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わがまま王妃の奮闘記!  作者: 杉野みそら
第三章

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無邪気なオリガ

頑張るオリガ、焦るアルバ!(笑)

 低い象牙細工(ぞうげざいく)卓の上には、銀の燭台(しょくだい)が灯されていた。刻まれたバラム国の字で書かれた皿の上には、サフランの香り立つ炊き込み飯、炭火で焼かれた鶏肉、薄焼きパンが籠に積まれている。

 真鍮(しんちゅう)の細首になった壺から、アルバの前では深紅のワインが青い瑠璃杯へと注がれ――さらさら、と絹のような音が空気に溶けた。


 アルバは卓の向かいから私を見た。


「今日はよく来てくれたな、オリガ。その宝石もつけてきてくれたのだな」


 アルバは私の髪飾りのアクアマリンに気づいて微笑む。


「ええ……その、アルバに喜んでもらいたくて」


「似合ってる」


 アルバに褒められて、自然と頬が熱くなる。私用にと出された冷たいハーブティーをひと口含むと、舌に甘さが広がった。


 ゴクリ、と無意識に喉が鳴る。あからさまにそわそわしている私にアルバが声をかけた。


「……何か、考えごとでもしていたのか?」


「えっと……今日は一日、勉強していたの」 


「勉強?」


「うん。アディが持ってきてくれた書物でね!」


 私は胸を張って言った。


「アルバのことをもっと理解できるようにって、すごく熱心に……」


 アルバは眉をひそめ、パンをちぎる手を止めた。


「……どういう書物だ?」


「えっと……、男女が仲良くなるための……とっても詳しい図入りの……」


 ぱきん、とチキンの軟骨を噛む音がやけに大きく響いた。アルバが思わず顔を手で覆った。 


「……まさか、アディのやつ……」


「でもね!」


 私は身を乗り出した。 


「書いてあること、ぜんぶやってみたら、きっとアルバが……」


「オリガ!」


 低くも鋭い声に、卓上の杯がかすかに震えた。


「それは……食事の席で話すことではない」


「えっ、そうなの? でも本には……」


 アルバは片手で額を押さえ、ワインを一息にあおった。


「……後で、ゆっくり話そう」


 杯の中で透明な液体が揺れ、ろうそくの光を受けて、私の髪飾りのアクアマリンがゆらゆらと揺れていた。


 食事を終えたあと、アルバは静かに立ち上がった。


「……少し、外の風にあたろう」


 導かれるまま、私はアルバの部屋の奥、格子模様の扉をくぐる。そこは大理石の床がひんやりとした、半月形のバルコニーだった。 


 夜の空気は香草と砂の匂いを運び、遠くの街並みには金色の灯りが点々と浮かんでいる。ドーム屋根の向こうにそびえる礼拝堂が月光を浴び、白銀に輝いていた。下を覗けば、庭園の噴水がしずかな水音を立て、その水面に星が揺れている。


 アルバは手すりにもたれ、空を見上げた。


「……オリガ」


「なあに?」


「今日、お前が読んだ本のことだが……」


 低い声が、夜空に溶けていく。


「そういうことは、本や絵から知るものではない。……互いを思い、時間をかけて知っていくものだ」


「……でも、アルバのこと、もっと知りたくて」


 彼はふっと笑みを浮かべた。


「その気持ちは嬉しい。だが、焦る必要はない。お前が笑ってくれるだけで、俺は十分なんだ」


 月光が彼の横顔を照らし、翡翠色の瞳が淡く光る。胸の奥がじんと熱くなる。


「……じゃあ、ゆっくりでも……いいの?」


「ああ」


 アルバは私の肩にそっと手を置いた。


「ゆっくり、少しずつ。……そうすれば、きっとお前も、俺も後悔しない」


 風が二人の間を通り抜け、衣の裾をやさしく揺らした。私はただ、その温もりを手のひらに感じながら、彼の言葉を心に刻んだ。

オリガ、無邪気で可愛いですね!これにはアルバもタジタジです。徐々に近づいていく二人の距離と、バラム王国の夕暮れから夜に変わっていく様子を感じていただけたら嬉しいです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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