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計画って美味しいの?


1.森の奥の観察者

アントたちの「スイートホーム(仮)」でのドタバタな日々は続いていた。アントが【女王の威光】で掘った(というより力任せにえぐった)巨大な穴は雨水を溜め込み、ラーネが飾り付けと称して張り巡らせた糸は鳥を捕獲するトラップとなり、ホークが空から落とした食べかけの木の実から新しい芽が出始め、オルカが気まぐれに作った水たまりはカエルたちの楽園となっていた。お世辞にも計画的とは言えないが、そこには奇妙なバイタリティが満ち溢れていた。

そんな彼らの様子を、ここ数日、木の影からじっと観察している者がいた。小柄で身軽そうな男、元ビーバーの転生者、ビバムである。彼の目には、アントたちの行動はあまりにも無謀で、非効率的に映っていた。

(あの穴は危険だ。雨が続けば土砂崩れの原因になりかねん。糸の張り方も無駄が多い。水場も、もっと効率的に引けるはずなのに…)

ビバムは元々、計画性と合理性を重んじる性質だった。転生前、仲間たちと協力してダムや巣を作る際も、彼は常に最適な設計と手順を考えていた。だからこそ、目の前で繰り広げられる行き当たりばったりの開拓(?)作業は、見ていて歯がゆくて仕方がない。

(しかし…あの小柄なアントの馬鹿力、糸を操るラーネの器用さ、空を舞うようなホークの視力、そして水を操る大男オルカの能力…どれも規格外だ。もし、あれを正しく導く者がいれば…)

ビバムの胸に、かすかな好奇心と、お節介焼きなビーバー魂が芽生え始めていた。そして何より、彼らが時折見せる、仲間を思いやるような仕草や、困難に立ち向かう(そして大抵失敗する)ひたむきさに、どこか心を動かされていたのだ。

ついに意を決したビバムは、彼らが食料調達から戻り、今日の成果(主にアントが大量に抱えてきた甘い木の蔓)を巡って小競り合いをしているタイミングを見計らい、慎重に声をかけた。

「…もし。そこの君たち」

2.出会いは困惑と、ちょっぴりの期待

突然の第三者の声に、四人は一斉に動きを止めた。

「「「「!?」」」」

ホークが即座に木の枝へ飛び移り、「キィィ!(何奴!)」と鋭い声で威嚇する。ラーネは指先からキラリと糸を出し、臨戦態勢。オルカはアントの前に立ち、低い唸り声を上げた。アントだけは、口に木の蔓を咥えたまま、「きゅ?(だれ?)」とキョトンとしている。

ビバムは両手を上げて敵意がないことを示し、ゆっくりと姿を現した。

「私はビバム。見ての通り、君たちに危害を加えるつもりはない。ただ…君たちの『仕事』に、少々興味があってね」

彼はできるだけ穏やかな声で話しかけたが、アントたちにはまだ人間の言葉が流暢には通じない。

「しごと…? きょうみ…?」アントが首をかしげる。

「シャア…(怪しいヤツ…)」ラーネは警戒を解かない。

ビバムはため息をつき、地面に落ちていた木の枝を拾うと、地面に絵を描き始めた。それは、小屋の絵、そしてそこに流れ込む水の絵、さらにそれを防ぐための堤防のような絵だった。そして、アントたちが掘った穴を指さし、首を横に振る。

「これ、危ない。雨、たくさん、家、水浸し」

ビバムの拙いジェスチャーと片言の説明。しかし、数日前に自分たちが作った水たまりで小屋の周りが大変なことになった記憶が新しいオルカは、「ボフッ…(確かに…前も水が…)」と何かを察したようだ。アントも、自分の甘い食料が水浸しになるのは困る、と顔をしかめる。

ビバムは、彼らが少しだけ理解を示したことに手応を感じ、続けた。

「私、手伝う。家、もっと良くする。水、うまく使う」

そして、自分の胸を叩き、「ビーバー、得意、作る」と付け加えた。

ホークはまだビバムを疑わしげに見ていたが、ラーネはビバムの描いた設計図のようなものと、彼の手にある木製の道具(測量に使うらしい小さな道具)を興味深そうに見つめていた。アントは、「もっと良くする」という言葉に、「もっと甘いもの、見つかる?」と的外れな期待を抱いた。

3.雨降って、地固まる? 最初の共同作業

数日後、ビバムの心配は現実のものとなった。長雨が続き、アントたちが拠点とする小屋の周りはみるみるうちに水嵩が増し、彼らが掘った穴は巨大な水たまりと化して小屋に迫ってきたのだ。

「きゅああ!僕の寝床がー!」アントが水浸しになった乾草の上で叫ぶ。

「シャッ!糸が重くて切れる!」ラーネの補修した屋根も雨漏りがひどい。

ホークは雨で視界が悪く、苛立たしげに羽を震わせている。オルカは水が増えたこと自体は嫌いではなかったが、仲間たちが困っているのは見過ごせない。

「だから言わんこっちゃない!」

ビバムの声が響いた。彼はすでに濡れネズミになりながらも、的確に指示を飛ばし始めた。

「そこの大男オルカ!その力で水をあっちの低い土地に流せないか!?私が水路の目安を作る!」

ビバムは素早く土を掘り、水の流れ道を作り始める。オルカは最初戸惑ったが、ビバムが示した方向に【深海の盟約】の力で水を押し流すと、面白いように水が引いていく。

「よし!そこの小柄な力持ち(アント)!その岩をこっちに運んでくれ!堤防にする!【女王の威光】とかいうので、周りの奴らも手伝わせろ!」

アントはよく分からないまま「きゅい!」と返事し、近くにあった手頃な岩を持ち上げようとする。そして【女王の威光】を発動!…させようとしたが、空腹で力が出ず、ふらついてしまう。

「だめだこりゃ!」ビバムは頭を抱えたが、ラーネが機転を利かせた。

「シャア!(アント、これ食べて!)」

彼女は隠し持っていた甘い木の実をアントの口に放り込む。糖分を得たアントは元気を取り戻し、なんとか【女王の威光】を発動!すると、なぜかホークまでやる気を出して(?)、ビバムの指示通りに小さな石を運び始めた。ラーネも【運命の編み手】で糸を出し、ビバムが指示する場所にそれを張り、土嚢代わりに丸太を固定していく。

夜になる頃には、雨は小降りになり、小屋への浸水はなんとか食い止められていた。全員泥だらけで疲れ果てていたが、そこには奇妙な達成感があった。

「…ふう。まあ、今日はこんなところか」ビバムは息をついた。

アントは差し出された焼き芋(ビバムが焚き火で焼いた)を夢中で頬張りながら、ビバムに「びばむ…すごい」と片言で伝えた。ラーネも、ビバムが作った仮設の雨樋の構造を興味深げに調べている。ホークはぶっきらぼうに「まあ、お前の指示も悪くなかったぞ」と上から目線で言い、オルカはビバムに感謝するように鼻をすり寄せた(ビバムは濡れた)。

この一件で、アントたちはビバムの知識と計画性を認め、ビバムもまた、アントたちの素直さと、時にとんでもない結果を生むユニークスキルの可能性を再認識したのだった。

4.新しい生活のきざしと、やっぱり頭痛の種

雨上がりの翌日から、ビバムの指導のもと、本格的な拠点改修が始まった。といっても、それはアントたちにとっては「新しい遊び」のようなものだった。

ビバムが地面に描いた設計図(もはや芸術的な域に達しつつある)に従い、アントは土を運び、オルカは水路を整備し、ラーネは蔓や糸で建材を固定し、ホークは上空から指示(という名のヤジ)を飛ばす。

ビバムの加入で、彼らの生活は少しだけ「文化的」になった。食事は計画的に分担され(主にビバムが調理する羽目になったが)、寝床は雨漏りしないように補強され、作業にもある程度の分担が生まれた。

しかし、アントが甘い匂いに釣られて作業を放棄し森へ消えたり、ラーネが小屋の壁に芸術的な模様(ビバムに言わせれば構造的に無意味な装飾)を編み込み始めたり、ホークが一番高い場所にハンモックを作って昼寝したり、オルカが完成したばかりの水路で気持ちよさそうに水浴びを始めて作業を中断させたりと、ビバムの頭痛の種は尽きることがない。

「君たちなぁ…!少しは計画性というものを…!」

ビバムの説教は、アントたちには馬の耳に念仏、いや、蟻の耳に説法だった。

そんな騒がしくも充実した日々が続いていたある晩、焚き火を囲みながら、ビバムがふと呟いた。

「そういえば…この森の向こう側、大きな岩がゴロゴロしている辺りで、土を自在に操る奇妙な二人組がいるっていう噂を聞いたことがあるな。なんでも、モグラの化身だとか、違うとか…」

アントは「もぐら?たべれる?」と目を輝かせ、ラーネは「土を操る…便利そうね」と呟き、ホークとオルカは新たな「変な奴ら」の登場の予感に、少しだけ顔を見合わせた。

ビバムは、彼らの反応に苦笑いを浮かべながら、明日の作業計画に頭を悩ませるのだった。

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