表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1-1「償い」

「おーい!起・き・ろ!おーい!」


やかましい声が耳に響く。


……うるさいな。今日は確か、仕事休みだったろ?

もう少しだけ寝かせてくれよ、頼むから……

でも、待てよ――、

……僕、一人暮らしだったよな?


「おーい、いつまで寝てんだよっ!」


(パシパシッ)


両頬にしつこいビンタ。さすがに痛くて目が覚めた。


「いってぇ!誰だよ!」


目の前には見慣れた顔――ソラ。

……誰だ、ソラって。

名前は出てくるのに、記憶が霞んでる。

確かに親友のはずなのに――どうして、こんなにも“他人”に思えるんだ?


「今日は飲みに行く約束だろっ!」


「“今日は”って、“今日も”の間違いだろ……俺たち毎日飲んでないか?」


「へへっ、昨日もベロベロだったぜ?」


あれ?僕って、そんな社交的だったっけ……?

いや、そうだった。

ソラとはいつも一緒だった。……よな?




その後、街へ繰り出し酒場で乾杯。

ソラはいつも通り騒がしく、酒も豪快にあおる。


「なぁ、おっちゃん!酒もう一杯!」


「はいよ!そこらへんの、適当に持ってけ〜!」


何杯目だ?もうわかんない。

頭もガンガンするし……


「なぁ、そろそろ帰らね?なんか今日は、変な感じでさ」


「ん?どうした?いつも朝まで付き合ってくれるのに」


「……そう、だったっけ?」


するとソラが急に真顔になり、席の隅にある、新聞を広げた。


「おい、また“ドリーマー”が出たらしいぞ。近くの村だとよ!」


「……ドリーマー?なにそれ、なにかのバンド?」


「バンド?お前、マジで酔ってんのか?

ドリーマーってのは――」


彼は声を潜め、少し顔を近づけてきた。


「……“ドリーマー”ってのはさ、この世界の“お宝”を探してる奴らのことだよ」


「お宝って……なんだよ、それ」


「夢のカケラさ。昔この世界に生きてた人間の、本音とか、願いとか……そういうのがバラバラに散らばってるらしい」


「でもな、それを集めてる連中は“ドリーマー”って呼ばれて……笑われてんだよ」


「笑われてる?」


「『お宝なんてない』『現実見ろ』ってさ。

誰も本気で"お宝"なんか追わない。

追ってる奴がいると、浮くんだよ。

……だから“異端者”ってことにされてんだ」


「……」


「でもな、本当は……その夢のカケラを集めることで、壊れかけてるこの世界を元に戻せるって噂もある」


「壊れてる……?」


「最近の空、最近見たか?

少しずつ割れてきてる。

気づいてない奴ばっかだけどな」


「……」


「夢が無くなるたびに、人の心が壊れていく。そして、それと一緒に世界も、音を立てて少しずつ崩れてる……らしいぜ」


「でもな、誰も信じない。

“夢”なんてバカらしいって思い込んでるからな。

だからドリーマーはいつも笑われてる。

“そんなもん追ってどうすんだ”ってな」


夢を追うやつが……世界を救ってる……?

そんなバカな話……なのに、胸が熱くなる。

心の奥が、何かを思い出そうとしてる……

――僕は、本当にただの会社員だったのか?

それとも……


「でも、その"ドリーマー"が世界を救うために"お宝"を探しているならスゲェーカッコいいことじゃん!」

まるで世界を裏で支えているヒーローみたいで、興奮した僕は思わず語尾を強めてしまった。


すると、ソラはかなり焦った様子でトワの頭を抑え、口の前で人差し指を立てる。


「シィィー!静かにしろ!"ドリーマー"がカッコいいなんてここでは禁句だぞ!」


さっきまでの喧騒が嘘のように、酒場が静まり返った。


あれ?僕、結構まずいこと言った?

なんか、やばい空気になってるんだけど…


すると酒場のカウンター席で飲んでいた細身で、無造作な髪の男性が立ち上がり、こちらを見る。


「ドリーマーがかっこいい?はぁ?」

突然、男性は前屈みにお腹を抑える。


「……ぷっ、マジで言ってんの?

あぁ、口だけの“現実逃避”ヤロウたち、ほんっとカッコいいよな~?」

わざとらしく拍手しながら、彼は唇を歪めて笑った。


おいおい…"ドリーマー"ってどんだけ嫌われてるんだよ!

「"現実逃避"ヤロウ?」


「あぁ、そうだ!

本当にこの世界に"お宝"があると思ってるのか?

そんなモノ、古くさい昔話でしか聞いたことねーよ!」


「しかも、その"お宝"を手に入れると寿命が伸びるんだとよ!

そんなの現実で起きるわけねぇじゃねーか!

人生ってのは有限、日々を普通に楽しく過ごして死ぬことだ、ありもしない"お宝"のために必死こいて寿命を使うなんてバカすぎるだろ!

きゃははは!」


そうだよな…

決まった寿命を、そんな幻想に費やすなんて――やっぱバカだよな……


「そ、そうですよね…

僕どうしちゃったんだろう?あはは…」


「こいつちょっと飲みすぎたみたいで、すみません!おい、ちょっとここ出るぞ!」


ソラは慌てて永遠の腕を掴み、店の出口目掛けて引っ張る。


嘲笑っていた男性は、永遠達を指差しニヤリと口を開く。

「おい、あいつらドリーマーに憧れてんのか?

宝なんてあるはずねーよ!

あったとしてもそれで世界が救えるかっての!

はぁー…マジでバカじゃん!きゃははは!」

甲高い笑い声が店中に響き渡る。


それに便乗するように酒場のみんなも笑いだす。

その声は酒場の外にまで響き、まるで店全体が永遠たちを嘲笑っているかのようだった。


————


「なぁ、今日のお前どうした?

ドリーマーをカッコいいなんてお前らしくないぞ?」


「ごめん……なんか変だよな、今日の僕……?」


「もう俺たち子供じゃないんだからさ…あのときとは違うんだよ…」


「え…あのとき?…」


ソラの表情に、一瞬だけ影が差した気がした。

……気のせいか?

「……いや、いいや!今日は帰ろうか!

また明日飲もうぜ!」


「お、おう…」


お互いに、明日の約束をするとソラは家へスタスタと帰って行った。


「僕も帰るとするか…」


はぁ…めちゃくちゃバカにされたな…

そうだよな…"ドリーマー"って無謀なバカのすることだもんな

どうしちゃったんだ?僕…

でも確実に、あのときヒーローのような"ドリーマー"をカッコいいと思ったんだ。

あの感情に嘘はなかったはず…


ふと空を見上げる。


見上げた空に、髪の毛ほど細い裂け目が一本。

闇に滲むように、じわりじわりと広がっていた。


空が……割れる、か。

ん?確かに亀裂が入っているような…

あぁ…酒の飲みすぎだ…


……今日はもう帰って寝よう。

明日になれば、全部いつも通りに戻っている。

夢であってほしい、心からそう願いながら。


……けれど、僕の中に残った“あの感情”だけは、まだ消えず燻っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ