表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

水鏡に映る心


1.水と氷の輪舞! 湖底神殿の美しき守護者たち

静寂のセレニティ・レイクの湖底、水晶で築かれた神殿の中央に鎮座する「水鏡の祭壇」。アントたちがその聖域に足を踏み入れると、周囲の清浄な水面が静かに波立ち、そこから水が意思を持ったかのように美しい女性の姿を形作った。それは、流れる水そのものを体現したかのような水の精霊、「ウンディーネ・ガーディアン」たちだった。その数は五体。それぞれが異なる水の武器――鋭い氷の槍、しなやかな水の鞭、渦巻く水流の盾――を手に、優雅な、しかし一切の油断も許さない動きでアントたちの前に立ちはだかった。

『……聖ナル水鏡ヲ汚ス定命ノ者ヨ……コノ先ヘ進ムコトハ許シマセン……』

『アナタ方ニ、深淵ノ叡智ト、鏡ニ映ル真実ヲ見極メル資格ガアルトイウノナラ……マズハ私タチノ試練ヲ乗リ越エテミセナサイ……』

ウンディーネたちの声は、まるで湖底から響いてくる清らかな湧き水のように、しかし有無を言わせぬ決意を込めてアントたちの心に直接届いた。

次の瞬間、ウンディーネたちは一斉に攻撃を開始してきた。無数の鋭い氷の礫が雨のように降り注ぎ、しなやかな水の鞭がアントたちの武器を的確に弾き飛ばそうとする。神殿内は水路や池が多く、足場も滑りやすい。ウンディーネたちはその水中や水上を、まるで舞うように自在に移動し、時には水の分身を生み出したり、濃い霧を発生させたりしてアントたちを翻弄する。

「うわっ!冷たい!くすぐったいよー!」

アントは、変幻自在な水の攻撃を避けようと甲板(神殿の床)を転げ回るが、ウンディーネの一人がそのアントの心に直接、囁くように語りかけてきた。

『あなたの心の中にある、一番大切なものは何ですか? それを失う覚悟は、あなたにはありますか?』

その問いかけは、まるで冷たい水が心に染み入るように、アントの動きをわずかに鈍らせた。

「ボフッ!こいつら、水の中では本当にやりたい放題だな!だが、水のことなら俺も負けんぞ!」

オルカは、水棲の元シャチとしての本領を発揮し、神殿内の水路に飛び込み、ウンディーネたちに猛然と戦いを挑む。水中での彼の動きは地上とは比べ物にならないほど俊敏でパワフルだが、ウンディーネたちは水の流れそのものを操るため、巧みに攻撃をいなされ、数の上でも不利な戦いを強いられる。

2.鏡に映るは己の心、試される叡智と揺るがぬ絆

「これは…シルフィード・ロードの試練とは全く性質が異なる!単なる力比べではないぞ!」ビバムは、ウンディーネたちの攻撃パターンと、アントに向けられた問いかけから、この試練の本質を見抜こうと必死に思考を巡らせていた。「シルフィード・ロードは『深淵の知恵と心の清らかさ』が試されると言っていた…!ただ倒すだけでは、道は開かれんのかもしれん!」

ラーネは、アントにかけられた幻惑的な問いかけに気づき、「ヌシ・オドロの涙」の宝玉を高く掲げた。宝玉から放たれる清浄な浄化の光が、ウンディーネたちの作り出す霧や幻影をわずかに打ち消し、アントの心の動揺を鎮める。さらに、ラーネは祭壇の中央に鎮座する、巨大な水晶の鏡のような祭壇本体――「水鏡」そのものが、ウンディーネたちの魔力の源であり、同時に何か重要なものを映し出そうとしていることに気づいた。

「あの水鏡…あれが鍵に違いありませんわ!でも、ウンディーネたちの攻撃が激しくて近づけません!」

エリアとホークは、エリアが持つ「風の紋章石」の力を使い、協力して強風を巻き起こし、ウンディーネたちが作り出す濃霧を吹き飛ばし、視界を確保しようと試みる。しかし、ウンディーネたちは次から次へと新たな水の壁や渦巻きを生み出し、容易には近づけない。

ディグビーは、水鏡の祭壇の周囲に点在する小さな石碑に刻まれた古代天空人の文字(ラーネがかろうじて一部を解読していた)と、ウンディーネたちの動きのパターン、そして水鏡に時折映し出される不可解な映像との間に、何らかの法則性や関連性があるのではないかと、必死に頭を悩ませていた。「くそっ、兄貴がいれば、こんな謎解きも一発だったかもしれねえのによ…!でも、俺だって、転生動物カルテットの一員だ!」

その間にも、ウンディーネたちはアントたち一人ひとりに、心の奥底に眠る不安や欲望、過去の後悔などを映し出すかのような幻影を見せ、精神的な揺さぶりをかけてくる。

『お前は本当に仲間を信じているのか?』『お前が求めているのは真実か、それとも都合の良い虚構か?』

しかし、アントは、そんなウンディーネたちの問いかけに、いつものようにあっけらかんと、しかし曇りのない瞳で答えた。

「僕の一番大切なもの?うーん…やっぱりハチミツと、ラーネと、ホークと、オルカと、ビバムと、ディグビーと、エリアさんと、おっきな樹さんと、ジン爺さんと、モーガン兄ちゃんと…それに、僕らの村のみんなと、美味しいもの全部!いーっぱいありすぎて、一つなんて選べないや!でもね、どれ一つなくしたくないし、全部僕が守るんだ!」

そのあまりにも純粋で、欲張りで、しかし力強い言葉に、ウンディーネたちの動きが、ほんの一瞬だけだが、確かに止まった。

3.真実の雫、水鏡の祝福、そして二番目の紋章石の輝き

アントの曇りのない答えと、仲間たちが互いを心の底から信じ、助け合いながらこの不可解な試練に立ち向かうその真摯な姿を見たウンディーネ・ガーディアンたちの表情が、徐々に人間的な、そして穏やかなものへと変わっていくのが分かった。

中央の巨大な水鏡の表面が、静かに波紋を広げ始めた。そして、そこに映し出されたのは、ウンディーネたちの攻撃的な姿ではなく、これまでのアントたちの冒険の軌跡――様々な困難を乗り越え、多くの人々や生物たちを助け、そして何よりも仲間との絆を深めてきた、彼らの偽りのない旅路だった。それは、彼らの行いが、打算や欲望ではなく、純粋な善意と勇気に満ちたものであることを、何よりも雄弁に証明していた。

『……あなたたちの心、その輝きと強さ、確かにこの水鏡に映し出されました……』

ウンディーネたちの声が、今度は優しく、そしてどこか懐かしむような響きを帯びて重なり合った。

『力だけでは真の叡智に至ることはできず、清らかな心なくして深淵の真実の姿を見ることは叶いません。あなた方は、その両方の資質を、確かにその魂に宿しているようですわね』

次の瞬間、ウンディーネ・ガーディアンたちの水でできた体は、するりとその形を解き、無数の清らかな水の雫となって水鏡の祭壇へと吸い込まれるように還っていった。すると、祭壇の中央から、まるで水底の月光を閉じ込めたかのような、深く、そして静謐な蒼い輝きを放つ水晶質の美しい紋章石――「水鏡の紋章石」が、静かに浮かび上がり、アントの手の中にそっと収まった。

その紋章石に触れると、心が澄み渡り、思考がクリアになるような、不思議な清涼感と安心感が全身を包み込んだ。エリアがそれを受け取ると、彼女が持つ風の紋章石と共鳴し合い、二つの紋章石が互いの力を高め合うかのように、淡い光のオーラを放ち始めた。

ウンディーネ・ガーディアンたちの代表らしき一体(最後まで残っていた最も大きな個体)が、完全に消え去る直前に、アントたちに最後の言葉を託した。

『残る試練は、北東の古代の森に眠る「地脈の祭壇」…。そこは、生命の根源たる大地の怒りと、揺るがぬ調和の力が試される場所。そして、マザー・クリスタルを蝕む「影の汚染」の力も、そこではより強く、より直接的にあなた方の心と体を蝕もうとするでしょう。しかし、あなた方のその強い絆と、曇りのない純粋な心があれば、きっと最後の試練も乗り越えられるはずです』

そして、意味深な言葉を付け加えた。

『…もし、かの賢者を探しているのであれば、地脈の祭壇の近くに、古の隠者が自然と一体となって暮らしているという言い伝えがあります。その者は、星の運行を読み、大地の声を聞くことができるとか…』

意味深な言葉と、最後の試練への警告を残し、ウンディーネ・ガーディアンたちは完全に水鏡の中へとその姿を消した。

二番目の試練を見事(?)乗り越え、水鏡の紋章石を手に入れたアントたち。残る祭壇はあと一つ。そして、ウンディーネが最後に残した「賢者」の言葉…。彼らのアトモス・ヘイブンを救うための冒険は、いよいよその核心へと近づいていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ