カミラの過去
「オリガ様、数々の無礼をお許しください――!」
私は石床に額を擦りつけた。硬く冷たい感触が皮膚に沁みて、まるで過去の惨めさまで呼び覚まされるようだった。
私は田舎の小さな村の生まれだ。赤子の頃に母親を、五歳になる頃には父を失い、飢えに耐えながら生き延びた。まだ十歳にもならぬ私に、誰も手を差し伸べなかった。
私の母は、私を産んだ直後に亡くなったため、「産み落とした瞬間に母を喰らった子」と陰口を叩かれた。
そういうこともあり、人々には「不吉な子」と言われ、畑仕事や家畜の世話を押しつけられ、失敗すれば棒で叩かれた。手の甲にはその頃の古い傷が今も残っている。
「そんな! 頭を上げてください」
オリガ様の声は驚くほど柔らかく、胸の奥に沁みこんでくる。
だが、私は首を振った。許される価値が、自分にはないと思っていた。
「いいえ……こうまでしないと、私の気が収まりません! アディにも、ごめんなさい……」
恐る恐る視線を上げると、アディが肩をすくめ、気安げに笑った。
「えっ? 私? 私は何も気にしちゃいないさ。それにオリガ様もとっくに許してるよ。オリガ様は今やすっかり別人だからな。カミラも見ただろ? オリガ様のリアム様への素晴らしい対応を」
私は息を呑んだ。
――そう、私は一生、この方のようにはなれない。
村では「泥だらけの娘」「畑女」と笑われ続けた。どれほど働いても綺麗な服は与えられず、宴の席に近づくことも許されなかった。私はただ、誰かの影で汗を流すしかなかったのだ。
「アディ、そんなことないわ。褒めすぎよ」
オリガ様が微かに頬を染め、目を伏せられる。その仕草に、胸の奥で何かが震えた。
「オリガ様……ありがとうございます! 実は、私のオリガ様への中傷がアルバ様のお耳に入り、職を失うところだったのを……オリガ様が庇って助けてくださったと聞いて……私、このご恩は一生忘れません!!」
(また故郷のあの村に返されて、もう泥水を啜りながら働かされた日々には戻りたくない!!まるで奴隷のように働かされた頃には……!!)
必死で言葉を吐き出すと、アディが驚いたように目を見開いた。
「えっ、そうだったの? カミラ、命拾いしたなぁ!」
「まあ、そうだったの!? 少しでも力になれたなら嬉しいわ。カミラ」
オリガ様の瞳は、湖のように澄み、私の汚れた過去までも抱きとめてくださるようだった。
「このご恩は一生忘れません! いつか、必ずお礼申し上げます!」
声は震え、嗚咽と混ざった。
「いいのよ、お礼なんて! それよりもアルバのこと、陰ながら支えてあげてね」
「よかったなあ! カミラ!」
二人の温かな言葉に、涙が頬を伝い落ちた。私は村では泣くことさえ許されなかった。泣けば「役立たず」と罵られ、さらに労働を押しつけられたから……
けれど今は違う。涙が流れても、誰も私を咎めない。
――忘れない。この恩を裏切らない。
(オリガ様……!)
私はもう一度肩を震わせ泣いた。最後の方はもう声にならなかった。
「カミラ……」
オリガ様の優しい声が聞こえる。
私は孤児で、蔑まれ、踏みつけられてきた。だからこそ、この赦しと救いを、一生心に刻むのだ。
(オリガ様……私は必ず、このご恩に報いてみせます!!)
カミラの忠誠心が芽生えた瞬間ですね。しかしカミラ、かなり不遇な境遇で生きてきたのね( ; ; )
次回はアルバとオリガとソウタの西の森の探索です。何もなければよいのだけれど……
ここまでお読みいただきありがとうございました!




