ゆっくり、少しずつ
アルバの手が肩から離れると、夜の風がそこに入り込んだ。
少しひんやりしているはずなのに、なぜかまだ温かかった。
(ゆっくり、少しずつ……)
彼の声が耳の奥で繰り返される。
焦らなくていい――そんなふうに言われたのは、生まれて初めてかもしれない。
故郷では、何をするにも急かされ、間違えれば叱られ、いつも心が休まらなかった……だから私は、早く「正しい答え」を探そうとばかりしていた。
「そろそろ中に入ろう」
「うん」
バルコニーを離れ、格子扉を閉めると、部屋の中は静かな闇に包まれていた。その闇に包まれ、私の心も落ち着いていくようだった。
壁のランプの火は小さく、天蓋付きの寝台の金糸がかすかに光を返す。
絨毯に足を踏み入れると、足裏にその柔らかさがじわりと広がった。
寝所に戻ると、香炉から漂う甘い香りが私を迎えた。窓の外にはまだ月がいて、その光がカーテン越しにゆらゆらと揺れている。
(アルバのこと、全部わかる日は……いつなんだろう)
考えるだけで胸がくすぐったくなり、思わず笑ってしまった。
わからないことが、こんなに心を満たすなんて――
あの本では教えてくれなかった。
「おいで、オリガ」
寝台で私を慈しむようなアルバの低くて優しい声がする。私は導かれるままに、アルバの隣に横たわり、アルバの逞しい体に顔を埋めた。絹のなめらかな感触と、アルバの匂いが心地よい。
(ああ、私、アルバが大好き……過去も、今も一緒)
私は髪飾りを外し、掌にのせて月明かりにかざす。
アクアマリンが青く瞬き、まるで「焦らなくていい」と私に囁いているようだった。
そっと寝台に身を沈め、アルバの美しい横顔を見ながら私は目を閉じた。
宵闇と部屋の暖かいランプの光に、オリガとアルバ心が平穏に包まれる様子、じわじわと二人の距離が近付いていく様子を感じていただけると嬉しいです!
相変わらず焦ったい二人です。
ちょっと今回は短かったですね!
ここまでお読みいただきありがとうございました!




