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湖底に眠る叡智の祭壇 静寂の湖と水鏡の試練


1.風の祝福を胸に、次なる一手は「水鏡の祭壇」

風詠の祭壇でのシルフィード・ロードの試練を見事乗り越え、最初の「風の紋章石」を手にしたアントたち。エメラルド色に輝くその紋章石は、天空人エリアが身につけると、彼女の風を操る能力をわずかに増幅させ、パーティー全体にも微かな風の加護――移動速度の上昇や、瘴気に対するわずかな抵抗力――を与えてくれるようだった。

「やったね、エリアさん!なんだか体が軽い気がするよ!」アントがぴょんぴょんと跳ねる。

「ええ、この紋章石の力…確かに感じます。シルフィード・ロードの祝福、そして皆さんの勇気の証ですね」エリアも、その手に輝く紋章石を感慨深げに見つめていた。

一行は祭壇でしばしの休息を取り、シルフィード・ロードから得た情報を元に、次の目的地について作戦会議を開いた。

ビバムがアトモス・ヘイブンの古地図(エルデ長老から託されたものだ)を広げ、エリアと顔を突き合わせる。

「シルフィード・ロードは、南西の湖底に眠る『水鏡の祭壇』が『静寂と深淵の知恵を試す』と言っていたな。そして、北東の古代の森の奥深くにある『地脈の祭壇』は『揺るがぬ大地との調和と生命の根源たる鼓動を感じ取る力』を試すと…」

ラーネが静かに口を開く。「水鏡の祭壇…伝承によれば、そこには古代天空人の失われた叡智や、水に関する高度な魔法技術の記録が眠っていると言われていますわ。マザー・クリスタルの汚染を浄化する上で、何か重要な手がかりが得られるかもしれません」

「ボフッ…(水の祭壇か…俺の出番かもしれんな)」オルカも、その大きな体で静かに闘志を燃やしているようだ。

「お水の中にある祭壇!? きっと、キラキラ光るお魚さんとか、プルプルの美味しいクラゲさんとか、いーっぱいいるに違いないよ!」アントの関心は、やはり食べ物に向いている。

「よし、それならば次は、アトモス・ヘイブンの南西部に広がるという大湖『静寂のセレニティ・レイク』の湖底に眠るとされる、その『水鏡の祭壇』を目指そう!」ビバムの提案に、一同は力強く頷いた。

2.静寂の湖への旅路、濃霧と幻惑の囁き

一行は、風詠の祭壇を後にし、エリアの案内で「静寂のセレニティ・レイク」へと向かった。アトモス・ヘイブンの東端に位置する風吹きすさぶ岩礁地帯から、南西部の湖沼地帯への道のりは、これまでとはまた異なる美しい、しかしどこか神秘的な景観の中を進むことになった。浮遊する島々を繋ぐ古代の石橋は苔むし、深い渓谷には時折虹がかかり、水辺には穏やかな性質の飛行生物たちが優雅に羽を休めている。

道中、風の紋章石が放つ微かな風の力が、一行の歩みを助ける場面が何度かあった。例えば、強風が吹き荒れる細い吊り橋を渡る際には、紋章石が風の流れをわずかに変え、安定した足場を作り出してくれたり、瘴気が漂う谷間を通過する際には、清浄な風のバリアのようなものが一行を包み込んだりしたのだ。

しかし、セレニティ・レイクに近づくにつれて、周囲の様相は一変した。太陽の光さえも遮るかのような濃い乳白色の霧が立ち込め始め、視界は数メートル先も見通せないほど悪くなる。霧の中からは、時折、美しい女性の歌声のようなものが聞こえてきたり、逆に不安を煽るような囁き声や、懐かしい故郷の幻影が一瞬見えたりと、旅人たちの心を惑わす不可思議な現象が起こり始めた。

「この霧…ただの自然現象ではないな。何らかの強力な魔法的な力が働いているようだ。皆、精神を強く持て!幻覚に惑わされるな!」ビバムが警告する。

ホークの鋭い目も、この濃霧の前にはその効果を十分に発揮できず、ビバムが取り出した方位磁石も、まるで狂ったように針がぐるぐると回転し続けている。

「なんか、この霧、綿あめみたいで美味しそうな匂いがするような…でも、食べたらお腹壊しそうな気もする…?」アントが鼻をくんくんさせながら首を傾げる。

「アント、気をつけて。それは危険な幻覚かもしれませんわ。決して気を緩めてはなりません」ラーネが、アントの手をしっかりと握りながら注意を促す。

3.湖底神殿への入り口、そして目覚める水鏡の守護者

エリアの天空人としての鋭い方向感覚と、ラーネが持つ「ヌシ・オドロの涙」の宝玉から放たれる清浄な浄化の光を頼りに、一行は濃霧と幻惑の囁きが渦巻く迷宮のような湿地帯を、慎重に、しかし確実に進んでいった。

そして、数時間に及ぶ困難な行軍の末、ついに彼らは霧の切れ間から、鏡のように静まり返った巨大な湖――「静寂のセレニティ・レイク」のほとりにたどり着いた。湖の水は、空の色を映して深い瑠璃色に輝き、その水底はどこまで続いているのか見えないほど澄み切っている。しかし、その美しさとは裏腹に、湖全体からは、何か近寄りがたいほどの静謐さと、深淵を思わせるような底知れない魔力が漂っていた。

エリアが湖畔に立つ、苔むした古代の石碑の前に進み出て、その表面に刻まれた天空人の文字にそっと手を触れた。そして、澄んだ声で古の言葉を紡ぎ始めると、石碑が淡い青色の光を放ち、湖の中央の水面が静かに渦を巻き始めた。やがて、その渦の中心から、まるで水晶で作られたかのような美しい螺旋階段が、ゴゴゴゴ…という荘厳な音と共にゆっくりと姿を現した。

「これが、水鏡の祭壇へと続く道…湖底神殿への入り口です。この階段は、心の清い者にしかその姿を見せないと言われています」エリアが、少しだけ誇らしげに説明した。

一行が、その神秘的な螺旋階段を慎重に降りていくと、やがて空気で満たされた巨大なドーム状の空間へとたどり着いた。周囲は厚い水晶の壁で湖水と隔てられており、湖の光がドーム内を青白く幻想的に照らし出している。そして、そのドームの中央には、巨大な円形の水晶盤がまるで鏡のように磨き上げられた祭壇――「水鏡の祭壇」が静かに鎮座し、そこからは清らかで、しかしどこか深遠な魔力が絶えず放たれていた。

しかし、一行が祭壇に近づこうとしたその瞬間、祭壇の周囲の水面が激しく泡立ち、そこから水が意思を持ったかのように形を変え、美しい女性の姿をした水の精霊――「ウンディーネ・ガーディアン」が複数体、音もなく現れた。その体は流れる水そのものでできており、手には鋭い氷の槍や水の鞭を握っている。

『……聖ナル水鏡ヲ汚ス定命ノ者ヨ……コノ先ヘ進ムコトハ許シマセン……』

『アナタ方ニ、深淵ノ叡智ト、鏡ニ映ル真実ヲ見極メル資格ガアルトイウノナラ……マズハ私タチノ試練ヲ乗リ越エテミセナサイ……』

ウンディーネ・ガーディアンたちは、優雅な身のこなしとは裏腹に、鋭い敵意をアントたちに向け、氷と水の礫を無数に放ってきた。

アトモス・ヘイブンの未来を賭けた、第二の祭壇の試練が、今まさに始まろうとしていた。


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