暴走するお嬢様方
三人称です。
甘い薔薇水と、カルダモンやシナモンが混じり合った香りが空気に溶け込み、柔らかな絹の帳が揺れるたび、香煙は淡い渦を描いて漂っていく。
低い机は光沢のある黒檀に金の細工が施され、そこに並ぶ茶器は繊細な細工の施された銀のポットと、宝石を纏うかのように彩られた瑠璃盞。
小さなグラスからは立ちのぼる湯気が光に透けて揺らめき、ミントと砂糖の混ざった芳しい香りが周囲を包んでいた。
床には幾何学模様の織物が重ねられ、色鮮やかな香座が無造作に置かれている。窓辺には透ける布が垂らされ、差し込む陽光を金と紅に染めて揺らしている。
そんな豪奢な煌めきに囲まれたお茶会は、果たして始まったわけだがーー
「いただきます」
そう言ってオリガがカップを手に取り、ひと口お茶を飲む。
その瞬間ーー
「!!ご覧あそばせ皆様!王妃様がお茶をお召し上がりになったわ!」
「その姿はまるで……まるで聖杯に口づけなさる女神!」
「ちょっと誰か!!今の湯気の立ち方を記録して!後世に残さねば!」
「……いやいや、ただお茶を飲まれただけでございますよ」
アディが苦笑しながらそう言うが、令嬢達はオリガの所作に夢中で聞いていない。
「お茶になりたい……!せめてそのカップでも……!」
「だめよ!それは城の至宝として保管されるべきよ!」
「アディ様、どうか……!あのカップを一晩だけでも抱かせていただけません!?」
「いや、落ち着いてくださいよ。そんな事私に頼まれても……」
アディは慌てて制止しながらも、今にも笑ってしまいそうで顔が引き攣っている。
オリガはきょとんとした表情で小首をかしげるだけ。
「……何か??」
その仕草に一ー
「きゃああ!!小首を傾げられた!!」
「この瞬間を記念日にしましょう!暦を新しく刷り直して!!」
「ちょっとちょっと、大げさですよ!!」
アディは堪らなくなり、ご令嬢の暴走を慌てて止める。
「えっと、えっと……」
(何か変だわ……いや何が変とは具体的に言えないけど、このお嬢様方は何か思い違いをしているのかしら??)
オリガが若干ズレた解釈をしながらその様子に困惑していたが、オリガを勝手に崇めだした令嬢たちはもう止められない!
「き、今日はいい日ですわね……」
オリガが絞り出すようにそう言うと、ご令嬢の一人が歓声を上げた。
「聞いた!?"いい日"ですって!?」
「つまり今日この瞬間こそ歴史に刻まれるべき日ということよ!!」
「記録係!!早く暦に書き込みなさい!『王妃様のいい日記念日』よ!!」
「そんなもん記録するかぁ!!」
とうとうアディが机を叩いて叫んだ。
アディはいつも大変だなぁ笑
お茶会、暴走するご令嬢達楽しかったです。
※カルダモン…ショウガ科の植物
最後まで読んで頂きありがとうございました。




