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冒険者パーティー壊滅事件 Epilogue

 新たなクエストの発注、食事の注文、ギルドからそんな普段通りの光景が戻りつつあった。七星の団の不審な全滅の一件が解決したという報告から数日後の事だ。

 テーブル席には見慣れない服装をした2人がいた。黒を基調とした正装らしき制服は、どこかの国の文官を想起させた。

「あの~ロクドウさん。何で私たち、今もここにいるのでしょう? もう仕事は終わったんですから……」

「まぁまぁ。帰還の指示がまだ来ない事ですし。それに、ここに来た当初はゆっくりとギルドの料理を堪能できませんでしたからねぇ。ほら、よくあるじゃないですか。解決祝いに現地の酒場で乾杯とか」

 確かに、いわゆる刑事ドラマのラストシーンとかでありそうな話ではある。けど、そういうのは現地よりも地元の行きつけの酒屋とかではなかろうか。何にしても、わざわざそんな所を真似る必要があるのかアンには疑問だった。

 ただ、帰還の指示がないことも事実である。トレースやゼロと同じく、この世界の住人からすれば自分たちも転生者である。そして転生というのは、そんな簡単にできるものではないのだ。

 創造主の了承を得た上で、正規の手順で異なる世界を行き来する。それには莫大な力のリソースと手続きが必要であり、解決後にすんなりと帰れる保証はなかったりするのだ。

「そう言えばふと思ったんですけど、この世界の冒険者って意外と女性も多いですよね。一般的な世界では、戦いといえば男性の仕事という歴史を辿っていますけど……」

 もう仕方がないと割り切ってアンはギルドの様子を見渡し、自分たちの世界とは違う点に思い至った。こういった違和感もチーターを探る上で重要となってくるとは聞くが、逆にこの事はロクドウのチーターを見抜く基準にはならなかったのだろうか。

「その辺は創造主の匙加減でしょう。恐らく一般的な世界と比べて、生物的な要素は緩く作られています。食事、睡眠といった生きる上で不可欠なものは必要ですが、表立って語られない要素に関しては簡略化されているようです」

「表立って語られない要素……例えばどんな事でしょうか?」

「アンさん、あなた……この世界に来てからお手洗いに行きましたか?」

 言われてアンはハッとする。そういえば一度もお手洗いどころか大小どちらも催すことはなかった。この世界の時代的に衛生施設が整っていない可能性を加味しても、滞在期間の数日の内に一度も気にならなかった。

「え……じゃあ排泄しないで、食べた物は全部体に吸収したってことですか!?」

「そこまでは分かりませんが、あるいは栄養の吸収比率を調整して、こちらの世界の食事バランスに合わせているかもしれません」

 もしかしたら元の世界に戻ったら急に催すかもしれないと思うと食欲がなくなる。だがロクドウが構わず飲み食いしている所を見るに無用な心配だろうか。

「あなたが気にした女性率の高さも同じく匙加減でしょう。恐らくこの世界の女性は、いわゆる月モ……」

「ああああロクドウさん! ジョッキ空でしたね! お注ぎします!!」

 突如デリケートな話になると察知し、アンは慌ててロクドウに酒を注ぐ。なるほど、そういった匙加減も創造主の特権というわけか。あまり知りたくなかったアンであった。

「これは失敬。アンさんもグラスが空ですね。お注ぎしますよ」

 そういってロクドウはアンから酒を受け取ると、アンのジョッキに注ぎ込む。乾杯は既に済ませているが、お互い注ぎ終えたことで再び乾杯することになった。


「おお、こんな所にいたのかいご両人! あいつらの全滅の真相、暴いてくれてありがとうよ!」

 そんな中、テーブル席に座る2人に声をかけてきた大男がいた。今となっては七星の団、最後の生き残りとなったクワトロだった。

 クワトロが事件解決を知っていることから分かるように、事件が解決したことは既に公表されている。だがチーターについての説明をしても理解を得難いため、犯人がトレースとゼロであることは押さえつつ具体的な方法については伏せることとした。

 異教の悪魔の力を借りて暴れている所で戦闘になり、両名とも撃破して被疑者死亡。異教に関してはある事ない事をそれらしくでっち上げて報告。まぁチーターは邪法のようなものなので当たらずとも遠からずである。

「これはクワトロさん。無事に解決できて何よりです。今日はギルドにどのような? もしかして現役を復帰なされたり?」

「ははっ、まさか! 頼まれた木材の搬入に来たんだよ。あいつらの弔いも済んで、俺も前も向かなきゃいけねぇしな。ところで、ふと湧いた疑問だったんだが……」

 クワトロは不思議そうな顔でロクドウとアンを見る。それは本来、誰もが抱くであろう疑問。トレースとゼロによる認知の操作が完全に解除された今になって湧き出てきたもの。

「お嬢ちゃん……あの時、俺の斧をすんなり持ち上げてたよな?」

「……あ」

 クワトロの家で話を聞いた時、ロクドウはクワトロの斧の下敷きになった。その後すぐに、アンはロクドウを助けようと斧を持ち上げた。若い見た目をした彼女が、戦士が扱う大斧を軽々と持ち上げたのだ。

「あんなヒョイと持ち上げられるもんじゃないぞ。あんた一体……うっ!」

 クワトロが突如頭を抱えたかと思いきや、何事もなかったかのように2人に礼する。ロクドウが「良いタイミングですねぇ」と小さく口にした。

 そしてクワトロは近場の椅子を引き寄せて座り込む。ロクドウはもちろん、アンも状況は察している。周囲を見渡すと、それまで賑やかだったギルドが無音となっている事、そして人々が微動だにしていない事が分かる。分かりやすく言えば時間が止まっているのだ。

「……おう、2人共お疲れさん。駄目だぜアンちゃん、その力は普段伏せとかねぇと。このクワトロって奴が犯人じゃなかったから良いものを、そうでなかったら警戒されてたぜ?」

「す、すみません班長。つい……」

「いえいえ、彼の反応を見たくて止めなかった私の判断です。お気になさらず」

 そうだったんですか!? と、アンは驚きを隠せなかった。自分の不注意までも探りの手段として利用するとは、その道のベテランというロクドウの評価をようやく納得できそうだった。

「じゃあアンちゃんの力に気づかなかったから、容疑者から外したって感じか?」

「それだけなら少し頭の回転が悪くなっていると思った程度です。他に挙げるとしたら、彼の住む小屋の外に小ぶりの斧があった事でしょうか。彼の怪我が嘘だとしたら、木を切るなら自身が使用していた大斧を使い回す筈。木こり用に斧を新調していた辺り、横着の痕跡はありませんでしたねぇ。ところで、帰還はいつ頃になりますか、デカ長?」

「誰がデカ長だ! ……悪いが、色々と手続きが滞っててな。もう半日くらい待ってくれ」

 今話しているこの男はクワトロではない。ロクドウとアンの上長に当たるファゾム側の人間だ。アンを始め周囲からは班長と呼ばれているが、デカという本名からロクドウからだけは『デカ長』という愛称で呼ばれる存在であり、現在あろうことかクワトロの体を乗っ取って2人と話している。

 これはチーターによる不正能力ではなく、権限の借用である。デカはこの世界の創造主とロクドウ達の仲介役であり、創造主権限を借りて一時的にクワトロの体を拝借しているのだ。こんな事を簡単に出来てしまうのは創造主の特権と言えるだろう。

 余談だがトレースから聞き込みを終えた後に、リガティにてロクドウが調べものを依頼した先も彼である。

「クライアントの創造主も喜んでたぜ。迅速に解決してくれて助かったってよ。しかもチーターだけじゃなく配布者もお縄にするとは、流石だなロクドウ」

「そちら側からの協力が手厚かったお陰とお伝えください。毎回これくらい協力的なら楽なんですがねぇ」

 創造主が協力的かはチーター捜査の効率に直結するのは言うまでもない。創造主が直接組織に依頼することもあれば、その眷属に当たる存在が依頼する場合もある。特に後者の場合だと『創造主に気づかれることなく秘密裏に対処してほしい』といった事情が含まれる場合が殆どだ。

 そうなると今回のようなアカウントBANという名のチート封じといった対策が出来ない、もしくは手続きに時間がかかるのでチーターを追い詰めるのに苦労するのである。

「今回の件で亡くなった面々を蘇らせることは出来ねぇが、彼らの名を継いだ子供達が後に産まれるよう手配したそうだ。成長につれて能力や才能も再現できるが、それはあくまでその子の選択次第。巡り合わせが良ければ『七星の団』が復活する……ということもあるだろうとさ」

 流石は創造主。やっている事は生まれてくる人間の情報編集と言って良い。これもまた創造主の特権だろう。その世界で生きる生物には過ぎた能力であると思わずにはいられない。

 とはいえ過度な介入はしない主義らしく、産まれた後の事については成り行きに任せる模様だ。今回チーターの逮捕に色々と協力してくれたのは、特例中の特例ということだろう。

「んで、トレースの取り調べが既に始まってんだが、大した情報は出無さそうだな。この世界に転生した瞬間に自分の役割を理解していたみたいで、どうやら意識がない内に配布者としての能力と役割意識を植え付けられたらしい」

「ほ、本当に取り調べの進行が速いですね。捕まえたのも数日前のことなのに」

「ああ、あの2人の魂を回収した宝石があるだろ? あれを本部にある専用の装置を使って、中にある魂の視覚情報なんかを含めた記憶をデータ化するんだよ。直接聞く必要もないから偽証される心配もないし、黙秘権もないから取り調べが爆速って訳だ」

「トレースの記憶からチーターにした転生者のデータを抽出できますから、それを創造主に提出すれば、後は創造主だけでチーターを処理できるでしょう。それだけでも収穫はあったと言えますかねぇ」

 ……何度説明されても信じがたいと、アンは班に所属する前の研修を思い出す。何でも生前の行動が全て記載されている閻魔帳から着想を得て、わざわざ仏教世界の地獄にいる閻魔大王に出向頂き共同開発したとか何とか。

 技術を秘密にするための方便だと思っているが真相は定かではない。分かるのはその装置の記憶の可視化精度は、本物の閻魔帳と同等を誇るとのことだ。

「プライバシーも何もあったものではありませんが、死者の魂に生者の人権など適用されませんからねぇ。死者には死者のルールがあるということです。それにしても、その方法で配布者を作っているとなると、配布者の記憶から彼女より上の存在を探るのは難しそうですねぇ……」

 転生させる過程で意識の植え付け、つまり洗脳が完了している。当人の記憶を抽出する技術を以てしても、意識のない状態で手を施されていたら手がかりを掴めない。相手も相手で尻尾を中々見せてくれないということだ。

「そう考えるとトレースも気の毒ですね……転生した途端に役割を押し付けられてたなんて。やりたくもない事を洗脳してやらせるなんて許されることではありません!」

「ああいや、トレースに同情する価値はねぇよ」

 水を差すようで悪いがとデカがアンの小さな義憤を諫め、アンも「え?」と間抜けな声を発してしまう。

「あの女、生前は工作員だ。他国に潜って自国の利益になるよう誘導や攪乱をする、いわゆるスパイだったんだよ。んで潜入先で捕まって処刑された後に配布者として魂を拾われたらしい」

「不正能力を使うにしても配るにしても、ある程度の適性が求められるのでしょう。生前から悪事に躊躇いがない人……とかですかねぇ」

 ……どちらの国の立場かでその善悪は異なるとはいえ、勝手に生前は罪のない人間だったと思ったらこれである。むしろ任務中に捕まったのなら生前と結末が変わらなかったということか。

 もっとも、記憶を残さないまま洗脳する技術がありながらトレースがその手法を伝えられていなかったということは、トレースを配布者に仕立てた側にとっても彼女は使い捨てだったのだろう。そういう意味では哀れではあるか。

「あと、ゼロが苺を栽培していたのもトレースに唆されたからだ。この世界にない新種の果物として売り出せば巨万の富を得られるっつってな。恐らく、それでゼロの自滅を狙ってたんだろう」

「苺で自滅? どういうことですか?」

「なるほど、異世界でも自分の好物を食べたいという横着かと思っていましたが、そういう意図もあったんですねぇ」

「……え、今のだけで分かったんですか!?」

 アンがデカに聞き返した一方でロクドウは納得したという。それこそ何か不正能力でも使っているのかと疑いたくなるが、優れた能力はチートと見分けがつかない事も多い……という研修で聞いたフレーズを思い出した。

「富を得るとまで行くと鉢植え栽培だけでは当然足りません。ですが農業の規模で多く生産するとなると相応の設備が必要になります。ビニールハウスとか土の保温機能とかの環境整備ですね」

 確かに現代日本で生産されている苺を農業で生産しようとなると、それ位の設備は必要になるだろう。そしてそれは、この世界の技術で再現できるかというと怪しい。ビニールという合成樹脂が開発されているとは、まず考えにくい。

「それらを理解せずに苺の生産をするために農場を作るとします。サンプル品として鉢植えで作った苺を金持ちに食べさせて味を気に入らせ、農場開設の為の金を借りるよう唆す訳です。ですが完成した農場で、いざ作ろうとしたら中々うまくいかない事でしょう。鉢植え栽培ならともかく、農業規模での生産となればトレースの気候変動術等は必須になりますからねぇ」

 ゼロが所持していたのは対象を即死させる魔眼だけで、それ以外の能力は全てトレースが所持していた。ゼロが何の知識もなく、何となく栽培して現代の苺を作ることができるものと錯覚させれば、スローライフの糧として目をつけることになる。

 鉢植えの苺程度の栽培なら上手くいくようにトレースが仕込み、農場規模の栽培については何も仕込まずにいれば、なるほど……後の流れは見えてくる。

「全く苺を作れず、借金も返せないという現実が突如として襲い掛かるわけです。一転して借金取りに追われる生活が始まり、後はその金持ちが勝手に始末してくれます。どこかのタイミングで、魔眼の力を秘かに没収しておけば完璧ですね」

「えげつねぇよなぁ自分の手は汚さねぇで。因みに生前でも任務中はこうやって、利用し尽くして用済みになった奴を別の誰かに始末させてたらしい」

 聞けば聞くほど、トレースという女が配布者として選ばれた理由が分かる。適正バッチリの天職だったのではと思う程だ。やっぱり同情はいらないかもしれない。

「な、なるほど……やっぱり転生には、生前の行いが強く影響されるってことなんですね」

「例外はもちろんありますが、基本的にはそうです。我々だって生前の経歴からファゾムへスカウトされたわけですしねぇ。そこで転生における倫理観等を新たに叩きこまれるから、我々はチーターを悪として認識できる」

「そうだな。転生者ってのは、基本的に一度死んでいる。そのせいか、生死感ってのが歪んじまう奴が多いんだ。何せ死んでからの生き返りを経験しちまったからな。だから平気で周囲の人間を巻き込んで死人を作るんだ。実際、そんな簡単に転生なんて出来やしねぇのにな」

 だからこそ容赦は必要ない。アンは研修でそう教わった。例え別の世界で別の存在として生きることになったとしても、命は一つだけと思えと。その命を軽々しく扱うチーターは、大量殺人鬼と変わらないと。余談だが『ファゾム』にも殉死というものは存在する。

「ま、死後に研修なんてもんがある俺らの方が特殊といえばそうなんだが。さて、業務連絡は済ませた。帰還の準備が出来たらまた連絡すらぁ」

 そう言うとデカは目を瞑る。数秒後、その体だけは残りつつもデカの気配だけが消えた。


「……ん? あれ、何聞こうとしてたんだっけ。まぁいいか」

 周囲の喧噪が蘇る。時間がまた動き出したのと同時に、クワトロの意識が戻ったようだ。どうも直前まで聞こうとしていた事も忘れさせてくれたらしい。創造主とデカのどちらの計らいかは分からないが、アンとしてはありがたかった。

「んじゃ、俺はこの辺で。縁があったらまた会おうぜ!」

 クワトロは晴れ晴れとした顔でギルドを去って行った。とは言え、この世界に滞在する時間も僅かだ。もうクワトロと会う事はないだろう。だがそれは即ち仕事を終えたという事。寂しさも多少あるが、胸を張って帰るべきだ。

「それにしてもチーターって、今みたいな事ができる創造主が手を焼く存在なんですよね。創造主側が作り上げた世界の法則を捻じ曲げるなんて、そんな事一体どうやって……」

「その世界に住む人間にはおおよそ不可能でしょう。だからこそ同等に超常的な力を持つ者が存在することになります。悪魔、魔王、そういっても差し支えはないですが正体が不明な以上、我々は『配布者』と呼んでいる訳ですね」

 ゲームのコードを解析してデータを書き換えるのとは訳が違う。物理法則や魔術理論を覆す力を操る、それを世界という規模で行っているのだ。まさに魔王と呼ぶに相応しい。

 が、実のところ組織の規模も首領の情報も不明なのである。一般的な悪魔や魔王のイメージで固定させるにはまだ早いため、配布者という身も蓋もない呼称を使っているのだ。

「今後、今回のように配布者と直接やり合う場面も増えてくるでしょう。状況に応じて攻めるにしても退くにしても、アンさん……あなたの力が鍵となる。私はそう思っています」

 ロクドウがそう言うと、アンは少し間をおいてから返答する。アンにはロクドウからの激励を、素直に受け止められない事情があった。

「……本音を言うとこの力に頼らず、ロクドウさんのように多くを自分で見極められるようになりたいんですが……。この力が皆さんのお役に立てるなら、全力を尽くします!」

 それでもロクドウにとっては、その返事だけで十分だった。自ら目標を立てつつ、己の力を受け入れる。その真っ直ぐな瞳には、怯えも迷いも見られない。


 かつて、とある世界にどこにでもいる普通の少女がいた。家族に愛を注がれ、共に恵まれたその少女の日常は、ある日を境に崩れ去った。

 誰も見た事のない怪物の襲来。その撃退の任に赴くのは軍隊ではなく、年端も行かない少女だった。その世界は、大いなる何かに選ばれた少女が怪物に挑む世界。子供が好むフィクションによくある、現代とは似て非なる世界だった。

 だからこそ、選ばれた少女の身体能力は超人的なものとなる。その世界ではその力が許される。本来ファゾムに目をつけられることも、創造主から不審がられる事もない。

 故にファゾムがその世界に来た理由は別の要因。少女の方ではなく、少女を選んだ側にチーターの疑惑が浮上したためだ。

 結論から述べれば、そのチーターが選んだ少女の中にアンがいた。そのチーターを突き止めた際、チーターが最後の足掻きとばかりに不正な力を行使。その結果、アンは超人的な力を常時発揮できるようになってしまった。

 その状態は創造主にも解除困難であり、それまでの日常生活を送るのが困難となった彼女を放っておくわけにもいかず、ファゾム側が運営する世界で保護することとなった。

 それから色々あって、彼女は成長しファゾムの門を叩く。何も知らない他人を騙すチーターを暴くため、その悪事を看破する力を得たいという思いと共に。

「……あの時の子供が、大きくなったものですねぇ」

「?」

 そして何の因果か、その案件にロクドウも関わっていたのだが、それはまた別のお話……というやつである。


「ではここからは少し真面目なお話を。今回のアンさんの仕事振りを振り返ってみましょう」

「うっ、よろしくお願いします……」

 早い話が上司からのジャッジである。犯人の捕縛はともかく、捜査に関しては全然貢献できていない気がする。ロクドウが気にしていたクワトロの証言も自分は重要視していなかったと、アンは頭の中でも振り返る。

「今回は初の任務とあって、色々と慣れない事もあったでしょう。ですがトレースのいた極寒地帯以外では特に音を上げることなく、しっかりついて来れていました。流石の体力と根性でしたねぇ」

「さ、流石に気温から身を守る力は持ってないもので……。そういえば、あの場でもロクドウさんって平気な顔してましたよね」

「まぁその辺は慣れです。これまで色々な世界を渡り歩いてきましたから、もうちょっとやそっとの環境では驚きはしませんよ」

 さすがベテラン捜査員。過去にどんな世界に行ったか聞いてみたいが、今はグッと堪えて話の続きを聞かねばならない。

「捜査に関しましては基本的に私が主導していましたが、時々飲み込みが早いときもありましたね。トレースと屋敷の肖像画の関係を話した時、すぐさま乗っ取りに気づきましたし。その辺りを踏まえて今回のアンさんは……」

 ロクドウはそこで合否判定の演出とばかりに間を置く。刑事ドラマで例えたりゲーム画面で例えたり、職業柄なのか単にロクドウが多趣味だからなのか分からない。だがアンは固唾を飲んでロクドウの口が開くのを待つしかなかった。

「……合格です。元々は私の肉体労働面を補う形での配置ですし、チーターに対する嗅覚等は今後養っていけば良いでしょう」

「は~~~……ありがとうございます」

 ギリギリなのだろうがロクドウに認められ、アンは肩の力が抜けてそのまま机に突っ伏す。そんなアンに、ロクドウは再び盃を近づける。

「では、これからもよろしくお願いします。アンさん」

 アンは慌てて盃を持ち、ロクドウと乾杯する。正式に相棒として仕事を続ける契機として。

 初めの頃のロクドウは仕事に対して情熱のない人かと思ったが、チーターを見分ける洞察力は本物だ。

 そしてゼロを拘束した時のあの態度。ロクドウのチーターを許さないという精神も、間違いなく本物だ。ならば今後、きっと沢山の経験を得られることだろう。

「……はい。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。ロクドウさん!」

 ロクドウとアンは再び互いの盃に酒を注ぐ。その様子はギルドを兼ねた酒場でバカ騒ぎをしている、その世界の住人と遜色ないものだった。


この度は最期までお読みいただき、誠にありがとうございます。

いわゆるお約束展開や露骨なメタ表現を素直に楽しめない性質から、

それらのアンチテーゼを元に本作を完成まで持っていくことが出来ました。


モチベーションと手応えがあれば続きも書いてみたいと思っておりますので、

よろしければ何かしらリアクション等いただければ幸いでございます。

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