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冒険者パーティー壊滅事件 File3

 3人目、ゼロの住む家は一転して住みやすい気候の地域にあった。リガティを出て太陽の光を浴びることのできる幸せを嚙みしめつつ、最後の元団員の住所へと向かう。

 これまで話を聞いた元団員2人から、七星の団の不審な壊滅についての情報に関する収穫は主に2つ。4人で仕事を受けるのはありえないという裏付けと、これから訪問するゼロという男の不信感だ。

 そしてロクドウがリガティで依頼した調べ物。クワトロとトレースの証言から、前例のある事件がないかを探らせてみたが、該当する例が1件あった。

「次の人が本命でしょうか、ロクドウさん」

「断定するのはまだ早いですが、良い話が聞けそうではありますねぇ」

 ゼロの住む家まで到着する。大きさはクワトロの小屋以上、トレースの屋敷以下の一般的な家屋。周囲に他の家はなく、広大な空き地の上に家がポツンと建っている。家の脇に畑がいくつかあり、これで自給自足をしているようだ。

「おや、苺ですか。綺麗に菜っていますねぇ」

「ちょっとロクドウさん、これから聞き込みするんですから……」

 扉をノックしようとした矢先、鉢植えに赤々と実った苺にロクドウは足を向けてしまった。アンが慌てて引き留めている内に、扉の方が開いた。家の前で話声が聞こえたから様子を見に来たこの家の主、ゼロのようだ。

「失礼、ゼロさんで間違いありませんか? 元『七星の団』団員の」

 直後ロクドウは何事もなかったかのようにゼロに接近した。突然の来訪者、そして友好的でありながら圧を感じやすいロクドウの接近にゼロは動揺する。そしてその動揺は、家の中へ案内された後も続く。『七星の団』が不審な全滅をしたと伝えた後は、露骨な程に。


「……とまぁ、これまでお話を聞く限り『七星の団』の評判は非常に良い物でした。だからこそ不思議なんですよねぇ。補給班として働いていたあなたが、どうして急にクビを通告されたのでしょう?」

「それは、その……そんなに働いてないからって言われて……」

「ほう。で、実際はどうだったのですか?」

 ゼロは何故かそこで沈黙する。特に黙る理由などない筈だが、視線が泳ぎ続け一向に返答が帰ってこない。

 アンから見ても、このゼロという男はあまりにも臭すぎた。クワトロやトレースと比べて態度が違いすぎる。古巣の全滅を知って動揺しているというより、自分たちが住処に来たことに動揺しているかのようだ。

 元『七星の団』補給班のゼロ。トレースの証言によると、彼は七星の団から突如としてクビを宣告された。理由は不明。それどころか彼の働きぶりを見るに、何故彼が団に入れたのかも不明とのことだ。

「そもそも疑問なのですが、個人の働きを評価した上での理由でクビにする場合、いきなり当日に通告するものでしょうか? 普通は一度警告して働き方を改めるよう促すものではありませんかねぇ?」

 そういった警告がなかったこともトレースからの証言で確認済みだ。ロクドウの疑問に、ゼロはまたも答えられない。急に告げられたクビ宣告に不満を持っているのであれば、ここは普通なら同意すべきところだろうに。

「ど、どうでしょう……あ、ほら、数字だけ見て成果が上がってない部署とかを一方的に切り捨てて、後から後悔することってよくある事なのでは?」

「100人1000人規模の大きな組織人事であればそれもあるでしょうが、『七星の団』は文字通り7人組のパーティーです。そのような大雑把な人事が適用されていたとは考えにくいですねぇ。現にあなたの他に団を抜けた2名は、団長と話し合った上で脱退していますので」

 人の入れ替わりが割とあった『七星の団』がそのような人事をしていたのであれば、評判としてギルドや他の冒険者たちに伝わる筈である。聞き込みをしてきた限り、ゼロが述べた、もとい捻りだしたとでも言うべきその可能性は限りなく低い。

「不思議な事に、あなただけが理由のはっきりしない解雇のされ方をしているのですよ」

「…………っ」

 ゼロに何か後ろめたい事があるのはほぼ確実だろう。ロクドウの問いに対して返答ができないのは、返答するわけにはいかない何かがあるから。

 そしてロクドウとアンの読みが正しければ、返答するわけにはいかない理由とは、そもそも『説明』することができないからだ。

「……実を言いますと、こういったパーティーの不審な全滅というのは他にも前例があったりするのですよ」

 ロクドウが切り口を変えた。アンもこれ以上の記録は無意味と悟り、裏でとある術を作動させる。このような流れになった場合の動き方は、この家に着く前に打ち合わせ済みだ。実はクワトロとトレースの家を訪問した時も仕掛けてはいたのだが、実際に作動させるまでいったのはここが初めてだ。

「ある人がパーティーから突如追放されました。働きが見えないという理由で追放されたのですが、実はその人は途轍もない力を持っていたのです」

 ゼロの瞳孔が開き顔面が青白くなりつつある。反応が本当に露骨というか、悪事に慣れていなさすぎる。さて、ロクドウの述べる前例を聞いたらどんな顔をするのやら。

「その力とは何と、視線に入った者を即死させるというものでした。しかも敵と味方を区別できる、まさに最強と呼ぶに相応しい力と言えるでしょう。そのパーティーが勝ち残れたのはその力があったから。その力の持ち主を追放したパーティーはどうなったか……お分かりですよね?」

「……っ!!」

 ゼロが突如机を叩いて立ち上がり、対面のこちらを凝視する。その瞳には、魔法陣のような模様が写っていた。豹変したゼロに対し、しかしロクドウは白々しく問いかける。

「……おや? どうされました? 急に我々を睨みつけて」

「……!?」

 ビンゴ。アンは心の中でそう呟いた。今のゼロの態度と動きは、ロクドウが今述べた力を自分が所持していると自白したに等しい。案の定ゼロは何故自分の力が発動しないのか、何故目の前の2人が即死しないのかという混乱を全く隠しきれていない。

 ゼロを問い詰めたら何かしら動きを見せるはず。ロクドウとアンはそれを見越して、自宅の周辺に封印の術式を仕掛けておいたのだ。来ると分かっているのなら、対策は容易にできるというだけの話である。

「続けますね。そこでその人にお会いして、こう尋ねました。その力があることを、何故彼らに告げなかったのかと。だってそうでしょう。その方は最強の力を持っていた。働きが悪いという追放理由に対して反論することが出来たはずなのです。なのにその人は、それをしなかった」

 ゼロはもはや怯えていた。ロクドウの言う前例が、ゼロには身に覚えがあるかのようだ。述べている前例の内容がゼロの力と違っていたら、ゼロに多少の安堵の色が見られた筈。ところがゼロが呼吸も忘れているのかという位に固まっているということは、大当たりということだ。事前に調べてもらった前例と、同じ手口だったことは間違いない。

 『即死魔眼』――敵を視界に入れて念ずるだけで発動し、文字通り即死させる能力。この能力であれば、クワトロとトレースが語っていた、倒す敵の目算がズレたり自分しか気づいていない敵が急に死んだことにも説明がつく。

 目にした敵が即死するということは、距離間を無視して敵を倒せるという事。それでは自分が相手を倒したと周囲が認識できるはずがない。だからこそトレースは敵が勝手に死んだと認識し、クワトロの目算がズレる結果となったのだ。

 能力の正体さえわかれば対策のしようはある。最強の能力と言っても、それを発揮できる根源を絶ったり等、やり方はいくらでもあるのだ。切り札というのは正体がバレるまでが強いのであって、バレた後は優位性が一気に揺らぐものである。

「反論しなかった理由……それは、追放されることが目的だったからです。不当な理由による追放を言い渡され、追放したパーティーはその後全滅。その結果を人伝に聞いてほくそ笑みたかったのです。もう遅い、ざまあみろ、とね」

 聞けば無茶苦茶な話である。所持している力に対して動機があまりにも弱すぎる。だが前例となった者たちは、その動機で実行する。してしまうのだ。

「信じられますか? 最強の力を持っていながら、その後は田舎でのんびりと暮らしていたのですよ。そのような小さな目的の為に、その人は複数人の死を誘導したのです」

 ロクドウの声が少し低くなった。

「……その人に更に問いかけました。そのような力をどうやって得たのかと。答えはしばらくありませんでした。どのような修行をしたのか、何か土地由来の神にでも授かったのか、だとしたらどこの神なのか。その人は答えることが出来ません。具体的な『説明』が出来なかったのです」

 説明が出来るかどうか。これは地味ながら非常に重要な要素である。事実であろうが嘘であろうが、人に納得をさせるには筋の通った説明が必要だ。それが出来なければ、例えそれが本当にあった出来事であっても信用されるか怪しくなる。

「なぜ説明が出来ないのか、可能性は大まかに2つ。その人に説明する能力が備わっていないか。……もしくは後ろめたい手段によって力を得たか、です。その人は後者でした」

 何故後者である場合は説明が出来ないのか。簡単だ。説明したら終わってしまうからだ。禁忌、犯罪、そういった非合法な手段を用いて得た手段など認められる訳がない。違法行為に走った者が罰せられるのは、どこの世界でも常識だ。国家なり教団なり、あるいはロクドウとアンの所属する組織なりに身柄を拘束されるのだ。

「ですので、逮捕しました。罪状は『不正能力使用罪』……恐らく聞いたことがないでしょう? ええ、この世界が定めている罪ではありませんので」

「え……あの……あんたたちは一体……」

 そろそろ潮時だろうとアンは思った。ゼロも自分たちが、この世界の住人ではないことに気づいている。そして恐らく、自分たちもゼロがこの世界の住人ではないと感づいていることにも。


「では改めて自己紹介を。我々の所属は王立調査団ではありません。『ファゾム』――またの名を、異世界不正捜査班という者です。大陸のあらゆる地ではなく、あらゆる世界に赴くという仕事柄、身分証とかそういった物はないので、一先ずこちらで信じて頂ければと」

 ロクドウが自分たちの身分を明かしたのに合わせ、アンが大き目の書簡を広げる。書簡にはロクドウが述べた、前例である逮捕者の名前や罪状、そして『生前の経歴』が事細かに書かれている。

 これはこの逮捕者が捕まる以前の経歴というわけではない。正確には、逮捕された世界の前にいた世界での経歴……すなわち、転生する前の経歴である。そう、この逮捕者は元の世界で死亡後に別世界に転生したのだ。

「最近は多いんですよねぇ、元の世界で出来なかった無茶苦茶な事を別世界でやろうという輩が。そしてそういった輩の経歴をまとめると、大体ロクな事をしていないんですよ。ねぇアンさん?」

「ええ、誰かに認められたい、あるいは見返したいという願望はあるのに努力をしようとしない人とか。もしくは犯罪として捕まることはないけれど悪事に走る人とかもいます」

 ロクドウに急に話を振られるも、アンは澱みなく答える。自分たちが追う犯人がどういう特徴が多いのかは、初仕事の前から頭に入っていた。

「例えば、オンラインゲームとかで公式が想定していない、あるいは禁止しているツールに手を出したりとか。あ、分かります? 今の例え」

 ゼロは答えることが出来なかった。この例え話に首を傾げない辺り、通じなかったわけではなさそうだ。あるいは身に覚えでもあったのか。顔面蒼白なゼロのこの反応は、少なくともその名称に覚えがあるようだ。

 となれば、ゼロの出自はおのずと絞られる。地球という世界の、その顔つきからして西暦2000年台の日本という国の出身だろう。この世界は魔法という概念は創作上のものでしかなく、逆に科学という概念が大きく発達している。

 そんな科学という概念が発達した世界の娯楽に、ゲームというものがある。板もしくは箱状の物にあらゆる情報を映し出す技術を用いて架空の空間を作り出し、そこで戦ったり別の生活を疑似体験したりできるのだ。

 戦っても自分が怪我をすることはなく、勝っても負けても死人は出ない。そして国と国が違う程の距離を隔てていても同じ時間を共有することが出来るという、おおよそこの世界では考えられない形式の娯楽といえる。

 ところが、そんな娯楽を台無しにしてしまう要素が存在する。それは娯楽を設計した者が想定していない要素を混入させ、能力の限界を超えたり指定されているルールを破ったりと無法を働く者だ。

 その者たちは他の参加者が持てない能力を用いて、それで勝負事に勝とうとする。自分だけが他より優れた条件を作り出せるのだから、それは勝率が跳ね上がる事だろう。だが、それは明確な不正行為、平たく言えばズルである。

 そしてそのような要素の総称を『チート』と呼び、それを使用する者の事を――

「そういう人たちの通称にあやかり、私たちは彼らを『チーター』と呼称しています。我々『ファゾム』は『チーター』を追跡し、その世界から排除することを目的としています」

 ゼロがそのチーターであることは、これまでの反応から見て疑いようがない。チーターはその世界のルールを壊す極めて厄介な存在ではあるが、対策を取ってしまえば対処は可能だ。

 そしてチーターはチートの能力に依存するのが殆どであるため、対策を取られてしまうと途端に無力になる。頼みの能力を既に封じられたゼロは、もう何の対抗手段も持ってはいないだろう。

(けど、あれがロクドウさんの言ってた横着なのかな……?)

 ゼロが急に立ち上がってこちらを睨んだのは『即死魔眼』のチート能力で自分たちを始末しようとしたのは明らかだ。しかしそれは、その能力の本来の使用用途である。便利であるが故の横着とは言い難い。

「っ――!」

「あ、待ちなさい!」

 ゼロが再度突如として立ち上がり、窓の方へと走る。出入口の扉はこちら側に近かったため、より近くにある窓から逃げようとしたのだろう。

 ゼロの動きに素早く反応したアンが、窓に足をかけようとするゼロを取り押さえる。逃亡するというのならクロであると見て良い。

「確保! 大人しくしなさい!」

「さすが素早いですねぇ。私だけでは逃げられていたかもしれません」

 ロクドウがアンに拍手を送る。実際ロクドウが動いたのはアンよりも半秒ほど遅かった。それが年齢的な物なのか自分を当てにしての事なのかは分からないが、アンとしてはようやく仕事らしい仕事が出来た気分だった。

「え、あ? 今……」

 ゼロはアンに取り押さえられた後、特に暴れることはしなかった。逃亡時に目にした物をどう処理して良いかで混乱しているらしく、まともに言葉を出せていない。まぁ無理もない。ゼロが使うであろう不正能力対策の影響で、少し外の光景が違っていたのだ。


 さて、逃走を図った容疑者を確保したわけだが任務はまだ終わらない。これからゼロをファゾムの本部へと引き渡す仕事が残っている。それ以降の取り調べは別の部署の人間が行い、自分たちはまた別の世界へ赴くことになるだろう。

「ええ、お陰様で犯人の確保ができました。ご協力感謝いたします」

 ロクドウがリガティで用いていた板で誰かと通話している。今更だが、あれは離れた相手と通話を可能にする道具であり、現代日本で言う所の携帯電話に相当する。携帯と違う点は面識のある相手であれば、同じものを相手が持っている必要がないこと。この世界においても念話による長距離連絡は可能であり、相手としては念話か何かによる連絡がきたという認識となる。

 先に本部への連絡は済ませているため、この世界で聞き込みをした相手に連絡をしているのだろう。アンは少し離れた位置にてゼロの拘束に意識を割いており、ロクドウが具体的に誰とどんな会話をしているのかまでは分からなかった。

「連行後に取り調べをするわけですが……ええ、ですので偽証も黙秘も出来ません。どんな関係者と面識があるのかも正確に分かります」

 ……こちらの取り調べ内容について語っている気がするのだが大丈夫だろうか。止めるべきかと思ったところで通話を終えてロクドウがこちらに戻って来た。

「あの……何か機密情報の漏洩をしていたように聞こえたのですが……」

「いえいえ気のせいですよ。では、本部の迎えが来るまでは街で待つとしましょうかねぇ」

 この世界の中であればリガティを用いて自由に動けるが、別の世界やファゾムの本部となると話は変わってくる。人間を別世界に転移させるという奇跡を成すには、相応の力の他にも色々と必要なのだ。

 というわけで、現在はロクドウ達が依頼を受けたギルドのある街へと戻ってきている。ゼロの身柄を拘束したまま、宿を取って時間を潰すこととなった。

 リガティ内で時間を潰せればいいのだが、ファゾムに所属していないゼロを長時間あの空間で拘束するは推奨されない。前述したように星空が見えるとはいえ基本的に無の空間であるリガティは、一般人からすれば発狂しやすいのである。

「アンさん、残念なお知らせです。どうも宿が満室だそうで……今日は街の外で野宿となりそうですねぇ」

「え~!? 私は良いですけど、せめてゼロの身柄を預けることって出来ないんですか?」

「今回の事件の犯人としてギルドに引き渡す手もありますが、その前にこちら側でチーターについての取り調べがありますからねぇ。今は彼が何故拘束されているのかは伏せておきたいのが本音です」

 ……というわけで予定変更。ゼロの身柄を拘束したまま、今日の所は野宿で時間を潰すこととなった。なお、本部の迎えが明日に来る保証はないらしい。何日もかからなければいいがと、アンはため息をつく他なかった。

「何も起こらなければ良いけどなぁ……」

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