表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/46

地下の頑固者にご挨拶


1.噂をたどって、森の奥へ

ビバムがもたらした「土を自在に操る二人組」の噂は、アントたちのささやかな拠点に新たな波紋を投げかけた。

「つち、あやつる? どーやるの? たべれる?」

アントは相変わらず食料への関心が第一だが、その大きな瞳は好奇心でキラキラしている。

ラーネは、「土を操れるなら、家の基礎作りや畑仕事が楽になりそうね…私たちの糸と組み合わせたら、もっと頑丈なものが作れるかもしれないわ」と、実用的な面で興味津々だ。

ホークは、「ふん、土の中をコソコソ動き回る奴らか。俺様の【絶対空域】の前では、どんな隠れ方も無意味だがな!」と高飛車な態度を崩さないが、新しい能力者への対抗心(と少しの期待)が透けて見える。

オルカは、「ボフッ…(土の中は乾燥していそうだな…だが、面白い能力だ)」と、仲間が増えること自体は歓迎のようだ。

ビバムは、そんな彼らの反応に苦笑しつつも、内心では大きな期待を寄せていた。

(土木作業の専門家がいれば、この拠点の発展は飛躍的に進むはずだ。アントたちのユニークスキルも強力だが、それを活かすにはやはり専門知識と計画性が必要だ…)

「よし、決まりだ!その二人組を探しに行ってみよう!もし協力してくれるなら、これ以上心強いことはない!」

ビバムの提案に、アントたちは(それぞれの思惑はあれど)異論なく頷いた。

翌朝、一行は森の奥深くへと足を踏み入れた。先頭を行くのは、一応のリーダーであるアント。しかし、すぐに甘い香りのする木の実を見つけては脇道に逸れようとし、そのたびにラーネに糸で引き戻される。

「アント、ちゃんと前を見て!みんなをどこへ連れて行くつもりなの!」

「きゅ~ん…あまいの、あっち…」

ホークは上空を飛び回り(木の枝から枝へ飛び移りながら)、進むべき方向を指示しているつもりだが、時折見つけた美味しそうな虫を追いかけてコースを外れるため、あまり役に立たない。

「おい、そっちじゃない!このホーク様が見定めた道を行け!」

オルカは、持ち前の怪力で倒木や邪魔な岩をどかしながら進み、ビバムはそんな自由すぎる一行にため息をつきつつも、地形や植物の種類から噂の場所が近いことを感じ取っていた。

2.そこは不思議な穴だらけ!

数時間後、ビバムが記憶していた「大きな岩がゴロゴロしている場所」に到着した。そこは、確かに巨大な岩が点在し、地面は不自然に盛り上がったり、逆にぽっかりと穴が開いていたりと、奇妙な景観を呈していた。

「ここだ…間違いない。この土の盛り上がり方…明らかに何者かの手が入っている」

ビバムが慎重に周囲を観察する。

「きゅ? あな、いっぱい!」

アントは穴を見つけると、何か美味しいものでも隠されていないかと覗き込もうとする。その時、足元の地面がわずかに陥没し、アントはバランスを崩した。

「わわわっ!」

「アント、危ない!」

ラーネが瞬時に【運命の編み手】で糸を放ち、アントの体を絡め取って落下を防いだ。間一髪だった。そこは巧妙に隠された落とし穴だったのだ。

「シャーッ!何なの、ここ!?」ラーネが警戒を強める。

その騒ぎを聞きつけたのか、近くの土の山がモコモコと動き出し、中から二つの小さな人影が飛び出してきた。泥まみれの服を着て、頭には土を乗せたまま。手には鋭い爪のようなものがついた手甲をはめている。小柄だが、その眼光は鋭く、明らかに敵意を剥き出しにしていた。

「誰だ、お前ら!」

「俺たちの縄張りに何しに来た!」

片方は少し背が高く、声も太い。もう片方はさらに小柄で、甲高い声で叫んでいる。これが噂の元モグラの転生者、兄のモーガンと弟のディグビーだった。

3.地底からの刺客? 警戒とすれ違い

モーガンとディグビーは、アントたちを見るなり、地面を力強く踏みつけた。すると、彼らの足元から土の壁が勢いよく隆起し、アントたちの行く手を阻む。

「うわっ!?」アントが驚きの声を上げる。

「出ていけ! 地上人はうるさいし、日の光は眩しいし、大嫌いだ!」ディグビーがキーキーと叫ぶ。

モーガンは無言だが、その目は「これ以上近づけば容赦しない」と語っていた。

ビバムが一歩前に出て、両手を広げた。

「待ってくれ!我々は敵じゃない!少し話がしたいだけだ!」

しかし、モーガンたちは聞く耳を持たない。

「話すことなど何もない!ここは静かで安全な俺たちの巣だ!荒らすな!」

モーガンが再び地面を踏むと、今度はアントたちの足元から鋭い土の槍が突き出そうとした。

「危ない!」オルカがアントを突き飛ばし、間一髪で避ける。

「きゅ~!びっくりした!」

「もう、まどろっこしいわね!」

ラーネが痺れを切らし、【運命の編み手】で糸を放ち、土の壁を縛り上げようとする。ホークも「生意気な地ネズミどもめ!」と木の枝から小石を投げつける。

「やる気か、お前ら!」モーガンが唸り、地面が大きく振動し始めた。

「まずい!こいつら、本気だ!」ビバムが叫ぶ。

アントは、仲間たちが攻撃されそうになっているのを見て、カッとなった。

(僕の仲間をいじめるな!)

「きゅああああああっ!」

アントは【女王の威光】を発動させ、土の壁に向かって突進しようとした。金色のオーラがアントを包み込み、周囲の仲間たちの士気も高まる…はずだったが、モーガンとディグビーにはその効果は薄いようだ。むしろ、突然強大な力を感じて警戒心をさらに強めている。

4.予期せぬ共闘、そして…?

まさに一触即発の事態。その時だった。

グォォォォォォン!!

強烈な地響きと共に、近くの地面が大きく割れ、巨大なムカデのような魔物が姿を現した。その体長はオルカの背丈を優に超え、鋭い牙が無数に並んでいる。地中を好む「アースドレイク」と呼ばれる凶暴な魔物だ。

「「ちっ! アースドレイクか!」」

モーガンとディグビーは、アントたちへの敵意も忘れ、魔物に向き直る。彼らにとっても、アースドレイクは厄介な存在らしかった。

モーガンが叫ぶ。「ディグビー、挟み撃ちにするぞ!地面を引きずり込め!」

「わかってるよ、兄貴!」

二人は巧みに土を操り、アースドレイクの足元を陥没させたり、土の壁で進路を塞いだりするが、魔物の力は強大で、決定打には至らない。

「ぼ、ボフッ…(あれは、まずい…)」オルカが呟く。

ビバムが叫んだ。「こうしちゃいられない!あいつらも危険だ!手伝うぞ!」

アントたちは顔を見合わせ、頷いた。今は内輪揉めをしている場合ではない。

ホークが【絶対空域】でアースドレイクの動きを読み、弱点を探す。「奴の甲殻の継ぎ目だ!そこを狙え!」

ラーネが【運命の編み手】で粘着質の糸を魔物の足に絡みつかせ、動きを鈍らせる。

オルカは【深海の盟約】で地面を泥濘化させ、魔物の体勢を崩す。

そしてアントは、モーガンたちが作った土の壁を足場にして高く跳び上がり、【女王の威光】で強化された拳を、ホークが示した弱点めがけて叩き込んだ!

「きゅあーっ!」

アントの一撃は、魔物の甲殻を砕き、大きなダメージを与えた。

その隙をモーガンとディグビーは見逃さなかった。

「今だ、ディグビー!」

「おう!」

二人は同時に地面に手を突き刺し、土の力を集中させる。すると、アースドレイクの真下の地面が巨大な蟻地獄のように陥没し始め、魔物はなす術なく地中深くに引きずり込まれていった。やがて地響きは収まり、後には巨大な陥没穴だけが残った。

戦闘が終わり、一同はしばし呆然としていた。

最初に口を開いたのはモーガンだった。まだ警戒心は解いていないものの、その声には先程までの敵意は薄れていた。

「…お前たち、一体何者だ?なぜ、俺たちを助けた?」

ディグビーも、兄の隣でこわごわとアントたちを見上げている。

アントは、モーガンの問いに、いつものように満面の笑みで、しかし少しだけ成長した言葉で答えた。

「えっと…なかま、だから? あと、おなか、すいた!」

ビバムは、やれやれといった表情で空を見上げた。どうやら、この頑固なモグラ兄弟との付き合いも、一筋縄ではいかないようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ