠りに囚われ苦しむオリガだけ。
(国のことなど、今はどうでもいい。民を愛する王であろうと、剣を握る武人であろうと、この時ばかりは意味を失う。俺のすべては、この命を守るためにあるのだ。もしオリガを失うくらいなら……王位でさえも……)
だが彼女の命だけは、失えば二度と戻らない!
そのことを想像し、サーっと体中から血の気が引き、嫌な汗が出る。
俺は椅子を寝台の傍らに寄せ、彼女のぬくもりのある手を握りしめる。
(こんなに小さい、柔らかな手を……)
ーーこの命を、失わせはしない!!
それが唯一の救いであり、心を繋ぐ鎖だった。
「オリガ……必ず戻ってこい。俺はお前を失いたくないんだ」
その誓いは、俺自身の胸の奥にしっかり刻まれた。
オリガは俺の命そのものだ。
アルバはオリガが聞いてない時は饒舌なんです。
でもアルバは最初の頃とだいぶ変わってきたと思いませんか?(聞くな)
静まり返った部屋の中、アルバのオリガへの一途な愛の献身を感じていただけると嬉しいです!
ここまでお読みいただきありがとうございました!




