染め物の街
視点が三人称なので、やや説明口調になっています。読みにくかったらすみません。
西の森を抜けると、砂色の石で築かれた町が広がっていた。
陽光を浴びた大通りの両脇には染め布の商家が並び、深紅や藍、金糸で縁取られた布が風に舞っている。その奥、丘の上に白亜の大理石で造られた伯爵の屋敷がそびえていた。
この伯爵家は古くから染め物で栄え、家紋には常に緋色の布と孔雀の羽が描かれている。屋敷の大門にも同じ紋が刻まれ、訪れる者の目を奪った。
私たちは従者を伴っていた。従者は織物の模様をあしらった通行証を門番に差し出す。門番はそれを確かめ、私たちに向けて敬礼をした。
開かれた大門の向こうには、噴水の水が砂漠の空気を冷やし、香が漂う石畳の中庭が広がっていた。染め布の屋根飾りが風に揺れ、宮殿を思わせるその光景の中へ、私たちは導かれていった。
「すごいすごい!!みんな色とりどりで輝いているわ!あの飾りを見て!なんと豪華な刺繍でしょう!」
オリガは目を輝かせ、街路を覆う布の天幕や、風に舞う深紅と蒼の布地に夢中になっていた。陽光を受けた金糸が、まるで砂漠の陽炎のように揺らめいている。
「気にいってくれたようで良かったよ」
アルバは穏やかに笑い、そんな妻を見守った。
「すごく気に入りました!ねぇねぇあとで街の染め物を見てもいい?アルバ」
「もちろんだ。でも伯爵の屋敷にはもっと豪華な染め物もあるのだが」
「もちろんそれも見るわ!」
一人ではしゃぐオリガに、アディは肩をすくめてやれやれというように呆れ顔をし、カミラは微笑ましそうにその姿を見守っていた。
「よかったですねオリガ様。オリガ様がお好きそうな刺繍と金の細工、色々ありますよ」
「ええ!最高だわ!珍しい色の糸を買わなくては!」
オリガはアディの言葉に食い気味で答えた。
やがて、白亜の大理石で造られた伯爵邸の大門が開き、染め布の垂れ幕が風にはためく。天幕には伯爵家の紋章――緋色の布と孔雀の羽――が鮮やかに織り込まれていた。
「やあやあアルバ様!お待ちしておりました。ようこそ我が領地へ!」
領地を統治する伯爵は、深い藍色の長衣に金糸の縁取りを施した衣をまとい、接客用に整えた髪と黒檀の杖を携えて現れた。その装いは豪華でありながら、決して嫌味ではない。
「こちらこそ感謝する。妻のオリガもこちらの名物に満足している」
アルバがオリガに目を遣ると、オリガはそこら中に設えてある珍しい染め物に目移りするのを我慢しているようだ。
「初めまして。オリガと申します。カレド様」
(アディが伯爵の名前を教えてくれててよかったわ)
カレドに案内され、私たちは屋敷の中へと足を踏み入れた。
涼やかな影を落とす回廊は、優美なアーチで連なり、天井には繊細な幾何学模様の彫刻が施されている。陽光が透かし彫りの窓から差し込み、床に敷かれたタイルに青と金の光が踊っていた。
壁には深紅や翡翠色の染め布が間仕切りのように掛けられ、柔らかく揺れては視線を奪う。布には黄金の糸で唐草や孔雀が織り込まれ、砂漠の国にありながら海と森の豊かさを思わせた。
通りすぎるたび、香料の壺からはジャスミンや沈香の香りが漂い、足元に敷かれた絨毯は雲の上を歩くかのように沈み込む。
「まぁ……なんて素敵……!」
オリガは堪えきれず声を洩らした。視線の先には、青と金の糸で織られた天幕が広がり、光を受けてきらめいていた。
オリガの感動の様子を、色とりどりの染め物や孔雀の織物や香りなどで一緒に感じていただけると嬉しいです。
※沈香とは香りの一種で、香りの種類は色々あるんですがここではバニラに似た香りです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




