おさない二人
アディの手を借りて着替えたオリガはアルバの部屋の前をウロウロしていた。
私はオリガ。昨夜悪夢? 予知夢? で夫に殺される夢を見た女だ。
私の夫‥‥‥アルバは‥‥‥
結婚した時から、何を考えているのか、私を愛していたのかさえ分からなかった。
アルバの事が大好きで、アルバとの結婚が決まり有頂天だった私も、アルバからの愛情が感じられなくて、アルバにとって私は何なのか分からなくなって‥‥‥いつしか諦めてしまっていた。
「本当は、大好きだった」
アルバに助けてもらったあの日から、ずっと‥‥‥
アルバの部屋の前で何を話そうか迷ってウロウロしていると
「何か用か?」
ドキッ!
アルバの声がして、途端に胸が高鳴る。どうしてかしら? 私、アルバが大好きだった時の気持ちに戻ってる?
「あ、アルバ‥‥‥朝食を一緒にどうかしら?」
私、アルバと何かを一緒にした事があまりなかったのよね。アルバがいつも忙しそうにしてたから。でもそうやって気を遣ってた事が逆にお互いの距離を遠ざけていた気がする! だからやり直すの!
ガチャ!
「アル‥‥‥」
えっ、アルバってこんな‥‥‥大きかったっけ?
目の前には褐色の肌に黒髪で緑の瞳の背の高い男が立っていた。ハァー!? 私の旦那イケメンすぎる!!//
「珍しいな、お前から誘ってくるとは。用意をするからちょっと待っててくれ」
えっ‥‥‥嬉しい‥‥‥
「ありがとうアルバ!」
ぎゅっ!
私は嬉しくて思わずアルバの体に抱きついていた! だって一緒に朝食なんて本当に久しぶりで‥‥‥
「‥‥‥ッ! じゃあまた後でな。俺は着替えるから‥‥‥」
そう言ってアルバは私の手を振り払った。
「え‥‥‥」
ズキンッ!
え、私もしかして拒否された!? なんで!? 触れたのが、嫌だったの‥‥‥
「‥‥‥」
バタン!
音を立てて閉められた扉。愛されてなかったどころか、嫌われていたなんて‥‥‥
「どうして‥‥‥じゃあどうして私と結婚をしたの」
当時のアルバには私じゃなくても色んな良い出自のお嬢様方から猛アプローチを受けていたはずなのに。
その縁談を全て断って私との結婚に踏み切ったのは、多少なりとも私に愛情があるからだ、と信じていたのに‥‥‥
触れられるのも、嫌なほど
「ひどいわ‥‥‥」
* * *
「あぁ驚いた」
俺はアルバ。バラム王国の王だ。
たった今、嫁のオリガに抱きつかれて戸惑っている男だ。
(以前はあんな事してこなかったのに、今日はどういう風の吹き回しだ?)
俺の嫁、オリガは俺と結婚したと同時に城の御意見番に、半ば強引に引き離された。無理もない。結婚当初、まだオリガは15歳だったのだ。御意見番のした事はオリガを心配しての事だったのだろう。
俺は成人していたがいかんせん未熟だった。その未熟さゆえに御意見番は危惧していたのだろう。まだ幼いオリガを俺が傷つけるのではないかと‥‥‥
以来、オリガと何かを一緒にした事はほとんどない。幼いオリガは俺の事など気にも留めず、自由に振る舞っていた。
俺はそれでもよかった。オリガがのびのびとしているのを見ているだけで満足だった。
だが、オリガは周りに甘やかされているうちにどんどんわがままになり、傲慢になり、気づいた時にはオリガはすっかりテンプレ通りの悪女になってしまった。結婚当初の優しさはもうどこにも感じられなかった。
だが、今俺が見たオリガは少し違っていた‥‥‥?
(思わず振り払ってしまったが)
「泣いてはいないだろうか」
クソッ、オリガが成人するまでは‥‥‥と思っていたのに。あんな風に抱きつかれると調子が狂ってしまう!
「オリガ、どういうつもりだ。何かの作戦なのか?」
振り払った手が、熱を帯びていた。
※二人は一応結婚しています。
ここまでお読みくださってありがとうございました!