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後編

森は、朝の光をわずかに透かしていた。

けれどその光は冷たく、木々の間を漂う霧は、まるで言葉を持たぬ誰かが静かに息をしているようだった。


踏み出すたび、落ち葉の音がやけに大きく響く。

鳥の声もない。足音と、自分の息遣いだけが森の静けさを乱していた。


ふと、背に何かの気配が触れた。

振り返っても、そこには何もなかった。

けれど、確かにあった。ぬるりと絡みつくような、“視線”だけが。


「……誰か、いますか?」


声をかけた。返事はない。

風もないのに、木々がざわめいた。枝がこすれ合い、低く唸るような音が耳に残る。


その先に、霧が途切れた場所があった。

木々の切れ目から淡く光が射し、少しだけ広がった道が見える。

空気が違っていた。境界線のような、ほんのわずかな“外”の気配。


そこに一歩、足を踏み出しかけて――リオは、立ち止まった。


理由は、わからなかった。

ただ、胸の奥がふいに疼いた。

懐かしい何かに触れたような、ひどく名残惜しい感覚だけが、そこにあった。


そのとき、風に乗って、やさしい香りが鼻をかすめた。

白い花――ナイールの家の近くに咲いていた、小さな花。


足元に、いくつもの白い花が咲いていた。

なぜここにあるのかはわからない。けれど、それを見た瞬間、不思議と心がほどけた。

ほっとしたそのとき、背後で風が吹いた。振り向くと、そこには誰もいなかった。けれど確かに、あの声が聞こえた気がした。


『……帰って……』


空耳だったのかもしれない。

けれどその声が、どこか切なく響いて、リオは歩みを止めた。


ふと、胸の奥に奇妙な感覚が残った。

まるで、許されたような――いや、見逃されたような。

けれどその意味を考える前に、村の灯が見えた。


ナイールが、門の前でこちらを見ていた。

何も言わず、ただ微笑んでいた。


「……おかえり」


その言葉が、どうしてだか、とても深く響いた。


「ただいま」


帰ってこられてよかった、何故かリオはそう思った。

胸のざわつきも、足元の冷えも、不思議と遠のいていった。


けれどその夜。また、夢を見た。

前よりもずっと深い水の底。誰かが泣いている声がする。


『……幸せに……行って……でも……帰って、お願い……』


壊れかけた祈りのような、誰かの声。

願いと執着が絡まり、ほどけきれずに胸に刺さった。


それが誰の声かはわからなかった。

けれど、ナイールの瞳の奥に見た孤独と、重なった気がした。


目が覚めたとき、リオはしばらく動けなかった。

夢の余韻が、胸の奥で微かに残響している。言葉は霧のようにぼやけていたが、その切実な声だけは、なぜか鮮やかに覚えていた。


(……あの声は、誰なんだろう)


問いに答える者はなかった。

外はすでに朝。いつものように鳥がさえずり、村は穏やかだった。

けれど、何かが――どこかが、微かに違っていた。


ナイールの態度は変わらなかった。変わらず優しく、変わらず静かで、変わらず傍にいることを選んでくれていた。

それが、逆に不安だった。

何かを悟られないようにするかのように、彼は一歩引いた場所にいる。それでも、必ずリオのそばにいるのだ。


「最近、よく眠れてない?」


ある日、ナイールが静かに尋ねた。

リオは少し驚いたあと、苦笑した。


「……夢を、見るんだ。よく覚えてないけど、なんだか、泣きたくなるような夢」


ナイールは一瞬、何かを言いかけたように見えた。

けれど、次の瞬間にはいつもの微笑みに戻っていた。


「そうか……きっと、心が疲れているんだよ」


「疲れるようなこと、してないけど」


「心って、不思議だから。何もないようで、いろんなものを背負ってる。君がここに来たときから、ずっと……ね」


その言葉に、リオの胸がわずかに波打った。

けれど、何が引っかかったのかは、自分でもわからなかった。

ナイールは、まるで全部を見透かしているような口ぶりで、どこか遠い人のようだった。近くにいるのに、決して触れられない。


(……なんで、そんなふうに言うんだろう)


それでも、リオはその日も、彼の隣に座った。

この場所で過ごす日々が、少しずつ自分の一部になっていくのを感じながら。

そしてその夜も、夢を見た。遠くから誰かの声がする。


『……もう、いかないで……ひとりに、しないで……』


祈りとも、呪いともつかない声が、水の中を漂っていた。

リオはその声に、なぜだか胸が締めつけられるような痛みを覚えた。

目を覚ましたとき、頬に涙の跡があった。その理由を、リオはまだ知らない。

けれど、きっとナイールは知っている。


それでも、リオの前では一言も語らないまま、朝の光の中でいつも通りに「おはよう」と微笑んだ。

その笑顔の奥に、どれほどの孤独と欲望が眠っているかを――リオは、まだ知らなかった。




それから、さらにいくつかの朝と夜が過ぎた。

リオは、いつものように畑を手伝い、囲炉裏で火を焚き、時折、村の子どもたちと笑い合った。

日々の営みは穏やかで、心をゆるませるにはじゅうぶんだった。


けれど、ふとした瞬間に感じるのだ。木の影から誰かがこちらを見ているような、視線。

鳥のさえずりが止んだときにだけ、耳に残る微かなざわめき。たちの笑顔の、その奥に――沈黙があることを。


(……なんなんだろう、これ)


言葉にできない疑問は、まるで水の底から浮かび上がってくる泡のように、心の中でぱちぱちと弾けて消えていった。


ある日、リオはふと思い立って、村の外れにある祠を訪ねた。

小さな石の社。苔に覆われ、時折ナイールが花を供えているのを見かけた場所だった。


「ここ、神様でも祀ってるの?」


そっと問いかけたとき、隣にいたナイールは一瞬だけ動きを止めた。


「……うん。昔から、この土地を見守ってくれてる存在がいるって、言い伝えられてる」


「名前とか、あるの?」


「……ないよ。ただ、“神様”って」


言い淀むような、その言い方が妙に引っかかった。


「ナイールは、その神様を信じてる?」


「信じてるよ」


即答だった。

でもその声は、まるで“信じるしかない”とでも言うような、どこか切実な響きを帯びていた。

リオは、それ以上は何も言えなかった。


その夜、また夢を見た。

水の底。黒くゆらめく影の中で、誰かが震える声で囁いている。


『……君が幸せでいられるなら、それでいい……それで、いいはずだったのに……』


細い声。ひどく歪んでいて、泣きそうで、でも怒っていて――


『でも、きみが遠くにいくのは、いやだ……いやなんだ……』


ぐちゃぐちゃになった心が、そのまま言葉になっていた。

リオは夢の中で、その声に手を伸ばそうとした。けれど、影はその手を拒むように遠ざかっていく。


『……帰ってきて。帰って……こなくてもいい。……でも、でも、でも……』


声が重なる。矛盾した言葉が渦になって、心にまとわりついて離れない。


『いかないで……ここにいて……』


夢が終わる瞬間、リオは、目を開けた。

息が浅く、鼓動が早かった。

窓の外はまだ暗く、世界は静まり返っている。

でも――何かが、自分の名を呼んでいる気がした。


(誰かが……僕を、呼んでる?)


けれど、それが誰なのか、どうして呼ぶのか、わからない。

ただ、奇妙なことに――その声は、ほんの少しだけ、ナイールの声に似ていた。


次の日、リオはナイールに夢のことを話そうとした。

でも、口を開いた瞬間、彼が静かに首を振った。


「……話さなくていいよ。無理に思い出すと、辛いだろうから」


その言葉はやさしかった。

けれど、どこかで、夢のことを知っているような気がしてならなかった。


(僕が……ここに来た理由って、なんだったんだろう)


いつか話そう。そう思いながらも、リオは何も言えなかった。

ナイールの隣にいるのは、心地よかった。けれど、彼の静けさの奥にある何かが――だんだんと、怖くなりつつあった。


それからというもの、リオはナイールの隣にいる時間が、前より少しだけ長くなった。

言いようのない夢の気配、村の空気の薄いざわめき。そのすべてを打ち消すように、ナイールは変わらぬ穏やかさでリオに微笑みかけた。


ふたりで木陰に座って風に吹かれた午後。

小川の音を聴きながら、静かに並んで歩いた黄昏。


そのどれもが、どこか懐かしいもののようで――

リオはふと、自分がまるで「帰ってきた」かのような錯覚にさえ陥るのだった。


「ナイールって、ずっとこの村にいるんだよね」


ある日、ぽつりとそう尋ねたとき、ナイールはほんの少し、笑みの形を変えた。


「……うん。ここが、僕の場所だから」


「外に出てみたいと思ったこと、ない?」


「あるよ。でも――」


そこで言葉を切り、ナイールは視線を森の方へと向けた。


「……僕が離れると、いろんなものが壊れてしまうかもしれない。だから、ここにいる」


言葉自体はあくまで優しく、落ち着いていた。

けれどその瞳には、深く沈むものがあった。決意とも、諦めともつかない何かが。


「……偉いね」


そう言いながら、リオは心のどこかで違和感を覚えていた。

ナイールは、何かを守っている。けれどそれは――村を、だろうか?それとも、自分自身を?

問いの答えはわからぬまま、風が吹き抜けた。そしてその風の中で、確かに、遠くから声が聞こえた気がした。


『……いかないで』


リオははっとして振り返った。

けれどそこには誰もいなかった。



その夜、目が覚めると、村の外れで鈴のような音がしていた。

虫の声すら止んだ静けさの中、その音だけが風に運ばれてくる。


(……祠の方だ)


胸騒ぎがした。けれど、足は自然とそちらへ向かっていた。

祠にたどり着いたとき、そこにはナイールがいた。

薄い衣をまとい、静かに立ち尽くしている。灯籠の火が彼の白い頬を照らし、その目元には、ふだん見せない影があった。


「……起きてたんだ」


ナイールは、リオに気づいても動じなかった。


「ここで何してるの?」


「……祈ってた」


「何を?」


「……君が、ここで幸せでありますようにって」


そう言って微笑むナイールの表情は、どこまでも美しく、そして、痛々しかった。

リオは言葉を失ったまま、祠の隣に立ち尽くすしかなかった。

遠くで、また風が鳴いた。その声は、確かに――泣いていた。



そして翌朝。

村の空気は、ほんの少しだけ、重くなっていた。

その朝、村の空はどこまでも澄んでいた。

けれどリオは、目を覚ましたときから胸の奥に小さな石を抱えたような、妙な重さを感じていた。

昨夜見た、祠の光景が胸に残っていた。あのナイールの声。誰にも見せない表情。

――そして、風に紛れたあの泣き声。


(……気のせい、じゃないよな)


リオは顔を洗い、いつものように村の小道を歩いた。

けれど、どこかが少しだけ違っていた。畑の前で出会った老人は、今日は何も話さなかった。

井戸端で水を汲む少女たちは、視線を合わせるたびに笑みを引っ込めた。


(……なんだろう、これ)


やがて、広場に差し掛かったとき、リオはふと足を止めた。

ナイールがいた。子どもたちに囲まれて、笑っていた。

まるでいつもと変わらない、穏やかな朝のひととき。けれど、リオの目は、ふとあることに気づいていた。

ナイールの足元。土の上に、草が生えていない一角があった。そこだけ、不自然なほど真新しく、踏みならされたように固くなっていた。


(……あれ、祠の……)


昨夜、ナイールが立っていた場所と、そこが――寸分違わず。

まるで、そこだけがずっと時を止めていたように。あるいは、誰かが何かをそこに“置いていた”ような。


リオは、その場に立ち尽くした。

まぶしいほどの陽光の中で、一人だけ取り残されたような気持ちだった。


「リオ」


名を呼ばれ、顔を上げると、ナイールが微笑んでいた。


「散歩する?」


「……うん」


答えながら、心のどこかで自分が演じていることに気づいていた。

“いつも通り”のふりをして、今までと変わらぬ顔をして――

それでも、ナイールの手が差し出されれば、自然とそれを取ってしまう。

柔らかく、温かく、心地よくて――恐ろしい。

並んで歩く道。風が梢を揺らし、鳥がさえずる。何もかもが、あまりに美しくて、完璧すぎて。


(……本当に、ここは現実なんだろうか)


そのときだった。

森の奥から、かすかな声が聞こえた。


『……帰って……でも、いかないで……どうして……』


涙と祈りが混じったような、優しいけれど壊れたような声。

離そうとして、でも手放せない――そんな、矛盾した感情の塊が、耳に触れた気がした。

リオは立ち止まった。ナイールも立ち止まり、リオを見つめた。


「……どうかした?」


「……ううん、なんでもないよ」


けれど、胸の奥に刺さった棘のようなものは、抜けなかった。

どこかで、何かが、確実に軋み始めている。けれどその正体には、まだ触れることができなかった。



夜が訪れるのが、妙に早く感じられた。空はまだ薄明るいのに、森の影は深く、村の灯りがぽつぽつと灯り始める。

リオは家の縁側に座って、ぼんやりと遠くの木々を眺めていた。

気づけばナイールが隣に座っていた。


「今日は、たくさん歩いたね」


「うん……」


短い返事のあと、ふたりのあいだに沈黙が落ちた。

けれど、静けさはどこか優しかった。虫の声。風の音。土の匂い。

リオは少しだけ、ナイールの肩にもたれた。それは、ごく自然な仕草だった。


「……ねえ、ナイール」


「ん?」


「君は、ずっとこの村にいるの?」


問いかけに、ナイールはほんの少しだけ首を傾げた。


「うん。ここが、僕の居場所だから」


「……出たいと思ったことは?」


「ないよ」


間髪入れずに返された言葉に、リオは視線をそらした。

ナイールはやさしい。何もかもを受け入れてくれて、何も求めない。

けれど、どこかで“境界”を越えさせてくれない感覚がある。


(まるで……この場所に、閉じ込められてるみたいだ)


そんな考えを抱いてしまったことに、リオ自身が戸惑った。

ナイールが、こちらを見ている。微笑んでいるはずなのに、どうしてだろう――

どこか、すがるような目をしているように見えた。



その夜。リオはまた、夢を見た。

森の中を、誰かの足音が駆けていく。

それを追うように、風がざわめく。

誰かが泣いている。誰かが呼んでいる。


『……返して……帰らないで……もう、……しないから……』


声は必死だった。

引き止めたいのに、突き放さなければならない矛盾に、苦しむような声。

その声に、リオは胸が締めつけられる思いがした。


(誰かが……誰かが、助けを――)


その瞬間、夢のなかの視界がふっとひらけた。

目の前に、白く光る“何か”が立っていた。人のようで、人ではない。

優しさと哀しみと、言いようのない“空っぽさ”をまとった、それは――


「――!」


目が覚めた。

額に汗を浮かべ、リオは荒く息を吐いた。

深夜の部屋。虫の音すらしない静けさの中で、ただ、自分の心臓の音だけが耳に響く。


(……何かを、思い出しそうだった)


けれど、その何かに触れるのが、怖かった。

リオは毛布をかぶり、まぶたを閉じた。ナイールの顔を思い浮かべる。あの穏やかな、やさしい笑顔を。


(……きっと、大丈夫)


――そう思いたかった。


朝が来れば、また日常が始まる。村は変わらず、美しく、静かで、優しく――

そう、自分に言い聞かせるようにして、リオはもう一度まぶたを閉じた。


やさしい夢の続きを探すように、そっと息を吐いて、静けさに身を沈める。

――そのときだった。戸の向こうから、微かな音がした。


「……?」


部屋の戸が、ゆっくりと軋んでいる。

気のせいだろうかと思った。けれど、次の瞬間、何かが闇の中から手を伸ばしてきた。


――冷たい手だった。感情のない、沈んだ瞳だった。


「……ごめんなさいね。これで、終わるの……」


それは、あの穏やかな笑顔を見せていた村人のひとりだった。

今はもう、誰かが取り憑いたような様子で、刃のようなものを手にしていた。


「毎日が同じで……もう、無理なの。呪いが解けるなら、誰でも……」


ぶつぶつと呟くその声は、意味の通らないようで、なぜか奇妙に理にかなっている気がして――寒気が走った。

リオは咄嗟に飛び退き、身をかわす。


「待って……どういうこと?」


「あなたを、ナイール様に……きっと、それで、変わるから……!」


その言葉に、リオの胸がつんと締めつけられた。

混乱する思考のなか、突如として空気が変わった。

部屋を包む気配が、重く、深く――何か“神性”に似たものを孕んで、満ちていく。


「……やめなよ」


声が響いたのは、闇の奥。

けれど、その響きはどこか、森の奥底にも似た深さを持っていた。


ナイールが立っていた。

美しい姿のままで、けれど、その目には怒りも哀しみも映っていた。


次の瞬間、何が起こったのかわからないほど静かに、その村人は膝をつき、そして――消えた。

誰も語らなかった。次の日から、その村人の姿はどこにもなかった。

そしてその翌晩、リオはナイールに問うた。


「……ねえ、ナイール。この村、おかしいよ。みんな何かを隠してる。あの人が言ってた“呪い”って、何?」


ナイールは少しだけ目を伏せた。


「……僕は、この土地の“主”なんだ。ここに縛られている。この地に満ちる、信仰と、記憶と、契約によって」


「“主”って……」


「土地神、って呼ばれることもあるよ」


その一言で、リオはすべてを悟った気がした。

これまで感じていた違和感。人々の沈黙、同じように繰り返される日々、外の世界を語らない理由――。


「君が来て、変わった。嬉しかった。でも……この村からは出られない。僕は、ここにいるものだから」


ナイールは静かに言った。

リオは、長く息を吐いた。ナイールのその言葉は、どこまでも優しく、どこまでも哀しかった。


「……だったら、僕が残るよ」


自分でも、何を言っているのかわからなかった。

でも、そう言わずにはいられなかった。


「外の世界に戻っても、きっと僕はもう……あの頃の僕じゃない。

ここにいる君を置いて、何もなかったように生きるなんて、できないよ」


ナイールの目が、大きく見開かれた。


「いいの……?」


「いいも悪いも、もう決めたよ」


そうしてリオは、この村に残ることを選んだ。

その後、村の空気は少しだけ変わった。

襲ってきた村人のことは語られないまま、彼女の家は空き家になった。誰も近づこうとはしない。

だが他の村人たちは、以前と同じように笑い、リオに声をかけた。

けれど、ふとした瞬間――目が合えば逸らされる視線、重く沈んだ沈黙、どこかで聞こえる低い祈りの声。

違和感は、やはり消えなかった。


それでも。

丘の上、揺れる木の下で、並んで立つナイールの隣にいると、すべてが夢のように思えた。


「リオ。君がいてくれるだけで、嬉しいよ」


ナイールがそう微笑むたび、胸の奥に、温かな灯がともる気がした。

だから、リオは信じることにした。この村での日々も、ナイールの笑顔も、すべて――本当の幸せだと。


たとえこの村が、二度と抜け出せぬ箱庭だったとしても。

リオの物語は、ここで幕を下ろす。やさしい終わりと、果てのない日々の中で。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

村の真相については、番外編でほんの少しだけ触れる予定です。

感想やブクマをいただけましたら、とても励みになります。


番外編は 6月9日 (月) 21:00 に投稿予定です。

もしよければ、そちらもぜひお付き合いいただけたら嬉しいです。


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