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地下最深部の死闘と目覚めの刻


1.絶体絶命!? 女王親衛隊「ロイヤルガード」の脅威

巨大な繭を守護するカマキリバチ――「ロイヤルガード」とでも呼ぶべきその存在は、以前戦った個体とは比較にならないほどの威圧感を放っていた。体躯は一回り大きく、黒曜石のような光沢を放つ外骨格は見るからに強固で、その鎌は殺意を剥き出しにアントたちを狙っている。そして何より、彼らは単独で襲いかかるのではなく、統率の取れた動きで、まるで熟練の騎士団のように連携して襲いかかってきたのだ。

「「「グシャァァァッ!!」」」

三体のロイヤルガードが同時にアントたちに襲いかかる。一体がアントに、一体がオルカに、そしてもう一体が後衛のラーネとホーク、ビバムを狙う。

「くっ…速いし、硬い!」

アントが【女王の威光】を発動させて拳を振るうが、ロイヤルガードはそれを軽々と鎌で受け止め、逆に鋭いカウンターを繰り出す。オルカも持ち前の巨体とパワーで応戦するが、敵の巧みな連携攻撃に翻弄され、なかなか決定打を与えられない。

ラーネの糸はロイヤルガードの素早い動きに追いつけず、ホークの矢も硬い外骨格に弾かれては火花を散らす。

「まずいぞ、こいつら、前の奴らとは連携のレベルが違う!」ビバムが叫びながら、モーガンとディグビーに指示を出す。「二人とも、敵の動きを分断しろ! 各個撃破に持ち込むぞ!」

モーガンとディグビーは即座に反応し、地面を隆起させて巨大な土の壁を複数作り出し、ロイヤルガードたちの連携を分断しようとする。しかし、ロイヤルガードはそれを読んでいたかのように、翼を使って壁を飛び越えたり、壁を足場にしてさらにトリッキーな攻撃を仕掛けてきたりと、一筋縄ではいかない。

「ちくしょう!空を飛ぶ上に、頭もキレるのかよ!」ディグビーが悪態をつく。

アントたちパーティは、かつてないほどの苦戦を強いられていた。

2.逆転の糸口は女王のオーラ? 繭の異変と一縷の望み

絶体絶命かと思われたその時、アントが全身全霊の力を込めて【女王の威光】を最大出力で解き放った。金色のオーラが洞窟全体を包み込むように広がる。

「きゅあああああああああーーーーっ!!!」

その瞬間、不思議なことが起こった。仲間たちの士気が爆発的に高まったのはもちろん、敵であるはずのロイヤルガードたちの動きが一瞬、ほんのわずかに乱れたのだ。まるで、アントの放つ「女王」のオーラに、彼らが戸惑い、あるいは何らかの共鳴を起こしたかのように。

「今だっ!」

ビバムはその僅かな隙を見逃さなかった。

「ラーネ、天井! ホーク、そこを狙え!」

ラーネは【運命の編み手】で、洞窟の天井の最も脆そうな部分に網状の糸を瞬時に張り巡らせる。そこにホークが【絶対空域】で精密な狙いを定め、矢を放った。矢は糸の結び目を見事に射抜き、仕掛けられたトラップが作動。天井から大量の岩石が降り注ぎ、一体のロイヤルガードを押し潰し、動きを封じた!

「よし!モーガン、ディグビー、残りの二体を分断しろ!あの落石を利用するんだ!」

モーガンとディグビーは、落石によって複雑に変化した地形を巧みに利用し、残る二体のロイヤルガードを完全に分断する巨大な土の迷路を瞬時に作り上げる。

「へへん、こっちだぜ、カマキリ野郎!」ディグビーが一体を挑発し、迷路の奥へと誘い込む。

モーガンも、もう一体のロイヤルガードの前に立ちはだかり、堅固な土の盾でその進攻を食い止める。

「オルカ、援護を!」

オルカは【深海の盟約】を発動。洞窟内に局地的な豪雨と濃霧を発生させ、ロイヤルガードの視界を奪い、羽を濡らしてその機動力をさらに削ぐ。水浸しになった地面はぬかるみとなり、敵の動きを著しく鈍らせた。

戦いの最中、広間の中央に鎮座する巨大な繭が、先ほどよりも激しく脈動し始めた。表面からは不気味な紫色の光が明滅し、まるで生きているかのように大きく膨張と収縮を繰り返している。その光を浴びたロイヤルガードたちは、さらに凶暴性を増し、力任せに暴れ始めたが、同時にその動きはどこか単調になり、連携も乱れ始めていた。

「繭の光のせいか…? 敵の動きが変わったぞ!」ビバムが叫ぶ。

3.死闘の果てに訪れる静寂、そして女王の目覚め

アントたちは、この繭の異変による敵の変化を、最後の好機と捉えた。

「今がチャンスだ!一気にかたをつけるぞ!」

ビバムの指示のもと、分断されたロイヤルガードを一体ずつ確実に仕留めていく。

ディグビーが誘い込んだ一体は、迷路の奥でアントとラーネの連携攻撃によって追い詰められ、アントの渾身の一撃で沈黙した。

モーガンが食い止めていたもう一体も、オルカの水流攻撃で体勢を崩したところを、ホークの連続精密射撃とモーガンの土遁の術による奇襲で打ち破った。

ついに三体のロイヤルガードを全て倒した時、アントたちは皆、満身創痍だった。あちこちから土煙が上がり、岩が転がり、水たまりができている。

「はぁ…はぁ…きゅ~…ハチミツ…」

アントはハチミツ切れでその場にへたり込みそうになるが、ラーネが懐から隠し持っていた非常食のドライフルーツ(貴重な甘味だ)を彼の口に押し込み、なんとか意識を保たせる。

「これで…全部か…?」ホークが荒い息をつきながら周囲を見渡す。

静寂が戻った広間。しかし、その静寂は長くは続かなかった。

中央に鎮座する巨大な繭の脈動が、心臓の鼓動のように激しさを増し、表面に大きな亀裂が走り始めたのだ。パキパキと不気味な音を立てながら、亀裂はみるみるうちに繭全体へと広がっていく。

そして、中から強烈な魔力と、これまで以上に濃厚で、どこか人を惑わすような甘美なハチミツの香りが漏れ出してきた。

「ついに…ついに、目覚めるのか…『地の底の女王』が…!」

ビバムが息を呑み、ゴクリと喉を鳴らした。

仲間たちも、疲労困憊の体に鞭打ち、それぞれの武器を構え直す。

やがて、繭は内側からの力によって大きく裂け、中から眩いばかりの黄金色の光が溢れ出した。あまりの眩しさに、アントたちは思わず目を細める。

光が収まると、そこには、ゆっくりと立ち上がる一体の人影があった。

それは、人間によく似た美しい女性の姿をしていたが、背中からは蝶の翅のような、しかしどこか蟲の節くれだちを感じさせる大きな翅が生え、頭部には繊細な触角が揺れていた。その手には、まるで王笏のように、黄金色の蜜が滴るしゃくが握られている。

長く閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がり、現れたのは、蜂蜜を溶かし込んだかのような、深く妖しい光を湛えた瞳だった。

「地の底の女王」が、ついにその姿を現したのだ。

女王は、しばし無言でアントたち七人を見据え、そして、鈴を転がすような、しかしどこか冷たい響きを帯びた声で、静かに口を開いた。

「……あなたたちが、私の眠りを妨げた…小さき者たちですか?」

その声は、洞窟の隅々まで響き渡り、アントたちの心臓を直接掴むような、抗いがたいプレッシャーを伴っていた。

新たな、そしておそらくは最大の戦いの予感が、彼らを包み込んだ。

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