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1-5「呪いの好奇心」

「トワ…今日は一杯付き合ってくれ」


ソラが真剣な顔で僕を見る。


「今日“も”だろ?」


「はは、たしかに!」


そう言って、僕たちはいつもの村の酒場へ向かった。


———


ドンッ!


ソラのビールジョッキがテーブルに置かれ、鈍い音が響く。かなり酔っているのか、ソラの腕に力がない。


「なぁ…トワ。兄ちゃんの手紙、読んだときどう思った?」


唐突な問いかけに、僕は一瞬言葉を失う。


「うーん、なんていうか…」


僕は正直に、ソラの兄ちゃん(アラタ兄ちゃん)を「かっこいい」と感じてしまった。でも、それをそのまま言っていいのか悩んだ。


ドリーマーが笑われるこの世界で、その感情は正しいのか?

“普通の人”としてちゃんと生きていけるのか?

言葉が喉の奥で詰まる。


僕の沈黙を見て、ソラが口を開いた。


「俺は…正直、“かっこいい”と思った。

兄ちゃんがドリーマーだったなんて驚いたけど、それと同時に、俺の中のドリーマーてのが完全に変わったんだ」


ソラの率直な言葉に、僕は安心と恥ずかしさを同時に感じる。周囲の目を気にして、自分の気持ちを素直に言えなかった自分。


「ぼ、僕も“かっこいい”と思った! アラタ兄ちゃんは、一人で世界と戦っていたんだよね…」


僕はソラに便乗するように、本音を口にした。


するとソラは、まるで秘密を告白するかのような静かなトーンで言う。


「俺…ドリーマーになる」


「え…ドリーマー?」


パリンッ!


思わず手にしていたグラスを落としてしまった。


その音が響いた瞬間、ざわついていた店内が凍りついたように静まり返る。


けれど、ソラは気にも留めずに語り続ける。


「ドリーマーになって、俺はこの世界を変えたい。兄ちゃんの意志は、俺が引き継ぐ」


「で、でも! それじゃあ、ソラが死んじゃう! ドリーマーは、悪魔ザドキエルに殺されるって…」


静まり返った酒場に、僕たちの会話が不気味なくらいはっきりと響く。

我に返った僕たちは、慌てて手で口を塞いだ。


そのとき——


カウンター席の一人の細身の男が、くすくすと笑いながら立ち上がった。


「こいつら、また言ってんぞー! “世界を変える”? 何言ってんだよぉ!」


男は手を叩きながら、大声で笑い出す。それにつられて、周囲の人々も笑い始めた。


「前にも言ったけどよ、“お宝”なんてどこにもねぇんだよ! 俺みたいに“普通”に暮らしてりゃ、永遠に生きていけるんだよ。あるはずのないもんを追いかけて死ぬとか、マジでバカだろ? わかるか? 自殺志願者くん」


その顔、その声…以前、僕たちを嘲笑したあの男だ。


ソラは、立ち上がる。

怒りでも、悔しさでもない。

その表情からは感情が読めなかった。


向かってくるソラに気づいた男は、自身の頬を突き出す。


「なんだよ!文句あるのか?殴ってみろよ!」


これはマズい! 

僕も慌てて立ち上がり、ソラを止めようと肩を掴む。


「ソ、ソラ! 喧嘩はダメだ、堪えて!」


ソラは男を睨みつけながら、静かに語りはじめた。


「たしかに俺は、“お宝”なんて見たこともないし、本当にあるかもわからない。でも、気になるんだ。

なぜドリーマーは命を賭けてまで“お宝”を探すのか」


店内に再び静けさが戻る。


「無謀な挑戦だって笑ってくれて構わない。

だけど、俺はこの好奇心を止められないんだ!」


ソラは僕の方へ振り返り、優しく笑う。


「トワ、今日はありがとな。帰ろうぜ」


その目は、何かを乗り越えたように澄んでいて、まるで毒素が抜けたような清らかさがあった。

男は呆然とした表情で、ソラの背中を見つめていた。


「お、おい!本気か!?“お宝”なんてどこにもねーぞ!?現実を見ろよ!」


その声は、もうソラには届かなかった。


———


「あぁー、飲みすぎた……体がフラフラする」


緊張が解けたせいか、急に酔いが回ってきた。


「おいおい、大丈夫か?」


ソラの視線が、ふと空へと向かう。


「やっぱり、日に日に割れてきてんだよなぁ……空」


僕も思わず空を見上げた。


「たしかに、前よりも……割れてるかも」


この世界が、崩壊している——

でも、僕はまだそれを実感できていなかった。


ふと僕は思った。

もし、本当に崩壊しているとしたら、ドリーマーに何ができるんだろう?

“お宝”を見つけたところで、それが世界を救う手段になるのか?


僕には、まだ分からないことが多すぎる。


それでも、ソラみたいに世界のために自身の好奇心のために命をかけられるのか……?


「な、なぁソラ、僕……」


言いかけたとき、気づいた。


ソラがいない——。


周囲の景色も、明らかに見慣れた帰り道ではなかった。

どうやら僕は、ソラとはぐれてしまったようだ。


「ここ……どこだ……?」


夜空の光が、木々の葉を通り抜ける。

地面に映る光は、まるで星空のようだった。


僕は思い出す。この幻想的な光景を。

——子どもの頃、ソラと何度も見た、あの“秘密の場所”。


懐かしいな……

夜になると、毎日のようにここで遊んだよな。


その記憶はまるで、今インストールされたかのように鮮明だった。


——


「なぁ、ソラ。ドリーマーって、かっこいいよな」


「何言ってんだよ。そんなバカなこと言ったら、寿命減るぞ…

……でも、俺も、たしかにかっこいいと思う」


「だよな! “お宝”って本当にあるのかな?」


「どうだろうな。実際に見たことないし、昔話でしか聞いたことねーし」


「なぁ、“お宝”、探してみない?」


「はぁ? そんな“自殺行為”、誰がするかよ。俺は、普通に生き続けるよ」


「“普通”ねぇ……」


……そんな会話をしたのは、いったい何年前だろう。


僕は懐かしさに浸りながら、地面に寝転んだ。

木々の隙間から広がる星空のような景色に、心を奪われる。


自分という存在が、この世界にとってどれほど小さいか——

そんなことを思い知らされる夜だった。


「今日は満月か……」


こんなに綺麗な森、久しぶりだな……

ソラ、ごめんな。今日はこの絶景を独り占めさせてもらうぜ。


……ん? あれは?


ふと視線の先に、光が一点に集まっている場所がある。

その光は、まるで何かが「ここにある」と主張するかのように、地面を照らしていた。


僕は好奇心に突き動かされ、光の元へと足を進める。


地面を掘り返すと、土の中から“光り輝く球体”が姿を現した。


「……なんだこれ?」


球体を手に取り、土を払いながらよく観察する。


丸い。でも、完全な球ではない。

少し上下がズレていて、境目のようなものがある。

指でなぞると、うっすらと継ぎ目が感じられた。

どこかで見たことがある感触。このワクワク感。


——ああ、そうだ。

これは、ガチャガチャの……カプセルだ。

もしかして……これが“お宝”?


僕はカプセルを開けようとした——そのとき。


ガサガサガサッ!


背後から、木の葉を踏む音。

ライトのような光が、木々の隙間からチラチラと差し込んでくる。


「やべ……!」


この場面を誰かに見られたら、僕は完全に“ドリーマー扱い”されてしまう!


焦った僕は、カプセルを再び地面に戻し、足で土をかぶせた。

そのまま、近くの木陰に身を隠す。


ガサッ、ガサッ、ガサッ——


とうとう音の主が姿を現す。


ライトを片手に現れたのは、短髪でがっしりした体格の男だった。

袖を肩までまくり上げ、鍛え上げられた腕が目立っている。まるでアスリートのようだ。


「ん……? あれか……」


男は地面に視線を落とすと、すぐに土を掘り始めた。


そして、あの“光り輝く球”を掘り出し、まるで見慣れた動作のようにカプセルを開けた。

中には、先端が鍵の形をした鏡のようなものが入っている。


男はそれを手に取ると、迷いなく光にかざした。


すると——


鏡が光を反射し、一直線の光が木々の奥へと伸びていく。

まるで、「進むべき道はこっちだ」と、導いているかのように。


僕は思わず、男の腕を見た。

そこには、赤く光る“65”という数字。

アラタ兄ちゃんと同じ赤色。


……この人って、ドリーマー?

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