空飛ぶ鎌と甘い罠!
1.奇襲!空飛ぶカマキリバチの脅威
洞窟の暗闇から飛び出してきたのは、全長3メートルはあろうかという巨大な蟲型モンスターだった。カマキリのように鋭く巨大な鎌状の前足を持ち、蜂のような黄色と黒の縞模様の胴体、そして薄く強靭な4枚の翅で不気味な羽音を立てて宙に浮いている。その複眼は爛々と赤く輝き、敵意を剥き出しにアントたちを捉えていた。
「「「「うわああああっ!」」」」
アントたちの間に衝撃が走る。
「な、なんだこいつは!? カマキリとハチが合体したみてえだぞ!」ディグビーが叫ぶ。
ビバムが冷静さを保とうと努めながらも声を張った。「みんな、散開しろ! 敵の動きが速いぞ!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、「カマキリバチ」とでも呼ぶべきそのモンスターは、凄まじい速さでホークめがけて突進してきた。ホークは咄嗟に木の枝から飛び退いたが、先ほどまで彼がいた枝は鋭い鎌の一閃でたやすく切断される。
「危ねえっ!」
「キィィィ!こいつ、狙いが正確だ!」ホークが冷や汗をかく。
ラーネが素早く【運命の編み手】で糸を放ち、カマキリバチの足に絡ませようとするが、モンスターは器用に身を翻し、逆に鎌で糸を切り裂いてしまう。
「私の糸がこんなに簡単に…!?」ラーネが驚愕する。
さらにカマキリバチは、尻尾の先から毒針のようなものを連続で発射してきた。
「伏せろ!」オルカが叫び、アントとビバムを巨体で庇う。毒針はオルカの硬い皮膚に数本突き刺さるが、幸い浅手で済んだようだ。
「ちくしょう、硬えし、空を飛ばれると厄介だ!」モーガンが悪態をつきながら、ディグビーと共に素早く土の壁を生成し、一時的にカマキリバチの突進を防ぐ。しかし、壁は鎌の一撃で大きく抉られ、長くは持ちそうにない。
「こいつ…ただの魔物じゃないぞ!」ビバムが戦況を分析する。「知性も感じる…!連携が取れていないと各個撃破されるぞ!」
2.七色の連携!反撃の狼煙を上げろ!
ビバムの檄が飛ぶ。
「ホーク!お前の目で奴の弱点を探せ!一点集中だ!ラーネ、直接攻撃は難しい!奴の飛行能力を奪うことに専念しろ!オルカ、水の力で攪乱し、奴を地上に引きずり下ろすんだ!」
「きゅ! アントもやる!」
「モーガン、ディグビー!防御と、奴を地上に誘い込むための地形操作を頼む!俺が合図する!」
指示を受けた一同は、即座に動き出す。
オルカが【深海の盟約】を発動させ、周囲の水分を凝縮。カマキリバチの周囲に濃い霧と粘り気のある水飛沫を発生させ、視界と飛行を妨害する。
「ボフッ!これで少しは動きが鈍るはずだ!」
カマキリバチは羽音を乱し、苛立ったように鎌を振り回す。
その隙を突き、ラーネはオルカが生み出した水を利用し、【運命の編み手】で水を含んで重くなった特殊な糸を編み上げた。それはまるで濡れた蜘蛛の巣のように、カマキリバチの翅に絡みつき、飛行バランスを崩していく。
「しゃあっ!どう、これなら少しは重いでしょ!」
「今だ、ホーク!」ビバムが叫ぶ。
ホークは【絶対空域】を発動。乱れたカマキリバチの動きの中から、複眼と頭部を繋ぐ僅かな関節部分――そこが弱点だと瞬時に見抜いた。
「そこだぁっ!」
狙いを定めた矢が、風切り音と共に放たれる。矢は的確に弱点を捉え、カマキリバチは甲高い悲鳴を上げて体勢を崩した!
「モーガン、ディグビー!」
ビバムの合図と共に、兄弟が動く。彼らはカマキリバチが落下しそうになる地点の地面を瞬時に隆起させ、硬い土の壁を出現させた。バランスを失ったカマキリバチは、その壁に激突し、地上に叩きつけられる。
「やったぜ、兄貴!」
「まだだ、ディグビー!」
完全に動きが止まったわけではない。カマキリバチはもがき、再び飛び立とうとする。
「アント、とどめだ!」
「きゅあああああああっ!」
アントは【女王の威光】のオーラを最大限に高め、強化された拳をカマキリバチの頭部めがけて叩き込んだ!ズシン、という重い音と共に、カマキリバチはついに動きを止め、巨体を横たえた。
3.戦いの後始末と、深まる洞窟の謎
激しい戦いが終わり、一行は息を切らしながらも、初めての本格的な共同戦線での勝利を分かち合っていた。
「やった…やったぞ!」ディグビーが興奮して叫ぶ。
モーガンも、無愛想ながら「…ふん、まあまあの連携だったな」と口元を少し緩めた。
アントは、倒したカマキリバチの体に近づき、くんくんと匂いを嗅いだ。
「こいつ…やっぱり、ハチミツ、たべた!お口のまわり、あまい!」
よく見ると、カマキリバチの鎌や口の周りには、微かに黄金色の液体――ハチミツが付着していた。
そこに、恐る恐る村人たちと村長がやってきた。彼らはアントたちの戦いぶりを遠巻きに見ており、その圧倒的な力と連携にただただ驚嘆していた。
「お、おお…なんと勇ましいお姿…!まさか、あの恐ろしい魔物を…!」
村長はアントたちの前にひざまずき、深く頭を下げた。「ありがとうございます!これで村は救われます…!」
ビバムが村長に、洞窟について尋ねると、村長は古い言い伝えを語り始めた。
「あの洞窟は、かつて『地の底の女王』なるものが封印された場所だと…女王は無数の蟲を従え、甘露を好んだとか…まさか、その封印が解けかかっているのでは…」
「女王…?蟲…?甘露…!」アントの目が再び輝き出す。「その女王様も、ハチミツいっぱい持ってる!?」
ラーネは「蟲を従える女王ですって?興味深いわ…その巣の構造も見てみたい」と研究意欲を燃やす。
ホークは「宝の匂いがするな…」と呟き、オルカは「ボフッ…(これ以上村が困るのは見過ごせない)」と静かに決意を固めた。
モーガンとディグビーも、地下の女王という言葉に何かを感じたようだ。「地下の女王…俺たちの知らない、地底の世界があるというのか…?」
「よし、決まりだな!」ビバムが一同を見回した。「この洞窟の奥を調査し、問題の根源を断つ!そして、あわよくば村のハチミツも取り戻す!」
(アントのハチミツへの執念が一番の原動力なのは間違いないが…)とビバムは心の中で付け加えた。
一行は村でしばしの休息を取り、食料や松明、そしてラーネがカマキリバチの甲殻から作った簡易な武具などの準備を整えた。モーガンとディグビーも、自分たちの得意な地下探索の道具を持ち出し、本格的に協力する姿勢を見せる。
それぞれのユニークスキルと特性を活かした役割分担――先導とトラップ解除はラーネとディグビー、戦闘の前衛はアントとオルカ、後衛と索敵はホークとモーガン、全体の指揮とサポートはビバム――を再確認し、一行は再び不気味な洞窟の入り口に立った。
「さあ、行くぞ! 我々の(そしてアントの)ハチミツを取り戻しに!」
ビバムの少しズレた号令と共に、七人の冒険者たちは、未知なる脅威と甘い誘惑が待つ洞窟の暗闇へと、その第一歩を踏み出したのだった。