新たな試練
「アルバ様、お手紙が来ています。至急のようで‥‥‥」
「ああ、そこに置いておいてくれ」
俺はアルバ。バラム王国の国王であり、オリガの夫である。
昨日はソウタが俺とオリガが最初に出会った場所に連れて行ってくれたおかげで、ずいぶん俺とオリガの距離が近づいた気がする。俺は上機嫌のままに手紙を開封する。
「ん?これは‥‥‥」
* * *
「ねぇアディ、このお菓子とっても美味しいのよ。一緒に食べない?」
私はオリガ。先日、夫アルバに殺される予知夢的な夢を見ちゃって、その夢があんまりにも生々しかったから、死にたくなくて色々とやり直してる女だ。
「私は遠慮します。それにオリガ様、今は髪を整えている最中です。一国の王妃としてそのような行儀の悪いことは慎み‥‥‥」
「そ、そうよね。ごめんなさい‥‥‥」
アディに正論を言われてしまい落ち込む。以前の私ならすぐクビにしていたところだけど、アディは全く悪くないわ。むしろ王妃としての在り方を教えてくれている。
(どうして今までは我慢ができなかったんだろう‥‥‥)
「〜〜〜〜っ! 仕方ないですね! 少しだけですよ!」
「えっ!?」
「お菓子! くれるんですよね」
アディが仕方無さそうに手を差し出す。
「えっ! ええ! 食べて食べて!」
「‥‥‥」
落ち込むオリガの背中を見てアディは考えていた。
(オリガ様は変わったわ。前までは侍女の私たちなど眼中にない感じで、話など振ってこなかったのに。ましてやお菓子なんて‥‥‥)
「ふふっ、アディ美味しいわね!誰かと一緒に食べるっていいわね!」
「‥‥‥はい、そうですね」
(本当に、今までの所業が嘘みたいに変わったわ。まるで子どもみたいね。いいけど戸惑うじゃない。こんなとびきりの笑顔を向けられたら)
バタバタッ‥‥‥
「ん?何やら外が騒がしいわね。何かあったのかしら」
「私が調べてきます」
「あっ私も‥‥‥」
二人して部屋の外に出ると、アディの友達の侍女が丁度いたので話しかけた。
「あ、あの!」
アディのお友達、確かカミラだったかしら?がこちらを見向きもせずに答える。
「なんですか? 今忙しいのですが。私は今アルバ様の‥‥‥」
「ちょっと! 王妃に対して失礼じゃないかカミラ!」
「アディいいのよ、それで‥‥‥、アルバが何だったかしら?」
「アルバ様の旧友が訪ねてくるのですよ。私はその準備で忙しいのです、もう行ってもいいですか?私はオリガ様にかまってられる程暇ではないので」
「カミラ!!いい加減にしなよ!」
アディが声を荒げた。
「な、何よアディ。あなたも内心は思っているくせに。どうしようもないわがまま姫だって」
「お前さぁ!!怒!!」
「アディ、いいのいいの。アルバのお友達かぁ‥‥‥、私も会った方がいいかな」
「よくないっすよ!!私ちょっと一言言ってきます!!」
アディはそう言ってカミラを追いかけて行ってしまった。
「いいのにそんなこと‥‥‥」
今まで目下の者は大事にしてなかったのだから、あの侍女の態度は当然のことだわ。でも「わがまま姫」お城の中でそう呼ばれていただなんてね‥‥‥
「そうだ、アルバのところに行こう!」
アルバの部屋が近づくにつれ、人が増えて来た。
私はこの国の人たちより体が小さいので端っこを遠慮がちにわたっていた。
「オリガ様よ。以前は遠慮なくずかずかと真ん中を通っていたのに」
「しかもあの小さい体をさらに小さくして」
「ははは、あまりに小さくて見えなかった」
(えっ‥‥‥)
そこら中から私の陰口が聞こえてくる。なんで、なんで歩いているだけなのに。いや、私が傷つくのもおかしいけど‥‥‥。これが私が今までやって来たことの報い?
だとしたら今までの私はなんて愚かな事を‥‥‥
(ごめんなさいごめんなさい!今までごめんなさい!)
私は完全に足を止めてしまった。まるでそこに足が縫い付けられたように動けない。
「聞こえちゃったのかしら?でもなぜ傷付いたような顔をしてるのかしらね」
「震えてる?ははは、王妃が情けない」
ドンっ!!
「お前ら!!」
いつのまに出てきていたのだろう。足を鳴らして、私の前にアルバが立ち塞がっていた。
「あっ‥‥‥、アルバ」
アルバ、怒ってるの?こちらからは顔が見えないけど、アルバの怒りのオーラが伝わってくる。
「オリガは王妃だ! 王妃を貶す事は王を貶すと同意!! 全員この場で即刻クビにしてもいいのだぞ! それが嫌なら無駄口を叩く前に持ち場に戻れ!」
「ひっ、ひいい!お助けを〜!」
「どうか、命だけは!」
アルバの怒鳴り声でそそくさと散らばる侍女や従者たち。
「‥‥‥、おのれ!あの者らめ!御意見番といい、王妃に対しずいぶんな態度だ」
(ああ、アルバ!)
「オリガ、大丈夫だったか?」
目の前には、いつものように優しい表情を浮かべたアルバ!
ぎゅ!!
「アルバ‥‥‥、私」
どうしよう、泣きそうになる。泣く資格なんか私にはないのに!!でもアルバの匂いに包まれていると安心して‥‥‥
「アルバ、アルバ‥‥‥」
私はアルバにしがみつく事しかできなかった。
「‥‥‥オリガ、ひとまず俺の部屋に入ろう」
私はアルバに担がれてアルバの部屋に入った。人払いをしたのか、アルバと私の他に人はいなかった。
「大丈夫か?ほら、オリガ。ゆっくり飲め。心が落ち着く」
「う、うん、ありがとう」
私はアルバに差し出されたハーブティーをゆっくり飲む。
(まさかこれほど憎まれているなんて‥‥‥)
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
(嘘だ、さっきから震えが止まらない)
【震えてる?ははは、王妃が情けない】
ゾクッ‥‥‥
「も、もう大丈夫‥‥‥」
【聞こえちゃったのかしら?でもなぜ傷付いたような顔をしてるのかしらね】
(そうだ、私に傷つく資格なんかない)
「も、もう、大丈夫だから。こ、このお茶、ありがとう‥‥‥わた、私」
「オリガ」
「だ、大丈夫、平気‥‥‥、だから‥‥‥」
「オリガ!」
あ、アルバの声‥‥‥低くて、優しい声。
「オリガ、こっちに来い」
「‥‥‥で、でも‥‥‥」
「いいから」
「うん‥‥‥」
あ、、アルバの体暖かい。固まっていた体と心が、アルバの暖かく大きな体に包み込まれて、ほぐれていく。
「アルバ、もう少しこのまま‥‥‥」
「うん」
アルバは何も言わず、何も聞かずにいてくれた。
ただずっと私を抱きしめてくれていた。
頑張れオリガ!!泣
※バラム国の民は男女共にみんな血の気が多いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




