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地下の流儀は穴だらけ?


1.戦いの後の腹ごしらえと、ぎこちない自己紹介

アースドレイクが地中深くへと引きずり込まれ、静寂が戻った陥没穴のそばで、アントたちとモーガン、ディグビーの兄弟は、互いに距離を置いたまま向かい合っていた。

「…おなか、すいた」

緊張感を破ったのは、やはりアントだった。強化された力を使った反動で、強烈な空腹感が彼を襲っていたのだ。

モーガンは少し眉をひそめたが、ディグビーが「兄貴、こいつら、あのデカいの倒すの手伝ってくれたし…」と小声で言うと、渋々といった様子で懐から乾燥させたキノコと硬い干し芋を取り出し、無言でアントたちの方へ放り投げた。

「きゅ! たべもの!」

アントは目を輝かせて飛びついたが、一口かじって「…あまくない。もっと、こう、とろけるやつ…」と不満げな顔をする。しかし、空腹には勝てず、結局は夢中で頬張り始めた。ラーネは乾燥キノコの保存状態を興味深げに調べ、ホークは「俺様はそんな泥臭いものは…」と言いつつも、アントが残した欠片をこっそりつまんでいた。オルカは、ディグビーが差し出した水筒(土で濾過したらしい水が入っている)を警戒しながらも一口飲み、「ボフッ…悪くない」と呟いた。

そんな様子を見ながら、ビバムが改めて口を開いた。

「私はビバム。こっちの食いしん坊がアント、糸使いがラーネ、空を飛ぶのがホーク、力持ちがオルカだ。我々は…まあ、見ての通り、ちょっと変わった旅の一行でね。君たちと同じ、『転生者』だ」

「てんせい…しゃ?」ディグビーがビバムの言葉を繰り返す。

モーガンは目を見開いた。「お前たちも…そうなのか? 俺たち以外にも、こんな姿に変えられた奴らがいたとは…」

ビバムは頷き、自分たちが森の中で拠点を作って生活していること、そして「土を操る二人組」の噂を聞いてやってきたことを説明した。

モーガンは腕を組み、厳しい表情で語り始めた。「俺たちはモーガン、こっちは弟のディグビーだ。地上は騒々しくて危険だからな。この土地で、ひっそりと二人で暮らしている。魔物も少ないし、何より静かでいい」

どうやら彼らは、地上での生活や他人との関わりを極力避けているらしかった。

2.ようこそ(?)秘密の地下帝国へ!

しばらくの沈黙の後、意外にもディグビーが口を開いた。

「なあ兄貴、こいつら、俺たちの巣に連れて行ってみないか? 面白いモン、見せてやろうぜ!」

「ディグビー!何を考えてる!地上人を、しかもこんな得体の知れない奴らを簡単に…」モーガンは弟を咎めるが、ディグビーはどこ吹く風だ。

「だってよー、こいつらの力、ちょっと面白そうじゃん? 俺たちの『アレ』、見せたらびっくりするぜ、きっと!」

ビバムもここぞとばかりに口を挟む。「我々も、君たちの生活に興味がある。何か協力できることがあるかもしれないし、逆に君たちの知恵を借りたいこともあるかもしれない」

モーガンはしばらく考え込んでいたが、やがて諦めたようにため息をついた。

「…分かった。だが、騒いだり、勝手なことをしたりするなよ。もし巣を荒らすような真似をしたら、即刻叩き出すからな」

こうして、アントたちはモーガンとディグビーに案内され、彼らの住処である地下の巣へと足を踏み入れることになった。

入り口は巧妙に隠された岩陰の穴だった。中は真っ暗で、ひんやりとした土の匂いが満ちている。

「きゅ~…くらい。せまい」アントは少し不安そうだ。

「足元に気をつけろ。慣れない奴はすぐに転ぶぞ」モーガンの声が暗闇から響く。

ディグビーが壁の一部を叩くと、そこにはめ込まれていた発光する苔がぼんやりと周囲を照らし出した。現れたのは、複雑に入り組んだトンネルと、いくつかの部屋らしき横穴だった。壁は硬く滑らかに掘り固められ、天井も巧みに補強されている。

「す、すごい…ビーバーの巣とはまた違う、見事な土木技術だ…」ビバムは感嘆の声を漏らす。

ラーネは壁の土の質感や、時折キラリと光る鉱石の欠片に目を奪われている。「この土、粘り気があって丈夫そうね。糸の補強にも使えるかしら…」

ホークは低い天井と狭い通路に終始顔をしかめ、「息が詰まる!早く外に出せ!」と不機嫌そうだ。

オルカは乾燥した空気に肌がカサカサするのを感じ、ビバムに「み、水…」と小声で訴えている。

そしてアントは、一番奥の部屋に山と積まれた乾燥芋や木の実の貯蔵庫を発見し、「きゅるるるる! たからもの、いっぱい!」と歓喜の声を上げ、モーガンに「勝手に食うな!」と叱られていた。

3.地下の知恵、地上の力、そして小さなトラブル

モーガンたちは、自分たちの巣の様々な工夫をアントたちに見せて回った。地熱を利用して常に温かい寝床、地下水脈から引いた清潔な水場(オルカは狂喜乱舞して頭から水をかぶっていた)、そして様々な種類の鉱石が眠る試掘坑。

「これは『灯り苔』。俺たちが育ててる。これがあれば松明もいらない」

「こっちの壁の向こうには、まだ掘り進んでいないが、鉄鉱石の鉱脈があるはずだ」

ディグビーが得意げに説明する。

その時だった。奥の食料貯蔵庫の方から、ディグビーの悲鳴が聞こえた。

「うわあっ!兄貴、大変だ!『土喰いアルマジロ』だ!」

駆けつけると、鋭い爪を持つアルマジロのような魔物が、貯蔵庫の壁を崩して侵入し、貴重な食料を食い荒らそうとしていた。

「くそっ、どこから入り込んだんだ!」モーガンが手甲を構える。

アルマジロは硬い甲殻に覆われており、モーガンたちの土の攻撃もあまり効果がないようだ。

「ここは俺たちに任せろ!」ビバムが叫んだ。

ラーネが素早く【運命の編み手】で糸を放ち、アルマジロの足元に罠を仕掛ける。魔物が足を取られて体勢を崩した瞬間、オルカが【深海の盟約】で近くの水瓶から水を呼び寄せ、高圧で叩きつけて動きを止めた。

「今だ、アント!」

アントは【女王の威光】を発動させ、貯蔵庫の狭い空間で(壁にぶつかりながらも)アルマジロに突進し、渾身の一撃を見舞った!甲殻にヒビが入り、魔物は怯んで後退する。

仕上げはホークだった。普段は役に立たないことが多いが、こういう一点集中の場面では頼りになる。【絶対空域】で魔物の甲殻の最も脆い一点を見抜き、天井の梁から正確無比な石つぶてを叩き込み、見事撃退した。

「…お前たち、なかなかやるじゃないか」

モーガンは、自分たちの巣をいとも簡単に守ってみせたアントたちの連携と能力に、素直に感心したようだった。ディグビーも「すげー!今のカッコよかったぜ!」と目を輝かせている。

ビバムはここぞとばかりに畳み掛けた。

「どうだ、モーガン。君たちの土を操る力と、我々の力が合わされば、もっと安全で、もっと豊かな生活ができるはずだ。例えば、君たちの掘削技術とアントの力があれば、新しい鉱脈もすぐに掘り出せる。ラーネの糸と君たちの土で、もっと頑丈な家も作れる」

モーガンは腕を組み、しばらく考え込んでいた。地上人と共に暮らすことへの抵抗感はまだある。しかし、弟の楽しそうな顔、そしてアントたちの持つ不思議な魅力と底知れぬ力は、彼の心を揺さぶっていた。

「…すぐに返事はできん。だが、お前たちの言うことにも、一理あるかもしれんな」

ディグビーは兄の言葉に「やったぜ!」と小さくガッツポーズをした。

「とりあえず、今日はここに泊まっていけ。話の続きは、また明日だ」

モーガンはそう言うと、自分たちの寝床へとアントたちを案内する。

4.新たな波乱の予感?

その夜、アントたちは生まれて初めて、モグラの巣穴で眠りについた。暗くて狭い場所が苦手なホークはラーネの作ったハンモックで窮屈そうにし、アントは乾燥芋を抱きしめて幸せそうに寝息を立てていた。

翌朝、アントたちが地上に戻ると、彼らの簡素な拠点の前で、一人の見慣れない村人が不安そうな顔で待っていた。その手には、一枚の羊皮紙が握られている。

「あ、あの…あなた方が、この森の奥に住むという『不思議な力を持つ方々』ですか?実は、私たちの村が…大変なことになって…どうか、お力をお貸しいただけないでしょうか!」

村人はそう言うと、深々と頭を下げた。

ビバムとアントたちは顔を見合わせる。どうやら、彼らの「ほのぼのとした日常」は、また新たな騒動に巻き込まれようとしていた。そして、その背後では、モーガンとディグビーが地上に出てきて、興味深そうにその様子をうかがっていた。

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